第476話


「あら?珍しいお客ね?」

「何だ?そんなに怒ってるのか?」

「ふふ、そういう訳では無いのだけど」


 此処はディシプルにあるフェルトの研究室。

 中々、キツイ態度で迎えられた俺だったが、理由は分かっている。


「悪かったな。急に許可が降りて、直前は家族にしか伝えられなかったんだ」

「そうねぇ、一応出発の日は聞いていたのだけれどね」

「あぁ・・・」

「でも、ルーナが起きていたら、其れが出来たかしら?」

「・・・っ」

「ふふふ、一つ貸しね?」

「分かったよ」


 フェルトの言う通り、ルーナが整備中で無ければ、数ヶ月は口をきいてくれなくなっただろう。


「まだ、時間は掛かりそうか?」

「ええ。新しい魔石を搭載して丸一年、中々、定着しないのよ」

「其の魔石って・・・?」

「ふふふ、秘密」


 フェルトはいつも通りの態度だが、その様子はアッテンテーターとの戦争が終わり、少しずつだが以前あった様な、瞳の奥にあった冷たさが無くなっていた。


(昔は余裕を演じていた感じだったけど、今は真に余裕を持っている感じだな)


 ただ・・・。


「・・・」

「ふふ、どうしたの?」

「何でも無いよ・・・」


 俺から送られた視線に、飄々とした態度で応えるフェルト。

 俺が何故そんな態度だったかというと、新しい魔石を開発し始めたのは、丁度アッテンテーターとの戦闘が終わってからだった。

 その直前には、戦場から回収された人工魔石が、サンクテュエール王都の宮廷魔導団から一時的に盗まれ大騒ぎとなっていたのだ。


(それも痕跡を一切残さず、それこそ何らかのマジックアイテムを使用しなければ不可能な手口で・・・)


 その直後にフェルトは新魔石の開発を宣言し、見事に其れを完成させたのだ。


(そして、その後、一時的に盗まれていた人工魔石は、これ又痕跡を残さず返却される事になった)


 結局、其れが戻った事で、国王もグリモワールも犯人の捜索を終了させて、事件は闇の中へと葬り去られてしまった。


(まぁ、フェルトが母親のもの以外の人工魔石をルーナに搭載する可能性は無いから、新魔石は心臓を必要としないものだろうが・・・)


 ただ、その情報は完全に秘匿されていて、俺もルーナも教えて貰えないのだった。


「へぇ〜、色々変な物が有るわね」

「・・・」

「ねぇねぇ、司?」

「何だ?」

「これ、何かしら?」

「さてな?」

「へぇ〜・・・」


 俺とフェルトのやりとりを邪魔する事はしなかったが、研究室の中を漁っていたらしいアクア。

 その手に俺も初めて目にする箱を持ち示して来たが、答えを得られなかった為、其れを机に置いて、奥の方へと歩いていった。


「ふふ、何かしらあの娘は?」

「あぁ、すまんな。ちょっとした客で・・・」

「へぇ?てっきり、司の新しい愛人かと思ったわ」

「・・・」

「ふふふ」


 当然といえば当然だが、勝手な事をするアクアにフェルトは分かりやすく不機嫌になっている。


「でも、見ない顔ね?」

「ん?まぁな・・・」

「貴方が付いてあげなければならないお客なら、顔くらい分かりそうなものだけれど」

「・・・」

「ふふ、そういえば帰ったばかりだし・・・」

「分かったよ」

「ふふふ、私は何も言って無いわよ?」

「良い性格してるよ」


 此奴相手に隠し通せるとも思えないし、何より同じ様に鍵を持つ者同士の二人。

 俺はフェルトへと、アクアの事と経緯を説明したのだった。


「へぇ?あの娘が・・・」

「あぁ」

「ファムートゥねぇ?」

「知っていたか?」

「知らないわね。ただ、あまり知性はかんじないわね」

「まぁ、眠りから目覚めたばかりだから、物珍しいものばかりなんだよ。勘弁してやってくれ」

「ふふ、優しいのね」


 一応、フォローを入れたのだが、当然それが通用する相手では無く、揶揄う様に、然しキッパリと切り捨てられたのだが・・・。


「そろそろ、私の方も人工魔流脈の実験がしたかったのよ」

「・・・っ⁈」

「ふふ、またクズネーツで実験をしたいからお願いね」

「・・・あぁ、分かったよ」


 クズネーツは魔物もいないし、ドワーフ達も魔流脈が鈍い為、魔法の実験には向いていて、度々クロートに許可を得て、実験を行なっていたのだった。


「ねぇねぇ、司〜‼︎」

「・・・」

「ふふふ」

「悪い、行ってみるよ」

「ええ」


 研究室の奥からアクアの呼ぶ声に、俺は足早で其方へと向かうのだった。


 

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