第406話


「ラプラス、それって・・・」

「ルグーン、奴の能力が関係している」

「奴の能力って?」

「そうだな・・・。其れは奴が、楽園で担っていた役目が関係した能力だ」

「奴の役目?」

「・・・」


 ラプラスは昔を思い返す様に、其の双眸の先を遠くに向け、其の場に静寂を生み出したのだった。


「・・・」

「・・・」

「奴は・・・」

「・・・っ」

「奴は、楽園では創造主御付きの書記官の様な役目を担っていたのだ」

「創造主・・・、書記官?」

「そうだ」


 ラプラスの告げて来たルグーンの役目は、そんな特殊な能力が必要な感じのしない書記官というもので、俺は若干拍子抜けしてしまった。


(特別感が有るとしたら、創造主御付きって事だけだろうけど・・・)


 そうだとすると、気になる事が一つ有る。


「なぁ、ラプラス?」

「何だ?」

「さっき、お前はルグーンの事を楽園では意識しなかったって言ってたけど?」

「ああ、言ったな」

「創造主の側に居たのにか?」

「ああ、勿論だ。というより其れも奴の能力に関係している」

「奴の能力って?」

「魂を操作する能力だ」

「魂を?」

「そうだ。其の能力により奴は悠久の刻を渡り、創造種の楽園の歴史を刻み続けていたのだ」

「・・・っ⁈」


 魂を操作する?

 其れを使い歴史を刻む?


「あっ・・・」

「くくく、気付いたか?」

「じゃあ、奴が生き返ったのは、其の能力で・・・」

「正確には、魂が滅んでいない状態で、死んではいないがな」

「・・・」


 俺がずっと疑問に思っていたルグーン復活の正体、其れは魂を移動させたものだったのだ。


(でも、それだと・・・)


「でも、ルグーンはその容姿も変化が見られなかったんだ」

「そうか」

「そうかって、もしかして、奴の魂が移動したら、容姿も奴のものに変化するのか?」

「否」

「じゃあ・・・?」

「同じ身体を用意しておいたのだろう」

「同じ身体?奴は人形の類なのか?」

「否・・・。ヒトを創り出す技術」

「え・・・?」

「我も見た事は無いが、確かに存在するのだ」

「ヒトを創り出す・・・」


 予想の斜め上をいくラプラスからの回答。

 其れは想像するには易いが、技術の根底や其の代償を想像する事は難しかった。


「其れって誰でも出来るものなのか?」

「否」

「じゃあ・・・」

「其の因子を創造主より与えられた者は唯一、此の世界の神のみだ」

「此の世界の神?」

「うむ。お前達、人族の崇める神だな」

「じゃあ、神は守人達に協力しているのか?」

「否。其れは有り得ぬ」

「有り得ぬって、何でそんな事が言い切れるんだ?」

「・・・さてな」

「・・・」


 結局、一番大事なところは教えてはくれないラプラス。


(だが、此奴が答えた情報で嘘と確認出来たものも無いんだよなぁ・・・)


 そう考えると、何らかの事情で操られている、それとも盗みの類か?

 俺はルグーン達の今迄、行って来た事柄から答えを想像してみる。


(操るにはナミョークは既に居ないし、颯と凪の時の様に攫った・・・、盗んだと考えるのが一番か?)


 ただ、それだと都合良く、ルグーンと同じ身体が有るのが不自然か・・・。


「因子って事は、神だけではヒトは創れないのか?」

「粗悪品なら可能だろうが、完全なる者を完成させるには、別に強力な力が必要だろう」

「だろうって、ラプラスは神に会った事は?」

「くくく、無いな」

「そうか、居場所は?」

「知らんっ」

「・・・」


 会った事は勿論、居場所も分からないんじゃあ、此方から探りを入れるのは不可能か・・・。

 他に知ってそうなのは・・・。


「ちっ」

「何だ?教えを請う立場で舌打ちとは」

「ち、違うんだ。今思い出したく無い奴の顔が浮かんで・・・」

「ふんっ。まあ良いが・・・」

「本当にすまない」

「くくく、構わん。我は偉大なる最強の魔人だ。そんな細かい事は気にせぬ」

「流石ですね、ラプラス様」

「そ、そうか?くくく・・・」


 不敵な笑みを浮かべながらアナスタシアへ視線を送るラプラス。

 アナスタシアもラプラスの操作術は心得ているのか、無表情で芸者発言を送っていた。


「ラプラスは、神がヒトを創り出すのを協力している者に、想像はついてるのか?」

「まあ・・・、一応はな」

「其れは?」

「・・・」

「ラプラス?」

「我等、楽園よりの追放者達の先頭にして、頂点に立つ者だ」

「チマーか?」


 ラプラスは以前、グロームを自身と同等、チマーを敵わない相手と言っていた。

 そう考えると、ラプラスが強力と表現する力の持ち主は、チマーが最初に浮かんだのだった。


「否。あれは此の世界に深く関わろうとはしてない」

「じゃあ・・・?」

「楽園の禁忌を犯す先頭に立った者が居るのだ」

「どんな奴なんだ?」

「・・・さてな」

「・・・」

「だが、其の女は今も来るべき闘いの時に向け、其の準備を進めている。其れだけは確かだ」

「闘いの時・・・」

「ああ、此の世界の、そして楽園の在り方を問う闘いのな」

「・・・」

「くくく」

「どうしたんだ?」


 急に笑い出したラプラスに問うた俺。


「血湧き肉躍るであろう?」

「・・・っ⁈」

「くくく」


 其れにラプラスは、恐ろしい笑みを浮かべながら答えたのだった。

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