第496話
「な・・・、何だ其れは?」
俺は本当なら、何を考えているだと言いたいところだったが、それを我慢して、比較的穏やかなニュアンスで問う。
「うふふ、『
「・・・」
得意げに細身の水刃を示すアクアだったが・・・。
(まぁ、とりあえず一丁前の術名は良いとしても・・・)
「何、司?そんなに見つめられたら照れるわっ」
「・・・」
「ひっひっひっ、熱々ですねぇ」
ムドレーツの茶化す態度は放っておくとしても、アクアの身体を見て確信出来た事が有る。
(まだ、互いを良くは知らない仲だが、剣術や体術の得意な身体つきでは無いな)
アクアの身体つきは、体躯では無く肢体という言葉が似合う、実に魅力的な女性の其れで、一切の鍛錬の匂いを感じさせないものだった。
(嗅げば、汗の臭いより、華の香りが漂う事だろう)
戦闘中なのに、馬鹿な事を考えてしまうが仕方のない事で、それ位にアクアが手にした得物でどう闘うのか想像が出来ないのだ。
「・・・」
一応、ブラートへと視線を送ると、既に魔導巨兵へと構え、アクアの攻撃をサポートする準備は万全だった。
(見てみようと言う事か・・・)
ただ、ブラートのアクアに掛ける期待は、魔導巨兵を倒す事よりも、秘術の効果への興味が勝っているだろう。
(まぁ、彼ならば上手くやってくれるだろう)
俺は逃げるタイミングはブラートに任せ、アクアの魔導巨兵への道を作る事に集中する事にした。
「アクア」
「何、司?」
「タイミングは合わせろよ」
初の共同戦線でかなり難しい状況だったが、アクアに死なれる訳にもいかない。
そう思い、告げた言葉だったのだが・・・。
「大丈夫よ」
「え?」
「後は、私に任せない」
そう言って水刃を構えるアクアの姿は、明らかに素人の其れで、剣術が得意といえない俺から見ても酷いものだった。
「お前、そんな・・・」
「司殿‼︎退くのだ‼︎」
「え⁈」
オーケアヌスから突然掛かった声はかなり焦ったもので、其方に視線を向けると、真剣な表情で腕を振り、俺へと退く様に促すオーケアヌスの姿があった。
「で・・・」
「良いのじゃ‼︎巻き込まれるぞ‼︎」
「・・・っ⁈」
先程迄は、眼前で激戦が繰り広げられていても冷静だったオーケアヌスの余裕の無い様子に、俺は反論する事を止めて、アクアと魔導巨兵の間から離れた。
「・・・」
魔導巨兵はそんな俺に追撃する事はせず、アクアへと駆け出す体勢に入るが・・・。
「うふふ・・・」
アクアは余裕の笑みを浮かべるが・・・。
(瞳の色が蒼から紫に・・・?)
アクアの双眸の輝きの変化に、俺が若干乗り出す様な姿勢になった・・・、刹那。
「じっとしてなさいっ‼︎」
アクアは手にした水刃で、自身の眼前の宙を斬る。
「何を・・・?」
戦闘中というのに妙な動きを取るアクアに、問い掛ける様な声を漏らした俺の耳に、巨木が倒れ、地面に打ち付けられる様な音が飛び込んで来て、アクアを捉えた視界の端に、何かが倒れて来た。
「・・・っ⁈な・・・」
音のした方へと視線を移すと、其処には魔法耐性の白銀の毛を施された右脚が切断され、地面に片膝と両掌を突いた魔導巨兵が居た。
「アクア‼︎」
「うふふ。しっかり見てるのよ、司?」
「・・・っ」
「未来の妻の活躍をっ」
「・・・」
それは無いとツッコミを入れ様かと思ったが、正直どんな魔法か分からない以上は、余計な刺激をしたくなかった。
(斬り口を見る限り、螺閃に近い魔法の様だが・・・)
今度は見逃さない為に、魔導巨兵を凝視する俺。
「・・・」
右脚を失った魔導巨兵は、斬り口から爪と同じ素材の数百か、それとも数千の其れが生えて来て、簡易的な脚を形成したのだった。
(魔法を使う限りはエネルギーを補充出来るって事は、此奴もしかしたら不死身なのか?)
生き物では無い此奴に不死身もおかしいが、どの程度迄、再生出来るかは気になった。
「うふふ。久し振りの詠唱なのだから、まだまだ楽しませてね?」
「アクア、大丈夫なのか?」
「ええ。魔力は全然問題無いわよ」
「いや・・・」
問題は其処では無かったが、言葉を飲み込んでおく。
(本当なら白銀の毛を生やすか、斬られた脚をくっ付けたい筈だし、其れが出来ないって事は限界は有る筈)
「さあ、どんどん行くわよっ?」
そう言ったアクアに爪を構えた魔導巨兵だったが・・・。
「一つ‼︎二つ‼︎三ーーーつぅぅぅ‼︎」
素人剣士の其れでアクアが素振りをした・・・、刹那。
「・・・そういう事か」
魔導巨兵の構えた爪に、何も無かった空間から水刃が生み出され、アクアへと襲い掛かろうとした爪は、目的迄近付く事が出来ないまま、斬り落とされていったのだった。
(魔法陣が無いって事は、俺の静寂に潜む死神よりの誘いに近いが・・・)
「まだまだ、行くわよ‼︎」
アクアの声に、瞳へと魔力を注ぎ魔導巨兵を凝視するが・・・。
(魔力の流れが・・・、有るのか?)
今度は魔導巨兵の左腕に水刃が現れ斬り落としてしまったが、自信を持って魔力の流れが有るとは言い切れない程、アクアの魔法は静かなものだった。
「まるで、清流の様な魔法だな」
「ブラートさん・・・」
「ふっ、興味深いものだな?」
「えぇ」
ブラートの言葉に、落ち着いて頷いた俺。
アクアと魔導巨兵の闘いは、既に結果の見えたものになっていたのだった。
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