第405話


「なぁ、ラプラス?」

「・・・何だ?」

「守人達に協力する起源種なんかも居るのか?」


 楽園から此方に来れない以上、守人達の人員を確保する単純な方法は限られている。


「それは有り得んな」

「どうして、言い切れるんだ?」

「守人達はそもそも、起源種を対等な存在として認めておらんからだ」


 まぁ、ラプラス達が此の世界に追放されたという事は、楽園と此の世界には、明確な優劣が有るのだろう。


「じゃあ、ルグーンは守人の関係者じゃ無いんだな」

「その様ですね」


 俺とアナスタシアが、忌敵について語り合っていると・・・。


「ほお、懐かしい名を聞いたな」

「ん?ラプラスもルグーンを知っているのか?」

「くくく、まあな」


 俺の知るルグーンと、ラプラスの懐かしいというルグーンが同一人物かは分からないが、此の世界でも珍しい名だし、ルグーンの年齢を考えると、前回の転生の時にでも出会ったのだろう。


「前回、出会したのか?」

「・・・否」


 思っていた事を、そのまま口にした俺に、ラプラスは意外な回答をして来た。


「それじゃあ、違うルグーンなのかぁ」

「其れは違うだろうな」


 そうなると、前々回なのか、或いは互いの言うルグーンが別人なのかとも思ったが・・・。


「其れも違うだろう」

「え?其れって・・・?」

「くくく、今、貴様は前々回とでも考えたのだろう?」

「あ、あぁ・・・」


 余程、俺の思考は読みやすいのか、ラプラスは先読みして否定して来た。


「じゃあ、いつ?」

「我がルグーンと最後に会ったのは、此の世界に追放され直ぐの事だ」

「・・・は?」


(其れが何百、何千年前の話か分からないが、そんな事有り得る筈が無いだろう)


 訳の分からないラプラスの発言に、思わずキツめの口調で聞き返した俺。


「くくく、言葉通りの意味だ」

「・・・」


 だが、ラプラスは落ち着いた様子で語り、続けた言葉に俺はハッとする事になる。


「奴の能力に関係しているが、奴は転生せずとも刻を渡れるのだ」

「・・・っ⁈」

「くくく、どうやら思い当たる節が有りそうだな」

「あ、あぁ・・・」

「話してみせろ」

「実は・・・」


 俺はルグーンとの出会い、そしてディシプルでの騒動から、レイノでの再会迄をラプラスへと伝えたのだった。


「なるほどな・・・」

「なぁ、ラプラス」

「何だ?」

「ルグーンの能力って何だ?蘇生魔法なんて有るのか?」

「まあ、待て」

「・・・っ」


 矢継ぎ早に質問した俺に、落ち着く様に諭しながら、ラプラスは腰を下ろし・・・。


「貴様も座れ」

「あぁ」


 長くなる話なのだろうか、俺にも続く様、促して来た。


「奴の能力について話すより、先ずは奴と我の出会いについて話すべきだろう」

「そうだな。何処で彼奴と出会ったんだ?」

「何処かと聞かれれば楽園でだが、その時は奴の存在など意識してなかったな」

「楽園?でもルグーンって・・・?」


 俺はルグーンの様相を思い返し、其処に違和感を感じた。


(確か、楽園に居るのは亜人だけじゃ・・・)


「くくく、我は現在の奴がどの様な形をしているかは知らん。然し、楽園での奴は間違いなく亜人の其れだった」

「獣人だったのか?」

「否、まあ、其れは待て」

「・・・」

「奴と我の出会いの話だ」

「あ、あぁ、そうだな」


 此方は説明を受ける側だし、ラプラスの中に話の順立てが有るのなら、其れに従う事にしよう。


「出会いは此方の世界に来て直ぐの事だった」

「え?じゃあ・・・?」

「ルグーン、奴も我と同じ様に楽園を追放された者だったのだ」

「な・・・⁈」

「・・・っ⁈」


 ラプラスから告げられたのは驚愕の新事実。

 俺は絶句し、背後で黙って話を聞いていたアナスタシアも、珍しく驚いた表情を見せていた。


「くくく・・・」

「・・・」


 不敵な笑みを浮かべるラプラスだったが、何処かその双眸の奥には暗いものを感じた。


「ラプラス・・・?」

「何だ?」

「え、え〜と・・・」


 双眸の奥に見たものに、俺は質問を続けられなくなった。


「ラプラス様」

「どうした?」

「追放者だったとはどういう事なのでしょう?」

「・・・」

「現在は違う立場なのですか?」

「アナスタシア・・・」

「くく・・・、くくく。はあっはっはっはっ‼︎」

「・・・っ」


 アナスタシアの言葉に、不自然な程可笑しそうな笑い声を上げたラプラス。

 暗いものが消えた双眸でアナスタシアを見て、短く答えたのだった。


「その通りだ」

「では?」

「裏切りのルグーン」

「裏切りのルグーン・・・」

「守人側に寝返った事で、奴はその様に呼ばれている。そして・・・」

「ラプラス?」

「其れが守人側が滅びていない大きな理由だ」


 ルグーンが転生出来ない守人側の戦力が保たれている理由。

 ラプラスはそう声高に宣言したのだった。

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