第501話


「本来なら投降は受け付けないところだが・・・」

「・・・」


 仮面の男と対峙する俺は、此奴からは魔法の件など聞き出したい事も有る為、僅かながら考える間を与えた。


「・・・」

「また、だんまりか?」

「・・・」


 先程迄の反応は無くなり、再び無言に戻った仮面の男に、俺は・・・。


「剣‼︎」

「・・・」

「なら、良いさっ‼︎」


 漆黒の双刃を背負い、朔夜を持って手に力を込め、男へと駆け出す。


「・・・っ‼︎」

「無駄だ‼︎」


 白夜の僅かに残る刃で、双刃を迎え打とうとする男だったが、それは朔夜の斬撃でさせない。


「ほら・・・」

「な⁈」


 諦めた男は光の双刃を詠唱するが、俺は魔力制御で漆黒の双刃を霧に変え、光の双刃と男の身体をすり抜けさせ・・・。


「よ‼︎」


 男の背後で再び剣の形を形成し、その背へ向けて刺突を放つ。


「ぐぅ‼︎」


 流石に正攻法過ぎたか、男は俺が漆黒の双刃を霧に変えた瞬間に、背後からの攻撃に対応を始めていて、肩と二の腕を掠めただけで、直撃をする事は出来なかった。


「付き合えって言っただろ‼︎」


 宙を翔ける男の背へと、怒号を発しながら追う。


「受け・・・」

「させん‼︎」

「っ・・・、鬱陶しい事を‼︎」


 ナヴァルーニイが地上から炎の魔法を詠唱しようとすると、それをブラートが矢を射て遮る。


「此方へ」

「させる訳無いでしょ?」

「行け、皆の者‼︎」

「「「はっ‼︎」」」


 ムドレーツが何やらアイテムポーチから取り出そうとしたが、アクアとタブラ・ナウティカ兵達に阻止された。


「どうやら、詰んだな?」

「・・・っ」


 男を追いながら、諦めさせる様な事を呟く俺。


(まぁ、父親譲りの炎を凍らせるアヴニールの氷は、生半可な方法じゃ、溶かす事は出来ないがな)


 そんな事を考えるが、対応を取られるのは面白い事では無い。


「剣‼︎」


 牽制の為に漆黒の刃を詠唱し、翔けて行く男へと放つと・・・。


「はぁ‼︎」


 男は一直線に自身へと飛んで来た漆黒の刃を、氷漬けの白夜で撃ち払うが・・・。


「ぐぅぅぅ‼︎」


 魔力を吸収する刃を封じられた白夜は、漆黒の刃と衝突すると、激しい衝撃が生じたらしく、男は吹き飛ばされない様に、光の翼への魔力を増していた。


「まだまだ・・・」


 小手先の手段は必要無いだろうと、俺は無数の漆黒の刃を詠唱し・・・。


「行くぞ‼︎」


 男へと目掛けて一斉に放った。


「ぐっ‼︎」


 それらを白夜と光の刃で迎え打つ男。


(この数だと、此奴は魔法吸収の霧では受け切れない訳だ・・・)


 そんな事納得しながら、俺は右腕を男へと向け伸ばし・・・。


「波ァァァ‼︎」


 闇の衝撃波を放つと、男の側を通り過ぎて行く。


「な・・・?」


 身構えていた男は、俺が衝撃波を外した事を疑問に思っている様だったが・・・。


「良いんだよ、これで・・・」


 俺が確信を持ち呟いた・・・、次の瞬間。


「・・・っ⁈」


 低く腹に響く様な轟音を上げ、王宮の壁へと着弾した闇の衝撃波。


「しっかり、受け切れよ?」


 衝撃波により壁が破壊され、瓦礫が男へと降り注いでいく光景に、俺は男へと心配する様な表情を浮かべ、呟いてやる。


「はあぁぁぁ‼︎」


 男は意外にも、挑戦的な俺の態度に呼応する様に、絶叫しながら光の衣を目一杯広げ、瓦礫を撃ち払う。


(大楯よりも其れを選ぶのは可だが・・・)


「剣ゥゥゥーーー‼︎」

「っっっ‼︎」

「行くぞぉぉぉーーーぉぉぉ‼︎」


 光の衣を操る為に、ガラ空きになった男の正面から漆黒の刃を放ち、自身も漆黒の双刃を背にし、宙を蹴り出す様にし翔ける。


「ちぃぃぃ‼︎」


 上空に広げていた光の衣を振り下ろし、襲い掛かる漆黒の刃を払った男。


(視界は奪った・・・‼︎)


 俺は対応する間を与えない様に、漆黒双刃で光の衣を斬り裂く。


「は・・・」

「はぁぁぁ‼︎」


 氷漬けの白夜の斬撃よりも、刹那の間だけ朔夜の斬撃の方が速く、撃ち合う白銀と漆黒の双刃は、僅かに漆黒の刃の方が押し込む形になる。


「墜ちろぉぉぉーーー‼︎」

「・・・っ‼︎」


 白夜を払った朔夜の刃は、男の仮面へと撃ち付けられたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る