第436話


 魔流脈が断たれた事で停止した筈だった魔導巨兵。

 修理をすれば再起動する事は不自然では無いが、気になるのは・・・。


「・・・」


 改めて、コクピットを覗いてみるが、アルヒミーは気を失っているにも拘らず、魔導巨兵は気味悪く揺れる様に動いていた。


(さっき迄の機械的動きじゃなく、生物的な動きなのも気になるが・・・)


「ふふふ・・・」

「何をした、ルグーン‼︎」

「いえいえ、少し私の専門分野の施しをですよ」

「専門分野・・・、だと?」

「ふふふ、ええ」


 此の状態にしたのは、間違いなくルグーンの魔法で、此奴は其れを自身の専門分野と答えた。


「其の能力って何だ?」

「ふふふ、其れはお答えする必要は無いかと」

「・・・」

「ふふふ」


 どうやら、魂を操作する能力については、答える気は無いらしいルグーン。


(まぁ、俺の方も其れを知っている事を伝える必要も無いが・・・)


 俺とラプラスの関係については、未だ気付いていないであろうルグーン。

 情報戦の観点から、此奴に其れに関する情報は、一切与えたくなく、ボロを出さない為にも、俺は余計な追及はしない事にした。


「ぁぅぅぅ、ぁぁ・・・」

「っっ・・・」

「・・・ぃぃぃ」

「・・・っ⁈」


 再び、聞こえて来た子供のものと思われる声。


(魔導巨兵の発光から・・・)


 視力が回復した事から、発信源が判明した声。


(あどけないものだけど・・・、恐怖・・・、いや‼︎)


 俺は静かに響き渡る怨嗟の声に・・・。


「装‼︎」


 手にした朔夜を漆黒の闇色に染め上げた。


「ふふふ、よろしいのですか?」

「何がだ?」

「此の声の正体を暴かなくてです」

「答える気は無いのだろう?」

「ふふ、ええ」

「なら・・・、必要無い‼︎」


 俺はルグーンの挑発には乗らず、大槍により生じた穴目掛けて翔け出す。


(彼処が一番大きいが、他にも・・・)


 魔導巨兵の変化は、発光と其処からの声だけでなく、銀狼の毛が生えて無い部分が、幾つか生じた事だった。


「此れなら・・・‼︎」


 一直線に右肩口の穴に対し突撃して来た俺に、魔導巨兵は左腕で防御を固める。


「ぃ・・・、ぁ‼︎」

「・・・っ」


 どうやら、此の気色の悪い声の主が、現在、魔導巨兵を動かしているらしい。


「でも・・・」


 守りを固める左腕を足蹴にし、魔導巨兵の右後方に回り込んだ俺は・・・。


「狩人達の狂想曲・・・、フルバースト‼︎」


 九十九門の魔法陣を詠唱し、闇の狼達の激流を生み出す。


(僅かとはいえ生じた穴を狙わない手は無い‼︎)


 露わになった僅かな装甲部分に飛び掛かっていく闇の狼達。


「ぁぁぁーーー‼︎」

「っっっーーー‼︎」

「ぅぅぅ・・・‼︎」


 効果があると一瞬で理解出来る悲鳴が響き、生物的に魔法を受けた箇所を押さえ、小刻みに震える魔導巨兵。


(効果は絶大・・・、でも・・・)


「ぅ・・・」

「・・・っぅ」

「ぇぇぅぅぅ・・・‼︎」


 子供のすすり泣く様な声が漏れて来て、自身の子供もまだ打った事のない俺には、決して気持ちの良い状況ではなかった。


(だけど、ルグーンの狙いは其れかもしれない)


 俺は迷いを振り払う様に首を振り、魔法で広がった背中の穴へと、斬撃を振り下ろそうとした・・・、刹那。


「ぁぁぁ‼︎」

「な⁈・・・っっっ‼︎」


 其処から生え、伸びて来た、木の枝の様な細さの鋭利な爪が、俺の左肩口を貫通した。


「うっっっ・・・、ぁぁぁーーー‼︎」


 骨の折れる感覚とも、肉を裂かれる感覚とも、魔法で此の身が爛れる感覚とも違う、異物の侵入した不快感を伴った激痛。


「いつ迄も・・・、がぁぁぁっっっ‼︎」

「ぁぁぁ‼︎」


 朔夜で肩に刺さった爪を断ち、引き抜いた俺。


(どうやら、此の爪も神経の様なものが伝わっているんだな)


 響き渡る悲鳴に、俺は確信を得て・・・。


「っっっ、はあぁぁぁ‼︎」


 宙に伸びている爪を斬り裂く。


「ぅぁぁぁーーー‼︎」

「・・・」


 今度は魔導巨兵側が悲鳴を上げる番。

 ただ、俺が其れを聞き流し、爪に連続の斬撃を放ち、背中の穴に向けて刺突の構えに入った・・・、刹那。


「がっっっ⁈」


 左肩口に再び激痛が走り、俺が視線を向けると、鋭利な爪先が見え、生唾を飲み込む程度の間で・・・。


「な・・・?がぁぁぁーーー‼︎っっっーー‼︎」


 脇腹に太腿、脹脛に連続して走る激痛に、俺は悲鳴を上げた。


「何・・・、が?」


 視線を落とすと、肩口と同じ様に鋭利な爪先が見え、俺が激痛に耐えながら背後を確認すると・・・。


「っ⁈」


 宙には魔導巨兵の爪が、網の様に広がっていたのだった。

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