第510話


「どうしても、考えを改めんと言うか?」

「はい。此れは、既に決心した事でございます」

「う・・・、むぅ」


 俺からの返答に眉間に皺を寄せ、考え込む様な反応をみせる国王。


(怒りを抑えている様にも見えなくは無いが・・・)


「・・・っ」


 眼前の国王は感情をみせて来ないが、壁際に控えているケンイチは、この会談が始まってからの俺の発言に、かなりの不満を感じているらしく、此方は口出しこそしないものの、その感情は駄々漏れとなっていた。


(余程、俺の出した答えが気に入らないらしいな)


 今回の一件、国王はヴィエーラ教総本山への徹底抗議を約束してくれ、サンクテュエール国内からのヴィエーラ教締め出しに迄、言及してくれた。

 この決定は、アンジュやエヴェックとの関係もあるが、これからのヴィエーラ教との闘いの可能性も考えれば、かなり有り難いもので、俺としては納得だったのだが、俺としてはもう一歩踏み出したかった。


「どうしても、乗り込むというか?」

「はい。無論、此れは私個人で行うものです。決して、国に迷惑は掛けません」

「ふむ・・・」


 再度確認する様に、俺へと問い掛けて来た国王に、俺はその目を真っ直ぐと見つめ返しながら応える。


「てめぇ・・・」

「・・・ケンイチ将軍」


 俺の態度に、流石に我慢出来なくなったのか、国王の手前、控えていたケンイチが遂に歩み出て来た。


「其れは、ローズには相談しているのか?」

「いえ、まだですが」

「ならっ・・・」

「ですが‼︎」

「・・・っ」


 少しだけ声を張り上げた俺に、ケンイチは驚きの表情をみせ、この場に居る他の者達は二人の様子を固唾を飲んで見守っていた。


「今日、必ず陛下に許可を得て、ローズにも認めて貰います‼︎」

「てめぇ、何で・・・」

「此れは、俺の闘いです。颯や凪・・・、そして刃。子供達に此の闘いを残すつもりはありません」

「・・・」

「必ず、俺の手で決着をつけ、次の時代を子供達に渡します‼︎」


 ケンイチを見据え伝えた、偽り無き俺の思い。

 境界線の守人達、連中が幾千、或いは幾万居ようとも、次の時代迄も連中達が世の中を自由に闊歩出来る様な事は決してさせない。

 其れが、俺の出した答えだった。


「ふ・・・」

「陛下?」

「ふ、ふふふ、言いよったな、司よ?」

「はい・・・」


 二人のやり取りを静観していた国王が、突如として笑い出し、不敵な笑みを浮かべつつ俺を見て来た。


(探る様な視線がキツイが、イエス以外の返事は無いだろうな)


 俺の視線を受け止めつつ、一拍置いてから国王は・・・。


「良かろう。ならば、今回の件も含め、境界線の守人、そう呼ばれる者達との闘い、其れは全て、これよりお主に一任する」

「陛下・・・」

「必要な人員、物質、又は活動場所に他国領侵入等が必要な場合は全て儂に連絡を取れ、お主の望む全てを叶えてみせよう」


 一気に、俺への許可と協力を告げて来たのだった。


「ふふ、あの日、王都で初めて会った日。覚えておるか?」

「はい、勿論です」

「あの時は、絶大な才こそあれど、その双眸は雛鳥の其れだった」

「・・・」

「儂の命に楯突く様な素振り等無く、人の指示にのみ従うのを良しとしている様な瞳をしていた」

「は、はぁ・・・」

「其れが、ケンイチと揉めるて迄、自身の意思を貫こうとはな」

「・・・っ」

「どうじゃ、ケンイチ?」


 ケンイチへと面白そうな表情を向ける国王。


「・・・」

「ケンイチ将軍・・・」


 一瞬の無言の間を作ったケンイチだったが・・・。


「陛下っ」

「ん?」

「この度は、家の者の無礼、誠に申し訳ありませんでした」


 直ぐに、膝を突き国王へと深く頭を下げたのだった。


「ふふ、お主も律儀な奴じゃの」

「・・・」


 国王に気にした様子は無かったが、ケンイチは頭を上げる事をしなかった。


「ケンイチ将軍・・・」

「ふふ、必ず達成せねばならなくなったな、司よ?」

「はい‼︎」


 国王の問い掛けにハッキリとした声で応えた俺。

 国王はそんな俺の反応に、納得した様に頷いていたのだった。

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