第388話


「どういう事なんだ?」

「ふふ・・・、ふふふ」

「おい、フェルト」

「ふふふ、何が・・・、かしら?」

「・・・はぁ〜」

「ふふふ、ごめんなさい」


 俺から詰め寄られても、余裕の態度を崩さないフェルト。

 俺の漏らした溜息に応える様に、謝罪の言葉を発したが、口元には笑みが浮かんでいた。


「俺ももう戻らないといけないんだ」

「ふふ、いってらっしゃい」

「・・・」

「どうしたの?」

「連合軍の連中を引き渡した陛下から、お前にどんな手段で、1000近くの連合軍をザストゥイチ島迄送ったか、聞き出す様に命令が出たんだ」

「ふふ、生きている人間は、1000は切っていたと思うのだけれど?」

「・・・っ、そんな事を・・・」

「ふふふ、ごめんなさい」

「・・・」


 フェルトの言っている事は事実で、数百人の軍人は既にリアタフテ領内で、フェルトの発明品によって虐殺されていたらしい。


「あの時、私は領主さんと約束した筈だけれど?」

「それは、分かっているが・・・」

「じゃあ・・・」

「それでも、現状、サンクテュエールとアッテンテーターの関係を考えると、せめて送った発明品だけでも説明しないと、サンクテュエールの王国関係者が納得しないんだ」

「ふふふ」

「はぁ〜・・・」


 俺はフェルトの反応に、再び溜息が漏れたのだった。


(国王曰く、フェルトのところには既に使者を出していて、出頭の要請もしたらしいが、此奴は其れを断ったらしい)


「故郷からは本当に連絡は無いのか?」

「ふふふ、ええ」

「なら、大人しく出頭しとけば良かっただろう」

「ふふ、まだ大丈夫よ」

「・・・」

「大丈夫。時が来たらちゃんと要請には応えるわ」

「はぁ〜・・・」

「ふふふ」


 数えるのも馬鹿らしくなる溜息を吐いた俺に、フェルトは悪戯な笑みを浮かべ応えたのだった。


「ん?戻ったんかいの?」

「ポーさん・・・」


 元連合軍の軍人達を送り、ザストゥイチ島へと戻った俺。

 出迎えたのは仲間達では無く、軍人達がサバイバル生活の師事をしていたポーさんだった。


「やはり、島から出て貰えませんか?」

「嫌じゃ」

「何が目的なんですか?」

「目的?」

「えぇ。此の島に来た目的です」

「う〜む・・・」

「・・・」

「ふ〜ん・・・」

「・・・」

「おっ」

「ポーさん」

「ひ、み、つっ」


 もう何も言うまい・・・。


「とにかく、リョートとアゴーニ討伐だけは邪魔しないで下さい」

「心得ておるよ」

「巻き込まれても・・・」

「無論、自己責任じゃ」

「・・・助かります」


 本人も納得しているし、軍人達から聞いた話では、年齢や見た目から想像出来ない程の身のこなしらしいし、決戦場に近づかなければ大丈夫だろう。


(素性は分からないが、時期的、経緯的に考えても敵意のある存在では無いしな)


「頑張るんじゃぞ〜」

「えぇ」


 仲間達の元に向かう背中に、激励の言葉を掛けてくれたポーさん。

 俺は短く応えて、足早にその場を去った。


「戻られたのですね、司様」

「あぁ、アナスタシア」

「ちゅかさ、さむいっ‼︎」

「・・・我慢しろ、ディア」

「やだっ、かえるっ‼︎」


 軍人達送る過程で、合流していたアナスタシアとディア。

 アナスタシアは寒さに強く、いつも通りのメイド服の上から、フェルトお手製のマントを羽織っているだけだったが、対照的に寒さに弱いディアは、シルエットがダルマの様になる程コートを羽織っていた。


「今回の作戦の肝はお前なんだぞ、ディア」

「いつもいつも、わたしばっか‼︎」

「分かった、何か礼を用意するから・・・」

「・・・うそだっ‼︎」

「本当だ・・・。そうだっ、コタツなんてどうだ?」

「・・・」


 いじける様に外方向いたディアに、お礼を提示すると、少し考える様にし、横目で俺を見て来た。


(此処はもうひと押しだな・・・)


「好きだろ?」

「おこた・・・。でも、ちゅかさがつくれるわけじゃないし・・・」

「リョートとアゴーニの素材が入手出来れば、フェルトも喜ぶし、交渉は簡単だよ」

「・・・ほんと?」

「あぁ。だから・・・、な?」

「ううう〜・・・、わかったっ」

「良しっ‼︎」

「ううう〜・・・」


 不満そうにしながらも、遂に陥落したディア。


「ディア?」

「・・・なに?」

「魔法の詠唱時間はどの位だ?」

「わかんない」

「う〜ん・・・、何となくで良いんだ」

「10ふんくらい?もっとながいかも?」


 ディアがレイノで得たノイスデーテに伝わる魔法。

 威力は絶大だが、問題は其の詠唱時間で、通常詠唱より時間が掛かるらしく、発動迄の隙が最大の弱点だった。


「いけるか、アナスタシア?」

「勿論です。任せて下さい」


 ディアの詠唱中、アゴーニからの攻撃を防ぐのは、アナスタシアの役目となった。


「ほんとに、いぬっころでだいじょうぶなの?」

「あぁ。炎の攻撃に対しては、大剣の水の斬撃で対応してくれるよ」

「ええ。安心しなさい、ディア」

「でも、こないだもにせものにやられてたし」

「・・・今回は大丈夫です」

「ふ〜ん・・・」

「・・・」


 偽物というのはレイノでの九尾達の事だろう。

 ただ、挑発的なディアの態度にも、アナスタシアは努めて冷静な態度で応えたのだった。

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