第421話
「なぁ、フェルト?」
「どうしたの?」
「フェルトが秘術を会得した事、その過程で魔流脈に障害を負った事は分かったんだけど、何故、その事に母親が責任を感じるんだ?」
「ああ、その事ね」
幼い子供の責任の殆どが親に有るとはいえ、責任を感じ、手術迄する必要は無いだろう。
「母は自分がプレッシャーを掛けたと思ったのでしょう」
「プレッシャー?」
「ええ。母はザックシール家から命じられて、父の妻になったのよ」
「ええー⁈」
質問の答えにはなっていないフェルトの言葉。
ただ、俺はその内容に、驚きの声を上げてしまった。
「人工魔石を作製する魔法は、其処迄の魔力量は必要無いのだけれど、魔力操作については繊細なものが必要なの」
「へぇ・・・」
「でも、私の父は魔法の才に恵まれていなかったのよ」
「じゃあ・・・」
「ええ。ただ、其の魔法は秘匿しないと、ザックシールの帝国内での権力を失う事になりかねない」
「・・・」
「其の為、私の祖父が其の力を使って、母を無理矢理父の妻にしたのよ」
非常に分かりやすい事情を告げて来たフェルトは、自身の母がアッテンテーターで並ぶ者が居ない程の、魔導師だったと続けたのだった。
「母は研究熱心な人だったけれど、当初人工魔石の事は告げられていなかったらしいわ」
「そうなのか」
「ええ。母に其れがバレると、邪魔される可能性も有ると考えた様ね」
「なるほどな」
どうやら、フェルトの母も一応、まともな人だった様で、俺は少し安心したのだが・・・。
「ただ、母はザックシールに伝わる秘術に付いては、何処からか情報を得ていたらしいの」
「へぇ・・・」
「其れが、母が無理矢理とはいえ、父との結婚を受け入れた理由だったの」
「え?」
「ふふふ」
若干、雲行きの怪しくなって来たのを感じた俺に、フェルトは・・・。
「母は優秀な魔導師だったから、是非とも其れを自身の子に会得させたいと考えたのよ」
「じゃあ・・・」
「アルヒミーは、父程酷くは無かったけど、魔力量については凡庸な男だから」
「フェルトが・・・」
「ふふふ、そうよ。私が選ばれたの・・・、母から」
「・・・」
最初の問いに答えたフェルト。
(其れは確かに全責任が、母に有るだろう)
「私は幼い頃は、母譲りの絶大な魔力量と、魔力操作の巧緻性を持っていたから」
「そうだったのか」
「一族全てが、私に期待を掛けていたわ」
「・・・」
その表情はいつも通りの冷たいものだが、声色は少し寂しそうにも聞こえて来た。
(まぁ、此奴がこんな事で慢心を抱く事は無いだろうから、本当に凄い魔導士だったのだろう)
「それなら、蝶よ花よで育てられたんだろう?」
「ふふふ、そうね。私は見て呉れも悪くないし」
「まぁな」
「ふふふ、否定しないのね?」
「必要無いだろ?」
「ふふ、ありがとう・・・、司」
本当に嬉しそうな笑みを浮かべたフェルト。
俺は其の、フェルトの置かれている状況とのミスマッチな感じに、不謹慎ながら胸の高鳴りを感じたのだった。
「ただ、アルヒミーは其れが面白くなかったみたいね」
「まぁ・・・、そうか」
「私が秘術を会得したのは、あるダンジョンの中だったの」
「へぇ・・・」
「其のダンジョンに罠仕掛け、私の魔力の暴走を誘ったのよ」
「え、それって⁈」
「ふふふ、まあ、私が甘かったのだけれど」
「・・・っ」
何でも無い風に告げて来たフェルトだったが、アルヒミーがそんな事を・・・。
「どんな罠だったんだ?」
「ザックシールの秘術は、祖先がダンジョンに遺した制御装置の中で、其の装置から発される魔法に対して、同じ魔法で迎え撃つ事で会得出来る魔法なのよ」
「・・・」
「アルヒミーは、其の制御装置を改造して、通常では考えられない程の、魔力量を発生させたのよ」
「でも、フェルトは・・・」
「ええ。言ったでしょう?私は絶大な魔力量を持っていたの・・・、正確には今も持っているだけれど」
「・・・」
「まあ、其のお陰で死なずに済んだのだけれど」
試練が同等の魔力で応えるものなら、確かに幼い頃のフェルトの才が優れていたから、魔法も会得出来、何とか生きて戻れたとも言えるが・・・。
(アルヒミーは気色の悪い奴だと思ったが、実の妹を殺そうとするなんて・・・)
アルヒミーに複雑な感情が有ったとは考えられるが・・・。
幼い姉弟を抱える俺は、其の内容に背筋が寒くなるのを感じた。
そして、フェルトにとりあえず聞き出せる情報は此処迄と判断し、俺が本当に出発しようとすると・・・。
「ねえ、司?」
「何だ?もう本当に時間が無いんだ」
「分かっているわ」
「なら・・・」
「一つだけ、約束して・・・」
「約束?」
「ええ。・・・絶対に生きて帰ってね」
「あぁ・・・」
口元の笑みを消し、真剣な表情で告げて来たフェルトに、俺も躱す事はせずに真面目に応えた。
「もし・・・」
「ん?」
「もし、司の命に危険が及べば、迷わず逃げ帰って来て」
「・・・」
「そして、私とルーナ、司の3人で、何処か遠くへ逃げましょう」
「フェルト・・・」
「お願い・・・、司」
縋るように翡翠の双眸を濡らし、俺へと視線を送って来たフェルト。
然し・・・。
「悪いが其れは出来ない」
「・・・そんなにリアタフテが良いの?」
「そうだな、其れも有るけど・・・」
「司?」
「俺はあの男に・・・、アルヒミーに負ける事は無いからな」
「・・・」
「・・・」
「ふ、ふふふ」
「・・・」
笑った拍子に、其の頰に光るものが伝ったフェルト。
「いってらっしゃい、司。帰りを待っているわ、ルーナと二人で」
「あぁ、行ってくる」
俺はフェルトの言葉に、背中で応えたのだった。
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