第499話


「無駄話はそれ位で良いだろう?」


 ブラートがいつもの調子を取り戻したならそれで良い。

 俺は戦闘開始を望んだ。


「無駄話・・・、な?」

「・・・」

「一族の掟を破った者だ。いつ貴様を裏切るかは分からんぞ?」


 俺へと揺さぶりを掛けて来るナヴァルーニイだったが、俺の答えは既に決まっている。


「関係無いな」

「ほお?」

「この人が其の道を選んだのなら、其れが正しい、正しく無いは重要じゃ無い。俺はこの人の選んだ道を肯定するさ」

「司・・・」


 ブラートから何を聞いても、其れが全て真実かどうかは分からない。

 ただ、今迄の関係から、この人の事を信用する事は既に決めている。


「ふっ・・・」

「ブラートさん?」

「ありがとう。その信に応えよう」

「・・・」

「この先、司がどんな道を選んだとしても、俺は最後迄、司を支持する」

「・・・はい」


 俺がブラートに抱いているものと同じ考えを示してくれたブラート。

 俺が頷き、応えると、ナヴァルーニイを見据え、構えを取った。


「愚か者が2人か」

「ふっ、そうかもな」

「ええ」

「・・・貴様等はどうするつもりだ?」


 俺達を仲違いさせる事に失敗したナヴァルーニイは、オーケアヌスへと問い掛ける。


「愚問だな。我等の悲願は、守人達を打倒し、真に世界を我等のものにする事」

「・・・」

「そもそも、その昔の世では、エルフ族は守人に加担などしていなかった筈」

「え?」

「刻の流れが、誇り高き一族から、其れを奪ってしまったか」


 オーケアヌスの言葉に、ついつい声を漏らしてしまった俺だったが、確かにエルフ族が守人側なら、ブラートが同行した時点で厳しいチェック等が有るのが普通だし、それが無かったという事は少なくとも、昔はエルフ族の深いところに守人との協力等は無かったのだろう。


「傲慢な考えだな」

「ほお?」

「この世界は、そもそも創造主の創りしもの。其れを、自らのものだと思うなど、思い上がりも甚だしい」

「なら、貴殿の命はどうなる?」

「無論、創造主のものだし、当然、捧げ終えている」


 オーケアヌスとナヴァルーニイのやり取りを、無言で聞いていた俺の内心は・・・。


(今日はよくよく狂信者に縁の有る日だなぁ)


 先程迄のユーラーレといい、このナヴァルーニイといい、何故、其処迄、ハッキリとしない存在への、狂った様な信心を持てるのか?


(神を信じ、救いを求める事は否定しないが、この世界で生きている人達よりも優先すべきものか?)


「それなら、我々は神に足掻き続けるとしよう」

「愚か者に何を言っても無駄な様だな」


 宗教が広まる以前の世界を生き、永き刻を眠りの中で過ごしたオーケアヌスにとって、神の存在とは微妙なものなのだろう。

 ハッキリとした口調で、神に背く様な発言に、ナヴァルーニイは呆れた様な様子をみせたのだった。


「ひっひっひっ、どう致しますか?」

「・・・」

「このまま、帰還するのも良いかと思いますが?」

「そうだな・・・」


 どうやら、調子を取り戻したらしいムドレーツからの言葉に、ナヴァルーニイは少し考える素振りをみせたが・・・。


「・・・」

「ほお?」

「ひっひっひっ」


 上空から陽のものとは違う光が降り注ぎ、連中は視線を上げて、驚いた様子をみせた。


(彼奴・・・)


 上空では、仮面の男が光の剣を地上へと構えていたのだった。


「どうやら、彼奴は臨戦態勢に入っているらしいな?」

「ええ。ブラートさん・・・」

「分かっているさ。ナヴァルーニイ達は任せろ」

「はい」


 ブラートへと頷き、空へと翔け上がる俺。


「見逃していただけませんかねぇ?」


 ナヴァルーニイは仮面の男の様子を確認すると、直ぐにブラートへと構えを取ったが、ムドレーツは諦め悪く停戦を申し入れて来たが、当然、其れを受け入れる筈が無く・・・。


「無駄な期待だな」

「ひっひっひっ、残念です」


 本当に思っているのかは分からない調子のムドレーツだったが、此方の意思は決まっている。


(此奴等は必ず俺の手で滅ぼす)


「行くぞ?」


 仮面の男へと構えた俺。


「・・・」

「・・・っ⁈」


 たった一瞬だったが、いつも通り無言の男の口元には、初めて目にする笑みが浮かんだ様に見えたのだった。

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