第440話


「司・・・」

「っ⁈何だ・・・?」


 俺にだけ聞こえる様な音量で呼び掛けて来たアポーストルに、釣られて俺も風に掻き消されそうな声で応える。


「おいで、空に逃げておこう」

「お、おぅ・・・。でも、自分で・・・」

「良いから」


 俺が闇の翼を広げ様とすると、其れを止めて来たアポーストル。


「・・・っ⁈ぁ、ぁぁ・・・」


 いつもなら、何でそんな事とでも言うところなのだが、今、重傷を治して貰ったばかりな為、俺は反する事はせずに、アポーストルの示して来た杖へと乗ったのだった。

 俺はアポーストルの後ろに乗り、空に昇っていく途中、地上の様子を観察すると・・・。


「なぁ、アポーストル?」

「何だい?」

「あの娘は、本当に何者なんだ?」


 悠然とした歩調で、ルグーン達へと進む少女が目に付き、俺は改めてアポーストルへと問い質した。


「う〜ん、説明し辛いんだけどなあ」

「・・・」


 相変わらずのアポーストルの反応に、俺は直ぐに質問を変更する。


「なら、ルグーンとはどういう知り合いなんだ?」

「昔馴染みさ」

「昔馴染み・・・、ね」

「ふふ、本当だよ?」


 どうだろうとは思ったが、現在迄に此奴に騙された事は無い。


(それでも・・・)


 俺は察知されるだろうとは思いつつも、いつでも此奴を殺れる態勢で、絶対に問い質しておくべき事を問うた。


「アポーストル。お前は、守人陣営なのか?」

「・・・」


 俺からの問いに、珍しく沈黙の間をとったアポーストル。

 ただ、相手のペースで話を進めるのは得策では無い。


「答えろ。でなければ・・・」


 俺は覚悟を決め、アポーストルの背中に問うた。


「大丈夫、違うよ」

「・・・証拠は?」

「其れには答えられない」

「・・・」

「でも・・・」

「・・・」

「僕が守人なら、司を助けていないよ」

「それは・・・」


 理由にはならない、そう続け様とした俺に、アポーストルは・・・。


「導きの石」

「・・・っ、其れも・・・」

「違うよ。恩に着せて信用を得たいんじゃ無いんだ」

「じゃあ・・・」

「司はちゃんと間違えずに、守人に反する道を選べてるよ」

「な⁈」


 此方へと振り返って来たアポーストルは、初めて見せる真面目な表情と声色で、俺へと語り掛けて来て・・・。


「神龍達を倒し、真なる力に迫っている。其れは即ち、守人達の目的を打ち砕く道だから」


 其の視線を、俺の其れに重ねながら続けたのだった。


(丸め込まれている様だが・・・)


 肝心な事には、何も答えないアポーストルに、俺の不満は募ったが、そんな俺の感情を知ってか、知らずか、アポーストルは・・・。


「・・・っ」

「此れでも信用出来なければ、此処で僕を殺れば良いよ?」


 再び視線を前に向け、明らかに背後への警戒を解いて来たのだった。


(誘われてる・・・、いや)


「どうして、俺に手を貸し、助けた?」

「其れも、答えられないんだ」

「其れで・・・、信じろと?」

「そうしてくれたら、助かるよ」

「・・・」

「ふふ・・・」


 少し、寂しそうな声で笑ったアポーストル。


「じゃあ、一つだけ・・・」

「・・・?」

「僕が司を助けたのは、ある人の願いなんだ」

「ある人・・・?」

「ああ。本当なら其の人は、自分の手で司を助けたいと思っているんだけど、其れは、諸々の事情から出来ないんだよ」

「・・・」

「だから、代わりに動ける僕が、司の助けをしてるんだ」

「其の人って・・・?」

「・・・ふふ、ごめんね」

「・・・」


 笑いながら謝って来たアポーストル。

 其の笑いからは、嘘のない寂しさが感じられたのだった。

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