第429話


「ふぅぅぅ・・・」

「ケンイチ様」

「俺は良いから、テメェはさっさと闘いに戻れっ」

「・・・っ」


 ケンイチの言葉に、俺は戦況を確認する。


(元々、兵士数では劣っているから、相手側の優勢は変わっていないな)


 親衛隊はバドー指揮の元、かなりの善戦をしてはいるが、ケンイチがこの状態なのを考えると、予断は許さない状況だった。


「若頭っ」

「バドーさん?」


 族車を走らせて寄って来たバドー。

 その様子は無傷で大きな疲労も見えず、流石といえるものだった。


「どうかしましたか?」

「あっち、見て下さいっ」

「え・・・?巨・・・、いや、違う⁈」


 バドーの指し示した先、其処には巨木の様な人型の存在が居て、俺は一瞬、グネーフと同じ巨人族の者かと思ったが・・・。


「ロボット・・・?」


 其処に居たのは5メートルは超える体長に、胸部にコクピットの様なものが有る、白銀の体毛に覆われたロボットだった。


(体毛は表面だけで、内側は鋼鉄製だし、何よりコクピットには人影も見えるのだし、間違い無くロボットなのだろう)


「ロボットって何すか、若頭?」

「え〜と・・・」


 バドーには、ロボットという単語は初耳だったらしく、俺は手早く説明をした。


「・・・とりあえず」

「行くしかないでしょう」

「了解っす」


 突如、戦場に現れたロボットを観察する俺とバドーの背後では、ケンイチが地面に膝を突き休んでいる。


(傷薬は浴びた様だが、武闘纏命の影響で根本的に体力が低下しているのだろう)


 此の状況では、俺とバドーで対応するしかない。

 そう思い俺とバドーがロボットへと向け、移動を開始しようとすると・・・。


「・・・っ⁈」

「な・・・?」


 突如としてバドーの進行方向に現れた無数の魔法陣。

 俺とバドーが其れに向かい構え、いつでも対応出来る様にしたが・・・。


「此奴等・・・‼︎」


 其処から魔力による攻撃が生み出される事は無く、代わりにレイノの聖域付近で闘った、幼い九尾の銀狐達が現れたのだった。


「これはこれは、真田様」

「ルグーン・・・‼︎」

「ふふふ、お久しぶりです」


 九尾達に守られる様に立っているルグーン。


「ほお、グネーフ殿を倒されましたか・・・。真田様の仕業ですか?」

「さてな?」

「ふふふ・・・。ふむふむ、なるほど・・・」

「何だ‼︎」

「いえいえ。彼の国の将軍様の様子を見るに、あの方の仕業だと思いまして」

「・・・」

「ふふふ、そうでしたか」


 ルグーンは、俺が応えなかった事に、逆にケンイチとグネーフの闘いを確認した。


「あの、ロボットもお前の持ち物か?」

「ロボット?はて、其れは・・・?」


 恍けている風は無く、心底何か分からないという表情のルグーン。


(そうか、ロボットでは通じないのか・・・)


 俺は自身の失念に気付いたが、態々言い直す事も可笑しな感じもした。


「ああ、なるほど」

「・・・」

「アルヒミー様の用意したものの事ですね」

「アルヒミー⁈」

「ふふふ、お知り合いでしたか」


 ルグーンから告げられた内容に、瞳に魔力を注ぎコクピットを観察する。


(確かに・・・、あれは)


 ルグーンの言った通り、コクピットの中には骨の浮かんだ胸元を露わにし、身体とロボットを管で繋げたアルヒミーが居たのだった。


「ふふふ、中々、稀有なものですねえ」

「お前だって、作れるんじゃないのか?」

「ふふふ、流石に私には・・・」


 自身には答えるルグーンだが、其の表情には余裕も感じる。


(ラプラスも言っていたが、九尾を強制的に成長させる薬を創った者。其奴なら、或いは・・・)


「来ているのであろう、リアタフテ」

「・・・っ」

「ふふふ、これはこれは」


 戦場に響き渡る、か細い囁く様な声。

 リアタフテに反応し、ケンイチがピクリと動いたが・・・。


「くくく、さっさと出て来い・・・」

「おモテになりますねえ?」

「・・・」


 アルヒミーの目的は間違いなく俺だろう。


(というよりも、俺の心臓に用が有るのだろうが・・・)


 フェルトから、人工魔石の製造方法を聞いた為、アルヒミーの目的は手に取る様に理解出来た。


「若頭っ」

「バドーさん」

「此処は自分が抑えるんで、お願いします」

「でも・・・」


 ルグーンの連れて来た九尾の数は十数人居て、バドーとはいえ1人で対応するのは大変だろう。


「大丈夫っす」

「・・・」

「ケリ・・・、付けて下さい」

「バドーさん・・・、分かりました。此処は頼みます‼︎」

「了解っす‼︎」


 俺はバドーの言葉を背中に受けながら、アルヒミーの元へと翔け出したのだった。

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