第452話
此処は、リアタフテ領神木傍の上空。
地上には良く見慣れた2人と、初めて見る子供が1人居た。
(ただ、離れた位置に立っている護衛の服の紋章。あれは、パレスー家のものだったな)
3人から距離を置いて様子を見守る護衛達は、俺の存在には気付いていないみたいだな。
(位置関係的に貴族の護衛としては、どうかと思うのだが・・・)
「これっ、僕が採って来たんだよ」
「へぇ〜・・・。アン?」
「はいにゃっ。・・・本物の海龍の巣の様ですにゃ」
アンの手の中の物は確かに水草で作られた、海龍の巣の一部の様だった。
「じゃあ、此の蒼い花がパヴォなの?」
「はいですにゃ。深海にのみ咲くと呼ばれる幻の蒼いパヴォの様ですにゃ」
通常、地上に咲くパヴォは紅色をしているのだが、深海の底深くに咲くパヴォは、幻の名に相応しく、特別な蒼い花を咲かすのだ。
(確かに珍しいな・・・)
蒼いパヴォが咲く程の深海には人間が到達する事が出来ない為、稀に人の目に触れるものは、海龍達が巣を作る為に海底から採って来る水草に混じったものばかりだった。
(あんなに状態の良いものは、信じられない程の値で扱われるだろうに・・・)
流石、貴族の子なのだろうか、其れを惜しげもなく贈ろうとするとは・・・。
(まぁ、あの子が採って来たは嘘だろうし、雇っている者達の実力も、海龍の巣に乗り込める程のものでは無い)
そうなると、裏から仕入れたという事か・・・。
(流石、サンクテュエールで両手の内には入る財力を持つパレスー家だなぁ)
「じゃあ、凪ちゃん・・・、僕とっ」
「・・・」
興奮気味ににじり寄る男の子に、凪は悠然と値踏みする様な視線を向ける。
(おいおい、近過ぎるぞ少年っ‼︎)
俺が心配になり、顔を出そうとした・・・、次の瞬間。
「そうね・・・、じゃあ、始めよっか?」
「え・・・?凪ちゃん?」
「「「・・・っ⁈」」」
凪が両の混沌を創造せし金色の魔眼を開いた事で、男の子は呆然とし、護衛達には一瞬で緊張が走る。
「だって、貴方・・・?」
「パレスー家のご子息ですにゃ」
「・・・?まあ、良いわ」
どうやら、凪は相手の男の子の事も、パレスー家の事も知らなかった様で、アンからの助け船にもよくわからないといった表情だった。
「とにかく、私の望み通りにワクワクするものを持って来てくれたじゃない」
「そうだよ、だから・・・」
「こんな危険な事を熟せるなら、私に挑戦する権利を与えられるわ」
「え・・・?」
「言ってなかったかしら?私より弱い男に興味が無いのよ・・・」
そう言って一歩踏み出した凪は、そのまま続ける。
「だから、パパ以外の男に興味なんて無いのっ‼︎」
凪が弾む様な声を発すると、男の子の足下に魔法陣が詠唱され、其処から・・・。
「・・・ええ⁈」
渦巻き状の上昇気流の風が生じ、男の子を抱える様な形になった。
「どうしたの?降りて来なさい?」
「そ、そんなぁ・・・」
「其れ位、どうにかしないと勿体ないわよ?せっかく、私に挑戦する権利を得たのに?」
「・・・っ」
男の子は当然、身動きをとる事が出来なくなっており、凪の言葉は酷でしかなかった。
(ただ、小規模な魔法陣とはいえ、ちゃんと耐えれているのか・・・)
どうやら、男の子は凪の好みでは無いらしいが、その魔流脈の機能を見ると、それなりの魔法の資質は持っている様だった。
「や、止めてください、凪様っ」
「そうですっ。坊ちゃんにもしもの事があれば‼︎」
「・・・へぇ〜、どうするの?」
「・・・っ‼︎」
男の子の状況に、護衛達が凪に詰め寄ろうとしたが、凪は其れに対して、挑発する様な態度をとった。
「お嬢様、其れ位にした方が・・・」
「何、アン?私がこの人達に負けるとでも思っているの?」
「い、いえ、・・・にゃ」
アンは凪を制止しようとしているが、凪は全く相手にしていない。
「・・・」
「・・・にゃ」
(アンの奴、俺に気付いて凪を止め始めたな・・・)
アンは男の子を見上げ、その視線の先に俺を見つけた様で、気不味そうにしているのだった。
「ぐっ・・・、致し方ない‼︎」
「ま、待て‼︎」
「で、ですが・・・」
「い、いや、とにかく待て‼︎」
1人の若い護衛が暴走気味に凪に飛び出そうとしたが、高齢の護衛から制止される。
(彼も俺に気付いたか・・・)
流石に、凪が男の子に怪我を負わせる様な事はしないと読んでいるのだろう。
そうなると、どんなに自分達が主人を守れない恥をかかされたとしても、俺の前で凪に手出しをする様な馬鹿な真似はしないという事だ。
「何?来ないの?」
「はい、凪様・・・、この通りです」
「あら?」
両膝を地面に突き、凪へと懇願する護衛。
「・・・」
「どうか、ご容赦下さい」
「そうねえ・・・」
顎に指を当て、考え込む様な態度をとった凪だが・・・。
(流石に、もう答えは出ているだろう・・・)
「・・・はいっ」
「あ、ああ・・・」
「坊ちゃんっ‼︎」
徐々に風を緩め、男の子を地面に下ろした凪。
若い護衛は、男の子へと駆け寄っていった。
「別に、貴方に恥をかかせたかった訳では無いのよ?」
「ええ。勿論承知しております」
「そう・・・。なら、良いのだけど」
凪からの言葉に頷く、高齢の護衛。
「では、失礼します」
「ええ、さようなら」
凪自身もこの状況は気持ちの良いものでは無いのだろう。
一礼をした護衛を見ない様にしながら、短く返事をしたのだった。
そうして、護衛達が男の子を連れて去っていった後・・・。
「はぁ〜・・・、にゃ」
「何よ、アンったら、そんなに大きな溜息を吐いて」
「お嬢様・・・」
口では凪に呼び掛けつつ、視線は俺へと向けるアンに、不自然さを感じたのだろう。
「何か、あるの・・・?」
凪はアンの視線の先へと向いて来て・・・。
「ああーーー‼︎」
「・・・」
俺と目が合い、大きな声を上げた・・・、次の瞬間。
「パパーーー‼︎」
「・・・おおっ⁈」
漆黒の翼を広げ、俺の胸へと飛び込んで来たのだった。
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