第453話


「パパァ・・・」

「あぁ、凪」

「ふふふ」

「・・・」


 俺の胸にしがみ付いて、甘えた声を出す凪に、我が娘ながらドギマギしてしまう。


「にゃはは。やっぱり、お嬢様はご主人様が大好きだにゃ〜」

「アン・・・」

「にゃ・・・、はは」


 その流れに任せて、今回の話を流そうとして来たアンに、俺は少し冷めた視線を向ける。


(アンは巻き込まれただけだし、現在ほぼ仕えているといえる凪を守るつもりもあるだろうけど・・・)


「凪」

「何、パパ?」

「今日の件だがな」

「はい・・・」


 俺が落ち着いた声で語り掛けると、凪も察した様に俺の胸から降り、俯き加減になり沈んだ声で応える。


「先ずは、危険だ」

「え?でも・・・」

「凪の魔力操作を疑ってる訳じゃ無いよ」

「じゃあ・・・」

「パレスーの子の、魔流脈だ」

「・・・うっ」


 現状、どんな魔法でも、魔流脈の強さを見る事は出来ず、其れを確認するには、専門の機関での診断か、その人の付近で魔法を使用し確かめるしか無い。


「凪の使った魔法は下級だったけど、其れでも魔法の才能の無い子供だった場合、障害が残る可能性もあるんだ」

「・・・っ」

「神木は確かに魔空間を和らげてくれるけど、此の木はパパが此の世界に来た年に植えたもので、既に効果が無くなっていてもおかしくは無いんだ」

「え・・・?」

「・・・」


 驚いた表情の凪だったが、此れに付いては無理もないだろう。

 現状、神木の働きは健在で、俺も未だに魔法の訓練には此処を選んでいるし、凪や颯も此処で俺が見てやる事もあった。


(此れを植えてくれたブラートも疑問を抱いていたが・・・)


 とりあえず、其れは其れとして、今回の件に付いてだ。


「だから、1人で此処に来ての魔法訓練も禁止していたんだ」

「そうだったんだ・・・」

「そもそも、凪は国家認定魔導士では無いから、此処で俺の許可を得ずに魔法を使用する事は、立派な違法行為なんだ」

「・・・」

「もし、彼等が其れを主張すれば、パパもママも、処罰の対象になるんだ」

「・・・ごめんなさい」


 神妙な面持ちで謝って来た凪。

 追い込む様な形になったのは不本意だったが、こんなると良い機会にするのが肝要だろう。


「彼等も俺に気付いて、必要無い謝罪迄して帰ってくれただけだしな」

「じゃあ・・・」

「あぁ。謝罪をした彼は、俺の存在に気付いていた」

「・・・」


 自分に敵わないから帰ったのだと思っていたのだろう。

 凪は微妙な表情を浮かべた。


「不満に思うのは良いが、其れは普通の事だ」

「うっ・・・」

「凪はどんなに才能が有るとはいえ、まだ何も為していないのだし、大人の中に軽んじる人が居るのは当然」

「・・・」

「それでも、彼等は礼を欠いた態度は無かったけどな」

「・・・ぅぅ」


 高齢の護衛の態度を思い返しているのか、凪は後悔からだろう、落ち込んだ様子で唸っていた。


「まあまあ、ご主人様。お嬢様も反省してるのにゃ」

「・・・」

「もう、それ位で許してあげても・・・」

「はぁ〜・・・」

「にゃはは」


 アンの誤魔化す様な笑いに、溜息で応える俺。

 ただ、アンの言う事に従う訳では無いが、これ以上この事で時間をとるのも勿体無い。

 それというのも、俺が此処に来た理由は、凪を止めに来た訳では無く・・・。


「ご主人様も、何かお嬢様に用が有るにゃ?」

「そうだな・・・」

「え?どうしたの、パパ?」

「あぁ、実はまた旅に出る事になってな」

「ええーーー‼︎」


 俺の言葉に、落ち込んでいた空気を吹き飛ばす様に声を上げた凪。


「何でっ⁈何でっ⁈何でーーー‼︎」

「・・・うっ」


 直前迄とは一転して、凪が声を張り上げて飛ばしてくる不満に、俺の方が下を俯いてしまう。


「ちょっと、仕事で・・・、な?」

「ええーーー‼︎やだっ‼︎」

「まぁ、とりあえず、一度家に戻ろう?」

「ええーーー⁈」


 優れた魔力を持つとはいえまだ子供。

 凪は小さな掌で、俺のズボンを引っ張りながら抵抗を続けたのだった。

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