第487話


「おお、来てくれたか司殿」

「お待たせしました、国王様」


 俺達を迎えいれたオーケアヌスは、横目だけを控えていたユーラーレへと向ける。


「・・・」

「・・・」


 無言のまま、一瞬だけ視線が打つかった俺とユーラーレ。


「そんな、下賤の者を呼んで何のつもりか?」


 だが、ユーラーレは直ぐに視線をオーケアヌスに向け、心底面倒くさそうな態度をみせた。


「下賤とは失礼ね〜」

「・・・」

「あら?現代人には通じなかったかしら?返事くらいしたら?」

「・・・」


 軽い口調ながら、刺々しい空気を纏いユーラーレを見据えるアクア。

 ただ、当のユーラーレは其れに恐怖を感じる事も、挑発と受け取り、乗る事もしなかった。


「ひっひっひっ」

「・・・」


 その様子を一人面白そうに見ていたムドレーツ。


「司様・・・、ですか」

「何だ?」

「いえいえ、先程サンクテュエールの紋章を纏った方達が居ましたので・・・」

「・・・」


 目敏い男だなと思ったが、俺は何でもない顔で応える。


「リアタフテ家の婿殿・・・、今や大陸最強との呼び声が高い大魔導師司=リアタフテ様でしたか」

「さてな?」

「ひっひっひっ、ご謙遜を」


 俺の応えは大陸最強の部分で、ムドレーツにも其れは伝わったらしく、癖なのか、海岸の時と同じ様に、双眸を落ちそうな勢いで見開いて来た。


「・・・」


 心を落ち着け、引かずに堪えた俺。


「ふんっ」


 そんな俺とムドレーツのやりとりに、ユーラーレは面白くなさそうな反応をみせる。


「何か、ご不満でも?」

「貴族のヒモか・・・」

「はぁ・・・」


 最近、何処かで聞いた様な事を言われ、俺はどうでも良さそうな反応を示す。


「ふんっ」


 ユーラーレの性格を全く分からない俺でも機嫌の悪い事が分かる態度。


(オーケアヌスとの会談が上手くいかなかったらしいな・・・)


 ユーラーレ達、聖堂騎士団の事は既にオーケアヌスに報告している為、会談は上手くいく筈も無いのだが・・・。


「乾燥ですか?」


 俺はせっかくの機会と、ユーラーレを探る様に喉でも乾燥してるのかと、軽く挑発を仕掛けてみる。


「・・・」


 先程のアクアの時と同じ様な反応だが・・・。


「ふっ」

「うふふ」


 ブラートとアクアが俺に乗って来てくれた。


(まぁ、ブラートは同じ様にユーラーレの観察をしたいのだろうが、アクアは・・・)


 そんな風に思ったが、効果は覿面だったらしく・・・。


「・・・っ」


 鼻を鳴らす様な笑いを漏らさなくなったユーラーレ。


「それで、国王様」

「うむ?」

「用件をお聞きしてよろしいですか?」


 其処からの完全スルー。


「ひっひっひっ」


 反応したのはムドレーツだったが、ユーラーレの顔には明確な怒りの色がみえた。


「うむ、実は少々納得のいかん話をされておってな」

「・・・」


 オーケアヌスの空気の変化に、其の内容を静かに確認すると・・・。


「・・・教団の管理の受け入れですか?」

「うむ。我が国の持ち得る全てを差し出してな」

「その必要は無いですね」


 俺へと尋ねる様な視線を向けて来たオーケアヌスに、当然の様に応える。


「ふざけるなっ‼︎」

「何がでしょうか?」

「貴様にそんな許可を出す資格は無い‼︎」

「私には有りませんが、私は主人の命で此処、タブラ・ナウティカに来ています。詳細はお伝え出来ませんが、サンクテュエールに周辺関係国、協力国は此の国の存在と主権を認め、国際社会への参加に協力していく事を決定しています」


 冷静さを失ったユーラーレ。

 然し、一団の長であるのだから、此処迄理由を述べれば、とりあえず此の内容を教団に持って帰ると思ったのだが・・・。


「五月蝿い‼︎」

「え〜と?」

「ヴィエーラ教を信仰する者は、其の全てを教祖様に捧げるが当然。一国の王連中ごときの意見など欲してはおらん‼︎」

「其れは、教団の公式の考えでよろしいのですか?」

「当然だ‼︎」


 正直なところ、其処迄の挑発をしたつもりは無かったのだが・・・。


「ひっひっひっ、何か?」

「権限は?」

「当然・・・、有りません」

「・・・」


 俺からの視線に、態々溜めてから応えたムドレーツ。

 その必要は無いというのも面倒で、俺は閉口する事で其れを示した。


「引っ込んでいろ‼︎」

「ひっひっひっ、はいはい」


 ユーラーレからあんまりな発言にも、ムドレーツは気にした様子は無く、気味の悪い笑みを浮かべながら指示に従う。


(この力関係となると、やはりユーラーレが此処ではトップな訳か・・・)


 そんなには期待をしていなかったが、ユーラーレは一度深呼吸をして、そんな俺を軽蔑を込め一瞥し・・・。


「そもそも、貴族のヒモにして、恥知らずの情婦を囲う様な貴様がこの場に居る事が問題なのだ‼︎」


 そんな事を言い放って来たのだった。

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