第435話


「う、動け‼︎此のぉぉぉ‼︎」

「・・・」


 既に魔流脈が断たれているのだろう。

 完全停止した魔導巨兵のコクピットから響いて来る、アルヒミーの無茶な要求。


「投降しろ、アルヒミー」

「な、何を・・・」


 コクピット前に立ち、無数の闇の剣を構える。


「今、投降すれば、お前の身分なら手厚く扱ってもらえるぞ?」

「こ、小僧がぁぁぁ‼︎」


 そんな俺に対し、アルヒミーは当初の余裕は無くなり、口角に泡を溜めながら怒号を上げて来た。


(戦況自体は兵数差を考慮すればサンクテュエール側の善戦と言え、アルヒミーが投降すれば降伏、若しくは撤退の可能性が高い)


 現に、アッテンテーターの兵達は此方を気にして、アルヒミーの決断を待っている。


(撤退しても後詰めの追撃が有るし、連中も早く結論を出して欲しいだろう)


「ふふふ」

「・・・邪魔立てをするな」

「流石ですな、真田様」


 俺が放った静かな重圧には、まともに答えて来ないアルヒミー。


(九尾達は・・・、良し)


 視線をバドーに向けると、任せていた九尾達の数はかなり減り、ルグーン直属の兵力は減少している事に、俺は心の中でほくそ笑んだ。


「増員しなくて良いのか?」

「ふふふ、ご心配なく」

「・・・」

「必要で有れば、幾らでも捨て駒をお渡ししますよ」

「・・・そうかい」


 ルグーンが何の為に、アッテンテーターに協力するのかは分からないが・・・。


(エーレシ派に対する義理立てか?それともザックシールを入手する為の布石か?)


 俺の知り得る情報で、想定出来るのは其の二つ。


(まぁ、何方にしろアルヒミーは捕らえるか、殺るし、ルグーンは言う迄も無いが・・・)


「必要が有るに決まっているだろう‼︎」

「・・・アルヒミー様、お静かに願えませんか?」

「ルグーン・・・、貴様ぁぁぁ・・・‼︎」


 仲間割れでも無いのだろうが、余裕の無いアルヒミーには、ルグーンの態度は許せないものらしく、呪い殺さんばかりの視線を向けていた。


「話は後にしてくれ」

「ふふふ、これは失礼しました、真田様」

「アルヒミー」

「小僧・・・‼︎」

「お前は身の振り方を考えておけ」

「ぐっっっ・・・‼︎」

「ふふふ、非道い方だ」


 無力化の済んだアルヒミーを無視し、ルグーンへと取り掛かろうとする俺。

 アルヒミーは歯を軋ませ、ルグーンは淡々としている。


「ですが、もう少し、お時間を頂きたく」

「ルグーン?」

「ふふふ、直ぐに終わりますよ。アルヒミー様?」

「な、何だっ?」

「お助けしましょうか?」


 アルヒミーに問い掛けたルグーンに・・・。


「ルグーン‼︎」

「ふふふ、少々お待ち下さい」

「・・・っ‼︎」


 俺が翔け寄ろうとすると、ルグーンは自身の周囲に五つの魔法陣を詠唱し、其処から出て来た九尾達が俺を抑えに来た。


「ちっ・・・‼︎」

「ふふふ、どうしますか?」

「は、早くしろ‼︎」

「ふふ、では・・・」

「ま、待て‼︎」


 流石に五人の九尾達を、即座に討ち払う事は出来ず、アルヒミーに急かされたルグーンが、何やら魔導巨兵へと手を置き、詠唱を始めたのを見ている事しか出来ない俺。


「な、何だ⁈」

「ふふ、直ぐに気持ち良くなりますよ?」

「ルグーン・・・、貴様ぁぁぁ‼︎」


 違和感を感じたらしいアルヒミーは、狼狽えだしたが、ルグーンは気色の悪い返事で誤魔化す様にした。


「ぐぐぐ・・・」

「ふふふ・・・」

「うううぅぅぅーーー‼︎」


 ルグーンが詠唱を完成させると、魔導巨兵全身を淡い光が包み込んだ・・・、刹那。


「・・・っ⁈」


 其の光が頭部や腕や肩、胸に足と十数箇所に分かれ、妖しい閃光を放ち、俺は思わず目を覆ってしまった。


「ぁぁ・・・、ぁぁぁ」

「ぅぅぅ・・・」

「っっっーーー・・・」


 視界を失った俺の耳に微かに響いて来た、そよ風にすら掻き消されそうな呻き声。


(な、何だ・・・?子供?)


 呻き声は喉を押さえられた小鳥の様な声で、俺は困惑してしまう。


「う・・・」


 そんな感情を抱きながらも、徐々に回復していく視力に、ゆっくりと瞳を開いていく・・・。


「・・・」

「な、何が・・・?」


 最初に瞳に映ったのは、コクピットの中で気を失ったアルヒミーの姿。


「・・・っ⁈」


 先程、閃光を放った部分に淡い光が残る魔導巨兵は・・・。


「な、何故・・・⁈」


 再び稼働を開始し、漆黒の大槍の拘束から脱出していたのだった。

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