第404話


「お久し振りです、ラプラス様」

「お、おう、そうだな。元気にしていたか?」

「そうですね・・・」


 久々の再会となったアナスタシアとラプラス。


(アナスタシアはザストゥイチ島でのリョートとアゴーニ夫妻との激戦で、フェルトの所への通院期間があったからなぁ・・・)


 アナスタシアは其の事を説明するのだった。


「な・・・、其れで、身体はっ⁈」

「もう大丈夫です」

「そ、そうか・・・」


 アナスタシアから身体を壊していた事を告げられたラプラスは、最初、絶望した様な辛そうな表情をみせていたが、アナスタシアから傷が完全に癒えた事を伝えられると、一転・・・。


「あの凸凹夫妻奴があぁぁぁ‼︎」


 洞窟のフロア全体を揺らす程の咆哮を上げ、額の角は激しい光を放ち、其の表情は憤怒の形相へと塗り替えられたのだった。


「ラプラス様?」

「おいっ‼︎貴様ぁ‼︎」

「な、何だ?」

「奴等の魔石は終末の大峡谷へと運んだのか⁈」

「お、おう。勿論だ」

「良しっっっ‼︎」


 俺にリョートとアゴーニの魔石の在り処を確認し、瞬時に駆け出さんばかりの勢いで腰を上げ、一気に俺との距離を詰めて来た。


「・・・っ⁈」


(もしや・・・⁈)


 まさか、今更になってラプラスからの襲撃を受けると想定してなかった俺は、一瞬覚悟を決めたが・・・。


「転移の護符を寄越せっ‼︎」

「え?え?な・・・?」

「て・ん・い・の・ご・ふ・だっ‼︎」

「転移の・・・、護符?」

「そうだっ‼︎さっさとしろおぉぉぉ‼︎」

「・・・っ⁈」


 俺の服の襟を掴み、激しく揺らしてくるラプラス。


(だ、出せないだろう・・・‼︎)


 俺は苦しさから応える事も、拒否する事も出来ずに、ただ、ラプラスにされるがままになっていた。


「ラプラス様、落ち着いて下さい」

「・・・ぐっ」

「そんな揺らしていては、司様も応えられません」

「そ、そうか・・・」

「・・・っ⁈」


 アナスタシアから入ったツッコミは、的を射たものだったが、正直なところ其処かという気持ちもあり、俺は解放されても直ぐに言葉が出て来なかった。


「ふぅ〜・・・」

「ぐぅぅぅ」

「そ、それで?」

「何だっ⁈」

「何だって・・・。それで、転移の護符を寄越せって、何をするつもりだ?」

「そんな事決まっておろう。我が、終末の大峡谷に出向いて、あの凸凹夫妻を二度と転生出来ぬ様、魔石ごと砕いてくれるわっ‼︎」

「・・・」


 予想はしていた答えだが、完全にキレているラプラスは、自らの仲間?である、リョート、アゴーニの滅殺を宣言したのだった。


「そんな事すれば、境界線の守人達と闘う戦力が減るんじゃないか?」


 俺はラプラスの冷静さを失っている様子をチャンスとみて、此奴から情報を聞き出す事にした。


「ふんっ、奴等程度居らんでも、何の問題も無いわっ‼︎」

「戦力差は?守人達の方が多勢だろう?」


 この疑問も想定も当然のもので、ラプラス達は追放された者な訳だから、多数派で有る可能性は低いだろう。


「闘いは数では無い。此方側には我が居る、其れが全てだ‼︎」

「・・・なるほどな」

「ふんっ‼︎」


 俺はラプラスの言葉に欠片程も納得していなかったが、ラプラスの勢いを失わせない為に、とりあえず受け入れておく。


「でも、本当に連絡とか取らないんだな?」

「勿論だ」


(いや、何が勿論か分からないが・・・)


「でも、目的は皆、同じなのか?」

「目的?」

「あぁ、ラプラスやリョートとアゴーニ・・・、其れにグロームなんかも・・・」

「我等に、共通した目的等無いわっ」

「え?じゃあ、何故、守人達と闘うんだ?」

「奴等が我等を狙って来るからだ」

「其れは、創造種の楽園の禁忌を犯したからか?」

「其れも有るが、全てでは無い」

「じゃあ・・・?」

「守人達の最大の目的は、楽園に帰還する事だからな」

「帰還・・・、って?」

「境界線の結界を越えるという事だ」


 ラプラスの意外な言葉に、湧いて来た新たな疑問。


「じゃあ、守人達も結界を自由に行き来する事は出来ないのか?」

「当然であろう。あれはそもそも創造主の形成したものだ」

「何の為に?」

「当然、此の世界と楽園を自由に往来させぬ為だ」

「何故?」

「・・・」

「ラプラス?」

「答えぬ」

「・・・」


(まだ、大丈夫か?)


 若干、冷静さを取り戻し始めた様子のラプラスだが、まだ、聞き出せるものなら聞き出したい事は山程あるのだ。


「グロームの目的は、分かるか?」

「奴の目的?」

「あぁ。俺は奴に二度やられたが、命を奪われていない。その狙いが分からないんだ」

「さてな・・・」

「・・・」

「ただ、奴には奴の考えも有るだろう。奴の目的を達成する為に、現在のところは貴様を殺す事が得策では無いのだろう」

「其れって・・・」

「一つ言えるのは、我等と守人達の闘いもそうだが、力有る者同士のぶつかり合いは、より強力な力を生み出す可能性を秘めている。其れにより、楽園への道を探っているのかもな」

「グロームも楽園に帰還したいのか?」

「さてな?ただ、現状を打開する為には永き眠りに就く創造主を目覚めさす必要が有る」

「え?でも、お前達を追放したのって・・・?」

「創造主だ」

「え?其れじゃあ・・・?」

「我等は追放されただけだ」

「だけって・・・」


 ラプラスは何でも無い様に告げて来たのだが、俺には十分な罰だと感じた。


「創造主はその気になれば、我等を消す事も出来た」

「何故、其れをしなかったんだ?」

「我等とて、創造主に生み出されたのだ。情も有ったのだろう」

「なるほどな」


 まぁ、禁忌とやらどれ程の悪事か分からないし、親と子の関係だと考えると、勘当されたとしても、やり直せる可能性もゼロでは無いのか?


「すいません、ラプラス様?」

「どうした?」

「少しお聞きしたい事が有りまして」

「ほお?申してみよ」


 俺とラプラスの話を一歩引き聞いていたアナスタシアだったが、何やら気になる事が有るらしく、話に入って来た。


「ありがとうございます。ラプラス様達が輪廻転生を繰り返しているなら、守人達も輪廻転生を繰り返しているのですか?」

「否、其れは無いぞ」

「同じ種族なのにですか?」

「うむ」

「何故でしょうか?」

「悪いが答えれぬ」


 俺に告げる時とは口調は違うが、ハッキリと宣言したラプラス。

 然し、アナスタシアは気にせず、質問を続けたのだった。


「ですが、其れだと守人側は既に滅びていてもおかしくないのでは?」


 守人達が楽園から此方へ来れない以上、その考えに行き着くの当然だろう。


「・・・」

「ラプラス様?」


 何やら難しい表情を浮かべ無言になったラプラス。

 俺とアナスタシアもそれに倣い、静寂の中でラプラスの返答を待つのだった。

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