第500話
「どうした?上機嫌だな?」
「・・・」
「また、ダンマリか?」
一瞬だけ見えたと思った笑みだったが、仮面の男は再び無表情で黙り込んでしまった。
(まぁ、仮面があるから、無表情もないんだが)
「剣‼︎」
俺が漆黒の双刃を背に構え、朔夜を手にすると、応じる様に仮面の男も地上へと向けていた光の刃を収め、双刃を背にし、白夜を構えたて来た。
「行く・・・」
「・・・」
「ぞっ‼︎」
漆黒の翼へと魔力を注ぎ、刹那の間で距離を詰める俺。
朔夜と白夜の鍔迫り合いは、王宮中庭に響き渡り、聴覚を刺激した高音が、全身を反響し巡っていった。
「・・・っ」
刀を押し合う力は、僅かに仮面の男の方が上。
(蹴りで・・・、いや‼︎)
「はぁ‼︎」
俺は体勢を変える事を嫌い、漆黒の双刃で斬り掛かる。
「・・・っ⁈」
光の剣で、其れを受け止めた仮面の男だったが、此方は俺の方が一枚上手だった様で、口元には歯を食いしばる様がみえた。
「それで良いのか?」
仮面の男へと静かに問い掛け、俺は漆黒の双刃の魔力を操作する。
「・・・っ⁈」
すると、光の剣と鍔迫り合いを演じていた漆黒の双刃が霧散し、仮面の男の肩が驚きからか、ビクリと震える。
「喰らえ‼︎」
一度霧散した漆黒の双刃は、再び剣の形を形成し、仮面の男へと襲い掛かる。
「・・・‼︎」
男は俺へと前蹴りを放ちながら、白夜を引き、漆黒の双刃を迎え撃つ。
「くっ‼︎」
俺が男の前蹴りに合わせ蹴りを放つと、互いの足裏が撃ち合い・・・。
「衣‼︎」
「・・・⁈」
俺は足から漆黒の衣を放ち、男の足と自身の足を結び付け・・・。
「ほら・・・、よっ‼︎」
俺が蹴りを放ち、漆黒の衣で男の足を引くと、男は白夜で漆黒の双刃を受け止めたまま、体勢を崩した。
「これで、どうだ‼︎」
宙で横に倒れる様な体勢になった男へと、朔夜で一閃、刺突を放つと、男の肩を朔夜が掠め、俺の顔へと生温い鮮血が降り注ぐ。
「ぁ・・・、ぐぅぅぅ‼︎」
「・・・」
仮面の男から漏れた初めての呻き声に、微かながら驚きを覚える。
(然も、聞き覚えがある・・・?)
そんな事が頭を過ぎるが、このチャンスは逃す訳にはいかない。
「剣‼︎」
俺は男の背後に、無数の漆黒の剣を詠唱し・・・。
「喰ら・・・、っ‼︎」
突き刺そうとしたが、男は白夜で漆黒の衣を斬り、俺へと蹴りを放ち、白夜を振り下ろして来た。
「ちっ・・・‼︎」
「ふぅぅぅ・・・‼︎」
肩に傷を負っていても、俺と男の間には明確な力の差があり、鍔迫り合いで男に押し切られそうになる。
「仕方ないか・・・」
この状況では漆黒の刃を降らしても、白夜によって吸収されてしまう。
それを確信した俺は・・・。
「喰らえ‼︎」
朔夜に吸収させていた力を解放する・・・。
「な・・・⁈」
驚きの声を漏らす仮面の男だが、無理も無いだろう。
俺の朔夜から解放した力は氷で、その氷によって白夜の刃が、徐々に凍りついていったのだ。
「ぐっ‼︎」
「まだ、付き合えよ‼︎」
距離を取ろうとする男を追い、朔夜の刃を白夜の刃へと付け、氷を放ち続ける。
やがて、白夜の刃が完全に氷漬けとなる。
(こっちを選択しておいて良かったな・・・)
その様子を見て、俺は出発前の刃とのやり取りを思い返した。
「絶対、炎の方が良いよっ」
「ん?そうか?」
「うんっ。だって最強の攻撃力だよ?」
「・・・なるほどな」
俺を見上げながら、その目をキラキラと輝かせて来る刃。
口にする言葉は子供らしいもので、俺は何処か安心する気持ちになった。
「アヴニールもそう思うだろ?」
「キュイッ」
俺が今回のタブラ・ナウティカ再訪で、必ず戦闘になると踏んでいるので、アヴニールの協力を求めて、呼んでいたのだった。
「闘いで守りを固めるって事は、一番重要な事だがな」
「そうかな〜?」
「意志を持った闘いでは特にな?」
「意志?」
「ああ」
意志を持った闘いとは、最後に生きている方の勝利。
そして、俺の闘いは子供達に、世界をこのままで継がせない為にある。
(決着は必ず俺が着ける・・・)
「意志か・・・」
「・・・」
その言葉を噛みしめながらも、何処か心此処にあらずといった感じの刃。
「だから、命を守る力っていうのは、凄い力なんだ」
「父さん?」
「母さんの力。刃の受け継いで力だ」
「・・・っ」
「分かるな?」
「うんっ‼︎」
先程よりも、その双眸に込めた輝きを増し、刃は力強く頷いたのだった。
(まぁ、その後、アヴニールの氷の力を、此処に持って来れる調整に時間が掛かったのはご愛嬌だったが・・・)
「まぁ、此れで・・・」
「・・・」
「状況は此方有利になった訳だが・・・」
俺は、氷漬けの白夜に視線を送りながら、そんな事を呟いたのだった。
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