第419話


「・・・」

「悪い、フェルト」

「・・・何かしら?」

「なるべく早くしてくれ。合流を急がないと、戦況に影響が出るんだ」

「ふふ、分かってるわ」


 俺からの催促に了承を示しつつも、何処落ち着いているフェルト。


(まさか、俺の合流を妨害している訳じゃないよな?)


 そんな疑問を抱いた俺だったが、フェルトは・・・。


「安心して、分かっているから」

「・・・」


 其れに気付き、其の事の意味も理解しているフェルトは、いよいよ本題に入る気になった様だ。


「人工魔石」

「っ⁈フェル・・・、ト?」

「ふふふ、聞きたがってたでしょ?」

「あ、あぁ・・・」


 突如として今迄、俺がどんなに問うても、答えてくれなかった人工魔石の事を自ら口にしたフェルト。


「でも・・・」

「此れから闘うのだから、説明しとかないと困るでしょ?」


 俺は本当に良いのか問おうとしたが、フェルトは気にせず続けた。


「そんなに、特殊な物なのか?」

「特殊では無いのだけれど、大きな特徴としては、小規模な物でもかなりの魔力を秘めているわよ」

「まぁ、それはそうだろうな」


 ルーナを見れば分かるが、あの細い身体に搭載出来る物で、彼処迄の複雑な機能を実現しているのだから、その魔力量はかなりのものだろう。


「アルヒミーは其れを使って何をするつもりなんだ?」

「さあ?」

「さあって・・・」

「私が国を出てからかなりの時間が経っているのよ?その時開発していた物なんて、既に旧式の物になっているわよ」

「いや、でも、大砲だって・・・」

「あれは、国へと提供している物で、ザックシールは最新の兵器は常に自家でしか使用しないわ」

「・・・」

「ふふ、そういう家なのよ」


 自家でアッテンテーターの政治を掌握するには、其れが有効なのかもしれないが・・・。


「皇帝は其れを許すのか?」

「許さなければ他国に売って、アッテンテーターを滅ぼすだけよ」

「・・・なるほどな」


 簡潔に答えるフェルトに、そういうものなのかと納得するしかない俺だった。


(ザックシールのアッテンテーターの中での立場は、会談の場での混乱時に理解させられたからな)


「じゃあ・・・」

「待って」

「・・・?」


 俺は得られる情報が無さそうなので、その場を後にしようとしたが、其れはフェルトによって止められた。


「話は其れだけでは無いわ」

「そうなのか?」

「ええ、大事な事を伝えて無いわ」

「大事な事?」

「人工魔石の作り方よ」

「な・・・、でも、其れは・・・」


 以前にフェルトに其れを聞いた時、全く答える感じが無かったのに・・・。


「どういう風の吹き回しだ?」

「知りたくなかったかしら?」

「それは・・・、知りたいけど」

「ふふ、素直ねえ。好きよ、司のそういうところ」

「・・・」


 目を細め、語る口調も穏やかで、フェルトはこれから重要な事実を告げる様には見えない様子で・・・。


「人工魔石はね、ザックシールの開発した秘術を使って作るのよ」

「秘術って・・・」

「違うわよ。飽く迄も、司の想像するものとは別のものよ」

「じゃあ・・・」

「魔法自体を発明したのは、私の曽祖父よ」

「その人は・・・?」

「流石にもう逝ってるわよ」

「だよなぁ」

「でも137歳迄生きたけど」

「ええー⁈」

「ふふふ、ザックシールはかなり遡ると、亜人の血が入ってるらしいのよ」

「そういう事か・・・」


 ザックシールも有史の始まりに近いところに、他種族の血が入っていたのか・・・。


「素材は何を使うんだ?」

「・・・」

「・・・」


 俺が素材の話を振ると、返答に困る様に、自身の思考を纏める様に瞳を閉じたフェルト。


(流石に答え辛い内容か・・・)


 フェルトの反応も仕方ないと思い、ただ、時間は惜しかった為、俺は今度はフェルトを振り切ってでも出発しようとしたが・・・。


「特殊な鉱石よ」

「特殊って・・・」

「其れは、答えられないわ」

「じゃあ・・・」

「ただ・・・」

「ん?」

「もう一つの素材と、二つだけなのよ。必要なのは」

「え?そんなものなのか⁈」


 あれ程の物なので、魔法以外にもかなりの数の素材が必要だと、勝手に思っていた俺に、フェルトの示した答えはかなり意外なもので、驚きながら聞き返していた。


「そうよ」

「もう一つって?」

「・・・」

「フェルト」

「分かっているわ・・・、すぅ〜・・・」

「・・・」


 再び、大きく息を吸い込んで、自身の胸に手を当て、覚悟を決めるフェルト。


(其れ程のものか・・・)


「・・・っ」


 俺はフェルトの様子に、自身も覚悟を決める様に、唾を飲み込んだ。


「司・・・」

「あぁ、フェルト・・・」

「其れはね・・・、人の心臓なのよ」

「え・・・、心ぞ・・・、ぅて?」


 フェルトから示された答えが信じられず、何とか絞り出す様に問い返した俺。


「そう、心臓なのよ」

「・・・っ⁈」


 然し、フェルトからは再び同じ答えが示されてしまい、俺は自らの身体を強張らせ、自身の其れを押さえたのだった。

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