第505話


「ヴァダー・・・‼︎」


 闘いを不本意な形で収めたが、相変わらず姿をみせないヴァダー。

 俺は宙を見据えながら、そんなヴァダーへと不満を示す声色で呼び掛けた。


〈何だ?〉

「何だ、じゃない‼︎」

〈ふむ・・・〉

「・・・っ」


 俺からの非難めいた態度にも、何という事も無いという態度のヴァダー。

 俺は、抑えきれない怒りを打つけ様としたが・・・。


「ヴァダー‼︎来てるの?」

〈うむ、久方振りだな、アクアよ〉

「久方振りじゃないわよ‼︎」

〈ふふ、すまぬな〉


 俺と話す時は、その感情を示さなかったヴァダーだが、アクアの声に応えた時には、その声は、父の様でもあり、母の様でもあるものになっていた。


「大体、私が目覚める瞬間は分かっていたくせに、その日に眠りに就く様な状態になっているなんて・・・」

〈其れは、此の者に言ってくれ〉

「何だと・・・」


 ヴァダーは姿をみせないし、視線や指で示した訳でも無い。

 ただ、俺にはヴァダーの言う此の者が、自身である事が理解出来たのだった。


〈先程から、不満気だな?〉

「当然だろ‼︎」

「つ、司・・・?」

〈ふむ?〉

「お前が力を貸していれば、俺はスラ・・・」

〈どうした?〉

「・・・っ」


 俺が、仮面の男の魂が、スラーヴァのもので有る事を明かして良いか迷い、言葉に詰まっていると、ヴァダーは何でも無い様に、続きを促す様にして来た。


(アクア達は、時期的にスラーヴァの事は知らないだろうが、ブラートは・・・)


「・・・」


 もう、彼に隠し事をする必要等無いと思うのだが、スラーヴァに関してだけは、何故か自身での決着を望んでいた。


「・・・もう良い」

〈そうか・・・〉


 俺の出した答えは、此処でヴァダーに助力を求める事は不自然。

 俺はヴァダーに打つけたかった不満を打ち切り、ヴァダーはそんな反応を読んでいた様な反応を示したのだった。


(ちっ‼︎そういう態度が気に入らないんだ‼︎)


 人の親としては下品だろうが、感情的に決して納得出来無い状況。

 そんな状況が、俺に心の中で悪態を吐かせた。


「司・・・?」

「・・・」

「ねぇ?どうしたの?」

「・・・」


 心配そうに俺を見上げて来るアクアだったが、アクアとヴァダーの関係を考えると今此処で会話をする気にならなかった。


「・・・」

「司っ」


 闇の翼の魔力を収め、地上へと降り立った俺に、駆け寄り心配そうな表情をみせたアクア。


「国王様」

「・・・うむ?」

「目覚めたヴァダーとの話も必要では無いでしょうか?」

「そうだな・・・」

「それは、後でも・・・」


 オーケアヌスは俺の態度に、話の流れを振っている事に理解したらしいが、アクアはそれでも俺の腕を心配そうに掴んで来た。


「すまない、アクア」

「・・・え?」

「俺も、外交官の方達を緊急連絡に連れて行き、その護衛をする必要があるんだ」

「・・・」

「それに、戦後処理に、俺やブラートさんが手を出すと、それが国民に知れた時に、サンクテュエールが良からぬ企みを持ち、此のタブラ・ナウティカに近付いたと思われるかもしれないしな」

「そう・・・」


 納得はしていないが、理解は出来た。

 そんな態度のアクアの手を優しく振り解き、俺は・・・。


「ブラートさん?」

「ああ。了解だ」

「では、国王様」

「うむ、後で遣いをだそう」

「はい」


 ブラートと共に、王宮中庭を後にし様とすると・・・。


「司‼︎」

「アクア・・・」

「遣いは私よっ‼︎」


 アクアは俺の眼をしっかりと見つめながら、そんな事を宣言して来た。


「良いわよね、お父様?」

「う、うむ・・・」


 俺の様子に、アクアとの接触を避けたい事を理解しているオーケアヌスは、応えに困っていたが・・・。


「・・・」

「ふっ」

「あぁ。分かったよ・・・」


 ブラートのアクアに対する反応に、不思議と心の中のわだかまりが解けた様に感じた俺。

 だが、きっと満面の笑みを浮かべているであろうアクアは見れず、背を向けたまま応えたのだった。

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