第455話
「着きやしたぜ、頭」
「了解です、ナウタさん」
此処は魔導船の甲板上。
ナウタの言葉通り、既に砂漠の大陸が視界に入っていた。
「本当にあったんですね」
「へい。まあ、何も無いんで、上陸する者はいやせんがね」
「そうですねぇ・・・」
ナウタの言葉通り、付近を航行中に、甲板上から砂漠の様子を観察してみたが、オアシスは疎か、木一本生えてるのも確認出来なかった。
「冒険者も来ないものなんですね?」
「勿論でさぁ。連中は金にならない事に、労力を割いたりしやせんぜ」
「・・・なるほど」
確かに探索する価値は無いだろうけど、何処ぞの国が開発する価値は有ると思うんだけど・・・。
「ヴィエーラ教ですら、正確に管轄権を主張して無いらしいしなぁ・・・」
「へへ、どうしやした、頭?」
「ナウタさん」
「不安になって来やしたか?」
「う〜ん・・・、そういう訳では無いんですけど」
ナウタの言葉にも落ち着いて応えれる位には冷静なのだが、どうにも嫌な予感もする。
(ラプラス曰くヴァダーは搦め手が得意らしいしなぁ)
その事も、仲間達に同行して貰わなかった理由の一つだった。
(ヴァダーの策に嵌って分断させられたりすれば、仲間達を守る事が出来なくなるしな)
俺一人なら、転移の護符で撤退する事が可能だ。
「・・・ん?あれは?」
「小船の様ですぜ?」
「え、えぇ・・・」
砂漠の色と同化する様になっていた為、発見が遅れてしまったが、砂漠には一隻の小船が打ち上げられていた。
「ほお、此れは・・・」
「どうかしましたか?」
ナウタが望遠鏡で其れを観察しながら、何とも言えない唸り声を上げる。
「頭、あれはヴィエーラ教の旗を掲げてやすぜ?」
「え・・・?」
ナウタからの報告に、アイテムポーチから望遠鏡を取り出し、覗いて見ると、確かに旗には其の紋章が刻まれていた。
「面倒な事になりそうでさあ?」
「・・・まぁ」
ナウタからの言葉に微妙な感じでしか答えられない俺。
(まぁ、空から探索するし、避けていけば関係ないだろうが・・・)
「とりあえず、私が砂漠に渡ったら、ナウタさんはディシプルに戻って下さい」
「正直、送り届けただけなのは、少し不満なんですがね」
「すいません」
ナウタは俺がヴァダーを倒す迄、待つ事を望んだのだが、ヴィエーラ教の管轄海域を無断で航行して来ている為、俺が居ない時に襲撃でもされたら面倒になる。
(魔導船ならば、逃げるだけなら余裕だからな)
「分かりやした。ただ、ご無事で頼みますぜ?」
「えぇ、勿論っ」
ナウタからの激励に力強く応えて、俺は砂漠の大陸へと向けて、空に翔け出したのだった。
「本当に一面の大砂原って感じだなぁ」
上空には雲一つ掛かって無く、降り注ぐ陽の光が砂の大地へと輝きを与えていた。
「こんな所を当ても無く、延々と彷徨っていたら、干からびるだろうが?」
上陸している可能性の高いヴィエーラ教の者。
どの程度の規模の一団か分からないが、地獄を味わっている事だろう。
「でも、見当たらないんだよなぁ・・・」
砂漠の大陸の規模はサンクテュエールやアッテンテーターの有る大陸よりは小規模だが、全体を見渡せる程小さくも無い。
「闇雲に探し回るのも効率は悪いが、目印になる様なものも無いからなぁ」
リヴァルから得られるだけ得た情報では、海岸沿いではなく、内陸部の様に考えられるのだが・・・。
「ただの地面に転移の護符はセットし難いしな」
一応、何も見当たらなかった時の為に、フェルトからセットに使用出来るマジックアイテムを貰って来たが・・・。
「ヴィエーラ教の連中が彷徨いているとなると、セットして戻る事も難しいしな」
とりあえず、持ち去られた時に暴走はしない様にはなっているのだが・・・。
「飲食料は、一月分はアイテムポーチに入っているし・・・」
リヴァルの旅の時点では、まだアイテムポーチの容量の開発も其れ程進んでいなくて、薬等を考えると、飲食料に割ける容量は限られていた為、ヴァダーと遭遇したオアシスは本当に生命を救うものになった様だが・・・。
「とりあえず、一度休憩するか・・・」
ただ、飛行するだけなら、丸一日でも飛んでいられるのだが、万が一の事態に備え、体力と魔力には余裕を持って行動した方が良いと思い、俺は付近に人影の無い事を確認し、地上へと降りたのだった。
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