第430話


「くくく、来たな・・・」

「・・・随分と愉快そうじゃないか?」

「当然だ。今日は俺が恋い焦がれ、欲していたものが手に入る日だからな」


 気色の悪い笑みを浮かべ、気味の悪い事を告げて来たアルヒミー。


「そんなに恋い焦がれられる程、以前から俺の存在を意識していたのか?」

「くくく、当然だろう?貴様が認識していないだけで、大陸で起こる争いについては、全て密偵は送っている」

「なら、俺の力は理解していた筈だが?」


 アルヒミーの告げて来た事実に、俺は虚勢を張るでもなく、淡々と応えた。


「くくく、謁見の間での件か?」

「・・・さてな?」


 当然、俺の情報を得ていたなら、アッテンテーターの謁見の間で、対応出来なかったのは可笑しな話で、アルヒミーにも俺の疑問は正確に伝わっていたらしい。


「あの時、貴様を逃したのは、彼処で殺っては面白くないからに決まってるだろう?」

「面白くない?」

「そうだ。此の『魔導巨兵』の力を試験するには、貴様は丁度良いモルモットだからな」

「・・・そうかい」


 魔導巨兵、其れがアルヒミーの乗っている、ロボットの名前なのだろう。


「其れも人工魔石で動いているのか?」

「当然であろう」

「・・・」

「くくく、貴様も此の中に加えてやろう」

「・・・」

「くくく」


 アルヒミーの言葉に、一切の反応を示さなかった俺。

 アルヒミーは其れを見て、逆に俺とフェルトの繋がりを確信した様だった。


(まぁ、密偵を放っているのだから、既に確認済みかもしれないけどな)


「・・・」

「くく・・・」


 コクピットの中で嗜虐的な笑みを浮かべ、此方を見上げて来たアルヒミーに、俺は最後迄笑わせずに、背後を取る様に急降下する。


「くく、無駄だ」

「・・・ほぉ」


 アルヒミーの乗る魔導巨兵は、其の巨体に似合わない俊敏な動きで、180度向きを変え、バックステップを決めて距離をとった。


(動きは俊敏・・・、なら‼︎)


「狩人達の狂想曲・・・、フルバースト‼︎」


 無詠唱で発動する九十九門の魔法陣が、俺と魔導巨兵の間に描かれ・・・。


「此れは、避けれんぞ‼︎」


 生まれ出て来る九十九匹の闇の狼達。


「・・・」


 其れを見ても、アルヒミーは特段、其の冷徹な表情に変化をみせなかった。


「圧殺しろぉぉぉ‼︎」


 俺の咆哮に背を押される様に一気に加速し、一斉に魔導巨兵へと襲い掛かる闇の狼達。

 俺はアルヒミーが攻撃を躱す事に備え、自身の影へと腕を伸ばしたが・・・。


「くくく・・・」

「・・・⁈」


 アルヒミーは不気味な笑みを浮かべ、コックピットを守る様に両腕で守りを固め、闇の狼達への防御体勢に入ってしまった。


(どういうつもりだ?)


 アルヒミーの狙いが理解出来ず、俺は固まってしまったが、そんな事に構わずに、闇の狼達は魔導巨兵へと体当たりや牙を立てていく。


「・・・な⁈」


 体当たりを放った闇の狼達は、魔導巨兵へと打つかり、鈍い音を立て消滅していくが、魔導巨兵の機体は穴が空く事はおろか、凹む事も、傷が付く事も無く・・・。


「くくく・・・、消えろ」

「・・・っ」


 機体へと喰らい付いていた闇の狼達は、地面へと叩きつけられ、霧散していくのだった。


「・・・」

「くくく、どうした?先程迄の威勢は?」

「ちっ・・・」

「くくく」


 九十九匹の闇の狼達の攻撃を受け、全くの無傷である魔導巨兵。

 アルヒミーは此の結果を確信していたらしく、気色が悪く厭らしい笑みを浮かべて来た。


(其処迄の強度の高い装甲には見えないが・・・?)


 俺は決して鉱石のプロという訳では無いが、クズネーツでゼムリャーから採れる鉱石を見る限りは、強度の高い鉱石は俺でも見分けが付くものなんだが・・・。


(そうなると、気になるのはあの白銀の毛・・・)


 コクピットには其れを纏っておらず、アルヒミーはコックピットを守る様にした。


(コクピットを直接狙ってみるか・・・)


「ふふふ」

「・・・っ⁈ルグーン・・・」

「頭を悩ましている様ですね、真田様?」

「別に・・・」

「ふふふ、そうですか」


 いつの間にか、俺達へと近付いていたルグーン。

 俺はバドーが心配になり、視線を向けたが、彼は九尾達に対して、孤軍奮闘していた。


「ふふふ、流石にサンクテュエール親衛隊の強者。中々粘りますねえ」

「あの人は強いぞ。こんな所に居て良いのか?」

「ふふふ、ええ。所詮は捨て駒ですから」

「・・・」

「ふふふ、怖い顔だ」


 品性の欠片も無いルグーンの発言に、俺は苛立つ感情が表情に出てしまったらしい。


「近寄るのは勝手だが、巻き込まれても知らぬぞ」

「ええ。どうぞお気になさらず、アルヒミー様」

「・・・好きにしろ」

「ふふふ」


 あまり良い関係ではなさそうな、ルグーンとアルヒミーの間に漂う空気感。

 アルヒミーは吐き捨てる様に対応していた。


「ですが、効果絶大の様で安心しました」

「まあ、そうだな。一応、感謝しておこう」

「いえいえ」


 ルグーンの口振りに、俺はある答えに辿り着く。


「其の白銀の毛は、お前の仕業だったのか」

「ふふふ。流石、真田様。気付かれましたか」

「おべっかは必要無い。どうやって創ったんだ?」

「いえいえ、偶々、入手出来たのですよ?」

「ふざけるなっ」

「ふふふ、事実なのですがねえ?」


 軽い口調で答えて来るルグーンの事を、俺は全く信用しなかったが・・・。


「レイノでの闘いの後、迷い込んだ先で入手したのです」

「迷い込んだ・・・?」

「ええ。あの忌まわしきエルフの逸れ者からの魔法の所為で、転移魔法の詠唱に失敗しましてね」


 ルグーンの言葉に、あの時の状況を思い返すと、確かにルグーンは最後に雷の鞭による追撃を放っていた。


「な・・・?じゃあ・・・」

「飛ばされてしまったのですよ。レイノの聖域へと」

「・・・⁈」


 ルグーンの告げて来た迷い込んだ先。

 其れは、ディアが秘術を会得した聖域なのだった。

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