第498話
「・・・」
相変わらず無口な仮面の男だったが・・・。
「ん?」
俺の頭を過ったのは先程の電撃。
(大魔導辞典には記していないし、彼奴特有の魔法か?)
今迄、そんなものをみせた事は無かったが、レイノでの戦闘からかなりの年月が経っているし、此奴の成長も有るだろう。
そんな風に思った俺だったが・・・。
「ひっ・・・、ひぃ〜」
「・・・っ」
行動停止にしていた筈のムドレーツが、気色の悪い声を上げた。
「助かりました。ナヴァルーニイ様」
「別に、貴様を助けた訳では無い」
「ええ、勿論でございます」
「・・・」
ムドレーツの傍には、飛龍の巣で遭遇したエルフのナヴァルーニイが立っていた。
「お前は」
「また、会うとはな」
「・・・」
「レイノかアッテンテーターで逝くと思っていたが」
此方を見て、淡々とした口調で物騒な事を言って来るナヴァルーニイ。
「それに、こんな所で再会するとはな」
「え・・・?」
「・・・」
そう言った後、直ぐに無言になったナヴァルーニイの視線の先・・・。
「ブラートさん?」
「・・・」
その視線に打つける様に、ブラートが視線を返していた。
「まだ、生きていたか」
「ああ」
ナヴァルーニイの問いに短く応えたブラートの表情からは、不自然な程、感情が読み取れなかった。
(冷静でクールな人では有るが・・・)
読まれたく無い程、面倒な関係の相手なのか?
(そういえば、ブラートってエルフ族の国で億越えの賞金首だったよなぁ・・・)
初めてダンジョンで出会い、その時にアームから聞いた話を思い出す。
(でも、ナヴァルーニイだって賞金首でもおかしくなさそうだが・・・)
「良いのか?」
「え?ナヴァルーニイ・・・」
「そんな男を飼っていると、寝首を掻かれるぞ」
「・・・っ」
一切心配した様子も無く、そうかと言って、陥れる為ならもっと抑揚を付けて話した方が良いと言いたくなる口調で告げて来たナヴァルーニイ。
「・・・」
そんな言葉にもブラートは否定するでも無く、いつもの様に静かに佇んでいた。
(正直否定して欲しいんだが・・・)
余裕の態度は俺への信頼だと思いたいが、いつ敵対しても良いとも取れる。
(どんなに長い時間を過ごし、信頼していても、この人には謎が多過ぎるんだ)
だから、俺は・・・。
「お前こそ、境界線の守人の事が世界に周知されていれば、賞金首でもおかしく無いだろう」
ナヴァルーニイを非難する様な事を口にしていた。
「おかしな事を言うな?」
「おかしなだって?」
俺からの非難は悠然と受け止め、その上で本当に理解出来ないという顔をして来たナヴァルーニイ。
「誑し込む為に、都合良く使っていたと思ったが」
「・・・」
「やはり、自身の蛮行に付いては話せんか?」
「そういう訳では無いさ」
「ブラートさん?」
ブラートとナヴァルーニイのやり取りに、俺はブラートの言葉を求める様に視線を送る。
「司・・・」
「はい」
「俺が一族を追われた時の長は、このナヴァルーニイの父親だ」
「え・・・?」
「この物言いだと、現在も変わっていない様だがな」
「・・・っ」
衝撃的な事実を告げて来たブラートに、俺は言葉に詰まってしまう。
「其れだけでは無くのではないか?」
「・・・」
「一族殺しのブラート」
「・・・っ⁈ブラートさん?」
「我が母の仇よ」
「・・・っ」
そう言ってブラートを見据えるナヴァルーニイの双眸の蒼は、深く暗い色が見て取れた。
「懺悔はせぬか?」
「必要無いだろう。有るとすれば、時期を逸した事への後悔だ」
「愚かな男だ。其れだけの才幹が有れば、一族の中でもそれなりの地位になれただろうに」
ナヴァルーニイからの言葉を淡々と受け止めながら、応えるブラート。
「俺は俺の宿命の道を進み、其の答えを知りたいだけだ」
「愚者めが・・・」
「未だ愚かであるのは、至上の喜びだ」
「ブラートさん・・・」
「ふっ・・・」
その表情からは、不自然に貼り付けていたものが消えていたのだった。
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