第434話


「な、何だ?」

「どうして・・・」

「・・・」


 アッテンテーター軍の一団上空へと辿り着いた俺に、兵士達は初めて見る飛行魔法も有るだろうが、其の表情に畏怖を刻んでいた。


「ぅぅぅ・・・」

「とにかく、治療を急ぎ、手の空いた者は奴に手出しをさせるな‼︎」

「は、はっ‼︎」


 隊長らしき軍人の指示で、治療をする兵士と、此方へと射撃する兵士に分かれる。


(アルヒミーは意味を理解してないし、今の内に・・・)


「雨ァァァーーー‼︎」


 俺は魔導巨兵との距離が開いたのを確認し、地上の兵士達へと漆黒の雨を降らせる。


「っっっーーー‼︎」

「こ、こんな⁈」

「あっっっ、がぁぁぁ‼︎」


 漆黒の雨粒は健在な者も、傷付き倒れた者にも等しく降り注ぎ、全ての者達を赤黒く染め上げていく。


「お、降りて来い‼︎」

「そうだ‼︎卑怯だぞ‼︎」

「此方には重傷者も居るんだ⁈」

「・・・」


 正義や道徳を説いて来るアッテンテーター兵達の声を無視し、俺は奴等の射撃の届かない上空へと昇っていく。


(此の世界の戦争に、どんなレギュレーションが有るかは知らないが、説明が必要ならケンイチがしてくれてるだろう)


「・・・霧」


 魔導巨兵に対する、有効な手段の準備に必要な為、俺は自身の中の都合で感情論を排し、淡々と詠唱を行った。


「な・・・?」

「どういう魔・・・、っ⁈」

「ぅぅぅ・・・」


 漆黒の霧に飲み込まれ、闇の中から響き渡る狼狽した悲鳴。


「・・・」


 其れ等を聞き流しつつ、俺は魔導巨兵との距離を測った。


(距離的、集束の速度的には二手から三手程度・・・)


「大楯‼︎」



 魔導巨兵から発される可能性の有る攻撃回数を予測し、奴の進行方向に闇の大楯を詠唱し、其れを阻害するが・・・。


「無駄な魔力を消費して良いのか?」

「無駄かどうかは、俺が判断するさっ‼︎」


 揶揄う様な声色のアルヒミーに、俺は感情は動かさず怒号で一蹴する。


「くくく・・・、そうか?」

「・・・」


 闇の大楯を打ち払い一蹴していく魔導巨兵の様子に、俺は闇の霧からの集束状況を確認する。


(まだ足りないが、充足させる必要も無い・・・)


 当然、第一の狙いはコクピットに通る箇所としても、肩、腕、足等も、魔流脈を断つ事を成功すれば、稼働停止も狙える筈だし・・・、何より。


(アルヒミー自体からは大した力は感じられないしな)


「くく、待ち草臥れたか?」

「いや、悪いな。まだ茶の準備も出来てないんだ」

「くくく、必要無い。貴様は心臓に余計な傷の付かぬ様に、大人しく頭を打ち抜かれろ」

「人の好意は・・・、受け取るもんだぞ‼︎」


 俺が魔導巨兵へと翔けると、アルヒミーは軽やかなバックステップで距離を取り、光弾を放って来た。


(吸収の邪魔はされたく無い・・・)


「はぁぁぁ‼︎」


 俺は自身の背に居るアッテンテーター兵達を守る様に、飛来した光弾を、背にした闇の双剣の連撃で払った。


「・・・っ‼︎」


 爆ぜる光弾の放つ閃光・・・。


(此れを・・・)


 其の隙を逃さず地上へ翔けて、自身の影へと飛び込む。


(さてと・・・、何処から出るか・・・)


 闇の霧からエネルギーの集束は問題無いが、大槍はあくまで直線的な魔法。

 万が一、外した場合でも、一定時間なら再び投擲する事は可能だが、其の場合は、完全にアルヒミーに警戒されるし、二投目以降の方が寧ろ命中させるのは難しい。


(手は無い訳では無いが・・・)


 俺は未だ開発段階の新魔法が頭を過ぎったが首を振る。


(あれは命中させるのは簡単になるが、制御そのものに問題があり過ぎる)


 そんな事を考えながら、俺が闇の底を泳いだ先。

 其処は・・・。


「・・・ほお?」

「はぁっ‼︎」


 俺はルグーンの背後を取り、斬撃を放ったが・・・。


「・・・ちっ」

「ふふふ、危ない危ない」


 ルグーンは其れを躱し、移動先で余裕の笑みを浮かべていた。


「・・・余計な手間を」

「悪いな。それなりにモテてるから、マメな対応を希望するよ」

「抵抗は必要無いと言ったろ‼︎」

「・・・かな?」

「生意気な・・・」


 一瞬感情的になり、甲高い裏声を上げたアルヒミーだったが、直後に不自然な程、感情を抑えた声で応えて来た。


「私は貴様の心臓を手に入れ研究室に戻り、最高の人工魔石を作りたいのだよ」

「遠慮しよう」

「光栄に思え」


 会話になっているのか微妙な受け応えをしたアルヒミーが、魔導巨兵を走らせ様とした・・・、刹那。


「狩人達の狂想曲・・・、フルバースト‼︎」


 九十九門の魔法陣を詠唱し、闇の狼達の激流で其れを止める。


「・・・本当に、無駄な事を」

「・・・」


 防御を固めたアルヒミーに、俺は上空へと昇り、大槍を放つ準備へと入る。


(狙いは狼達の途切れる寸前・・・)


 俺は息を殺し、タイミングを計る・・・。


「・・・いつ迄も」


 コクピットから、低く唸る様なアルヒミーの声が響いて来た・・・、次の瞬間。


「ジタバ・・・、⁈」


 闇の狼達の激流が収まり、アルヒミーは反撃に入ろうと、此方へと右腕を伸ばして来たが・・・。


「大槍ァァァーーーァァァ‼︎」


 其の直後に放たれた、アッテンテーター兵達の生命力を吸収し、集束させた巨大な闇の大槍。


「ちぃぃぃ‼︎」


 此方へと打ち出された右腕を裂きさながら、魔導巨兵の胴体へと迫る闇の大槍。


「・・・くっ」


 右腕に触れた事で、狙いの外れた闇の大槍は、僅かにコクピットを外す。


(頼む・・・‼︎)


 祈る様に魔導巨兵の挙動を探りながら、闇の大槍の二投目にも備える俺の耳に・・・。


「動けぇぇぇ‼︎あああーーー‼︎」


 発狂した様な、アルヒミーの奇声が飛び込んで来た・・・、次の瞬間。


「やった・・・、か」


 膝から崩れ落ちる魔導巨兵の姿が瞳に飛び込んで来て、俺は安堵の声を漏らしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る