第486話


「いけ好かない男だったわね?」

「ん?あぁ・・・、まぁな」


 ユーラーレも態度がもう少し柔らかいと、モテそうな男なんだが、アクアの評価は厳しいものだった。


「それより、魔人族の・・・」

「ムドレーツといっていたな」

「えぇ。魔人族にもヴィエーラ教の信者なんているんですね?」


 先程、ムドレーツの事を当然の様に魔人族と言ったブラートに、俺は純粋な疑問をぶつけていた。


「少数だがな」

「亜人の信者は居るとは聞いていたんですけど、魔人迄とは・・・」

「魔人族がそうとは言わんが、エルフ族の中にも居なくは無いぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。一族から追われた者や逸れた者、或いは出奔した者等は、外の世界での助けは必要だからな」


 ブラートの述べる理由は、分かりやすいものだったが、魔人族を別に置く言い方に引っ掛かった。


「魔人族は・・・?」

「通常なら、群れを成す事をしないからな」

「・・・」

「奴を特殊な存在とみるか、其れとも・・・」


 ブラートの途中で止めた言葉に、俺は心の中で続きを呟いた。


(ルグーンとの繋がりか・・・)


 ただ、其れも微妙なもので、俺が知るルグーンの最初の死後のヴィエーラ教の対応をみると、ヴィエーラ教自体がそういう組織の様にも考えられるのだ。


(まぁ、魔人族という事なら、戻ったらラプラスにでも聞いてみるか)


「でも、司の反応は可愛かったわね〜?」

「な・・・⁈」


 アクアの言っているのは、先程、ムドレーツと向かい合った時の俺の反応の事だろうが・・・。


「ふっ」

「・・・っ」

「うふふ」

「・・・」


 アクアだけでなく、ブラートに迄、子供を見る様な目でみられ、俺は静かに口を結んだ。


「アクアは彼奴に覚えは無いのか?」

「え?どうしたの急に?」


 アクアからすれば話を急に変えた様にも感じるだろうが、ムドレーツが魔人族ならば、輪廻転生の輪の中にいても不思議ではない。


「彼奴もラプラスみたいなタイプかと思ったんだよ」

「なるほどね〜。でも、残念」

「輪廻転生か?」

「えぇ」


 ブラートの問い掛けに、俺はルグーンの過去に付いて説明した。


「なるほど。そういう話だったのか」

「えぇ。なのでムドレーツもそういう可能性があるかと」

「ああ、無くはなさそうだな」

「そう?」

「終末の大峡谷を守る者達というのは、今の話では、何方かに肩入れしそうな感じはしないしな」

「う〜ん、まあ、人族の事を良くは思ってなさそうね」


 ジェアンや梵天丸は別にしても、他の連中は殺気こそ飛ばして来ても、姿を晒す事はしないという徹底振りで、守人側の協力をしていても不思議では無いのだ。


「だが、魔人族自体は絶対数が少ないからな」

「そうなんですか?」

「ああ。ドワーフ、エルフ等と比べてもな」

「へぇ・・・」


 其れ等は亜人の中でも少数な事を考えると、魔人族は本当に少ないのだろう。


「力としてはどうですか?」


 ムドレーツからはそれ程迄に高い魔力は感じられなかったが、あのタイプが特殊なのかそれとも・・・。


「魔力で見れば人族よりは優れているだろうが、俺もそう正確な情報は持っていないな」

「そうですか・・・」

「どうだ?」

「え?そうね〜、大丈夫よ、司なら」

「・・・」

「ふっ」


 そういう事が聞きたかった訳では無いのだが・・・。

 アクアの能天気な様子に諦めを感じ、ラプラスにでも当たるしかないと思った。



「アクア様ーーー‼︎」

「あら?」


 海岸へと駆けて来ながら、自身を呼んでいる衛兵に、アクアは首を傾げていた。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「どうしたの?そんなに慌てて?」

「はぁ、国王様がお呼びです。真田様達も来てくれと」

「え?私もですか?」

「ええ」


 息を整えながら衛兵が告げて来た事に、俺は視線をブラートへと向ける。


「交渉決裂は・・・」

「どうだろうな?ただ、準備はしておいた方が良いだろう」

「はい」


 向こうで何か不測の事態が起きていたとしても、俺達を呼びに来る衛兵に見せる様な間の抜けた事は奴等もしないだろう。

 俺は覚悟を決めて王宮へと向かうのだった。

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