第512話
「そうじゃの・・・」
「何とかなりませんか?」
「儂も、真田殿の力になりたいのじゃが、もし失敗してもそれに気付けぬじゃろうし、その時に陥る状況を考えるとの・・・」
「はぁ・・・」
此処はディシプル真田家隠れ家前の海岸。
俺はエヴェックに、ヴィエーラ教総本山への道を聞き出しに来ていた。
(エヴェックの言う通り、もし失敗すれば俺は無事では居れないだろうしな)
家族の安全は、必ず守ると国王が言ってくれているし、それだけでも俺的には十分なんだが、エヴェックはそれでは納得してくれないらしい。
「真田殿、分かってはくれぬか?」
「エヴェック様」
「儂とてそう長くは無い」
「・・・」
「王都の者達との関係も良好では無いアンジュと刃は、真田殿が居なくなれば、頼れる者が居なくなってしまうのじゃ」
「それは・・・」
エヴェックの言っている事が理解出来無い訳では無いが、俺の今決行し様としている事も子供達の未来の為のもの。
(リアタフテの秘術と関係無いとはいえ、刃も特別な力を持っている存在。其の力を狙われる可能性もあるんだ)
「儂の知り得る道は、真正面からの無数の手続きを要する道。その手続きは複雑なものが多いからの」
「それに紛れ込もうと考えているのですが」
「教団に魔力で真田殿を上回る者は居らんが、特殊な制御装置等も有るし、流石に無理じゃと思うの」
エヴェック曰く、教団側から外の世界へ出る為の手続きはそうでも無いらしいが、外の世界から総本山へと向かうのはかなり厳しい手続きの連続らしい。
(それが理由で、修行への道程が過酷なものになっているのか)
「通常なら、修行僧達は手続きを行いながら、許可が出る迄の間、その地点での修行を積んでいくのじゃ」
「結果として、総本山に着く頃には立派な僧侶になっていると」
「そういう訳じゃの」
理に叶っているといえばそうなのだろうが、面倒な道を作ってくれたものだ。
「裏道的なものは無いんですか?」
「う〜む・・・」
「・・・」
考え込む様な仕草をみせるエヴェックに、俺は若干の期待を込めて無言で続きを待つ。
「無い事は無い筈なのじゃが・・・」
「え?では・・・」
「勘違いせんでくれ。知っていれば、教えておるのじゃ」
「はぁ・・・」
「じゃが、儂は枢機卿とはいえ、あくまでもサンクテュエール内の最高司教の方が主で、国の中の事以外に知り得る事や、発言権は少なかったからの」
「そうですか」
「すまんの。ヴィエーラ教の枢機卿とは、総本山での昇格組こそが本流。重要な情報は其の一部の者達だけのものなのじゃ」
これ程の大国にも関わらず、サンクテュエールの最高司教の扱いがその程度のものとは・・・。
(宗教の特殊性とでもいうものなのか、俺には理解出来無い話だな)
ただ、エヴェックが頼れないとなると、他の道は何が有るか・・・。
「何だい?頼みってのは?」
「えぇ。ヴィエーラ教総本山への道の話なんですが・・・」
「・・・」
「裏のルートで、何処か良い道が無いかと思いまして・・・」
エヴェックからの道の聞き出しを諦め、次にやって来たのがシエンヌのところ。
彼女なら裏社会との関わりも多く、総本山への特殊なルートを知っていても不思議では無い。
それに・・・。
(この人が何を隠しているのかは分からないが、聖堂騎士団の話をした時もそうだったが、何かヴィエーラ教に思うところがありそうだし・・・)
其処らを考え、特別な情報が聞き出せないかという期待があった。
「それを聞き出して、どうするつもりだい?」
「乗り込んで行って、ルグーン達の一派に打撃を与えるつもりです」
「教団と戦争でもする気かい?」
「勿論」
「アンタ・・・」
「俺は子供達の未来を守りたいんです。敵が既に教団を完全に掌握しているなら、その全てを打倒します」
「馬鹿な事を・・・」
心底唖然とした様子のシエンヌだったが、仕方ないだろう。
(言っている事は無茶苦茶と分かるが、交渉の余地が無いのも事実)
その上で、既に教団全体が守人達のものなら、其れを壊滅させるのが最終目標になってしまう。
「アンジュや刃は・・・」
「既に陛下からの許可も得ています。国が安全を約束してくれます」
「・・・っ」
「中途半端をするのが一番危険なんです」
「それで・・・」
「相手は此方から撃って出るとは思っていません。今なら先制攻撃が打てます」
「教祖の暗殺でもするつもりかい?」
「必要ならば、汚名は背負いましょう」
「アンタ・・・」
真紅の双眸を見据え、はっきりと応える俺に、本気なのは伝わったらしい。
シエンヌは俺の視線から逃れ、静寂の底に落ちてしまう。
「シエンヌさん」
「・・・」
「お願いします‼︎」
俺の懇願する声だけが響く空間。
其処に新たな声が流れて来る。
「良いじゃないか」
「ブラート。アンタ・・・」
「ブラートさん」
声の主はブラートで、その表情は此処に俺とシエンヌが居る事。
そして、話の内容も分かっている様子だった。
「教えてやれば良いじゃないか?頭の知る道を・・・」
「・・・っ」
そんな彼の告げた言葉に、その表情を一瞬で恐ろしいものに変えたシエンヌ。
ブラートを見据える視線は、真紅の炎を滾らせていたのだった。
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