第420話


「何を言ってるか、分かってるのか?」

「ええ、当然でしょ?」

「当然って・・・」


 俺は到底正気とは思えないフェルトの発言に、監獄の中で冷静さを失っている事を疑い、しつこいと理解しつつも問い返してみたが、フェルトは其れを堂々とした態度で受けきった。


「じゃあ、素材は何処から・・・?」

「半分は帝国と戦争した紛争地からよ」


 フェルトの告げて来た内容は、受け入れられないが、理解は追いつくものだったが、俺は半分という部分に引っかかった。


「もう半分は?」

「・・・」

「フェルト?」

「ふふ、知らない方が良いわよ」

「今更、そんな事・・・」

「ふふふ、此れは本当に司は知りたくないわよ」

「・・・っ」


 フェルトは確信を持っている様子で、言い聞かせる様な口調で告げて来た。

 ただ、俺も当然此処迄、知ったからには全てを知りたくて、食い下がろうとしたが・・・。


「ルーナ・・・」

「・・・」

「ルーナにも人工魔石が搭載してあるんだよな?」


 頭を過ぎったのはルーナの事。

 以前の話でフェルトは人工魔石の搭載を認めていたが、俺は気になって再び問い掛けたのだった。


「ええ、言ったでしょ」

「其れは・・・」

「私の母のものよ」

「な⁈」

「・・・」


 同じ時に、既に逝っていると教えられたフェルトの母。

 ルーナに搭載してある人工魔石が、其の母のものだと聞き、俺は驚きと共に・・・。


「・・・っ」

「どうしたの?」

「い、いやぁ・・・」

「・・・」


(あの時、ルーナの膝を枕にして・・・)


 俺は以前、まだフェルトが学院生の時に、研究室で偶々目撃した光景を思い出していた。


(其れで、あの時ママって・・・)


 俺が其の時の事を思い返し、無言になっていた間、フェルトも何か考え込む様にし、二人の間には静寂の時が流れていた。


「じゃあ、亡くなった時の遺品の様なものか?」


 ただ、黙っていても仕方がない為、俺は出来る限り悪い感情を感じさせない言葉を選び、フェルトに問い掛けたが・・・。


「・・・」

「フェルト・・・」


 答えてはくれないフェルト。

 俺はルーナの膝に甘えていた様子を思い返し、母を追慕しているのかと思ったが・・・。


「違うわ」

「え?」

「確かに遺品ではあるけれど、母は司の思う様な最期を迎えてはいないのよ」

「じゃあ・・・」

「母は殺されたのよ」

「・・・っ」

「アルヒミー・・・、兄に・・・、ね」

「な⁈」


 フェルトの告げて来た事実は、会談の場でのアルヒミーを思い返させ・・・。


(其れで、心臓と・・・)


 去り際にアルヒミーの告げて来た、奇怪な発言を思い出し、今やっと其の意味を理解出来た。


「何故、そんな事を?」


 フェルト曰く、母は優秀な研究者という事だったし、其の母をアルヒミーが殺す理由が分からなかった。


「実の息子なんだろ?」

「ええ、勿論。母とアルヒミー、私も血は繋がっているわ」

「其れなら、尚更・・・」

「母は、人工魔石の作製には反対していたのよ」

「・・・」


 フェルトも言っていたが、其の素材を知った今なら理解出来る。


(俺だって大した倫理観は無いが、流石に人の命と利便性は天秤には掛けれない)


「母は優れた研究者であり、絶大な魔力を持つ魔導師でもあったのよ」

「そうだったのか」

「其れもあって人工魔石の素材としては、最上級なものだったの」

「じゃあ・・・」

「ええ。人工魔石の等級は、心臓の持ち主の魔力量で決まるわ」


 其れでアルヒミーの奴は、俺の心臓を・・・。


「あれ?」

「ふふ、どうしたの?」

「どうしたのって、お前・・・」


 俺が問いたい事など、フェルトは読んでいるのだろう。

 やっと、少しいつもの調子に戻り、口元に笑みを浮かべながら、鉄格子の向こうから俺を覗き込んで来た。


「アルヒミーはフェルトの心臓を狙っているみたいだったが・・・?」

「ええ、そうね」

「魔法は使えないんじゃ?」

「ふふふ、魔流脈が弱いとは言ったけれど、魔力が少ないと言った覚えは無いわよ」

「・・・」

「ふふふ」


 揶揄う様な笑みを浮かべるフェルトを、瞳に魔力を流し見つめる。


(そんな、強力な魔力は感じないが?)


「無駄よ」

「え?」

「私は子供の頃、母から必要以上の魔力を全身に流さない為に、特殊な手術を受けているから」

「其れって・・・」

「魔流脈に障害が出てしまったから、自らの魔力で自身を滅ぼさない為によ」

「・・・」

「母も責任を感じていたのでしょうね」

「え?」

「私は生まれつき魔流脈が弱かった訳では無いから」

「でも・・・?」

「ふふ、嘘よ」

「・・・っ‼︎お前・・・」

「あら、う・・・、そ。此れで良かったかしら?」

「・・・」


 全く悪びれた様子も無く、溜めを作り偽りだった事を告げて来たフェルト。


「まぁ、今はそんな事を詰めてる場合じゃないしな」

「ふふふ、素敵よ」

「それで?」

「何かしら?」

「どうして、障害を負う事になったんだ?」

「其れは、司が知りたい事にも繋がっているわ」

「俺の?」

「ええ」

「其れって・・・」

「私の障害は幼い頃に、ザックシールに伝わる秘術を会得した時の代償だから」

「・・・っ⁈」

「司は此れを探しているのでしょう?」


 秘術を会得した、そう告げて来たフェルト。

 フェルトは自身の胸を指で指しながら、其れが自分の中に有る事を示したのだった。

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