第389話


「準備は出来たか?」

「はい、ブラートさん」

「良し。それなら此方も配置に就こう」


 寒さを凌ぐ為、焚き火を囲み作戦の確認をしていた俺とブラート。


「すいません、ブラートさん」

「ん?どうした?」

「そろそろ、魔物達も活発になるのに・・・」

「ふっ、気にするな」


 辺りは宵闇に包まれ、これから魔物や魔獣の活動が活発になる時間帯だったが、俺は自身の闇の支配者よりの殲滅の黙示録の効果が闇の中の方が上がるので、夜を決戦の刻に選択していた。


「仲間達の事、よろしくお願いします」

「ああ・・・、と言っても、連中なら確実にお前の期待に応えてくれるさ」

「ブラートさん・・・。えぇ‼︎」

「ふっ。じゃあ、武運を祈る」

「はいっ、ブラートさんも‼︎」


 ブラートと別れ、ディアとアナスタシアとの合流地点に到着した俺。


「ちゅかさ、おっそいっ‼︎」

「あぁ、待たせたな」

「むぅ〜・・・」

「ただ、まだ出発しないぞ」

「えー、なんで⁈」

「皆んなが、リョートとアゴーニの住処への侵入経路を塞いでくれるのを待つんだ」

「そして、私達3人で狩る訳ですね?」

「あぁ、そうだ」

「ふ〜ん・・・、まっ、いいけど」


 先程別れたブラートと、既に配置に就いていた仲間達は、俺達が2匹を狩る事に集中する為、魔物達の介入を防いでくれるのだ。


「魔物達は何故我々の邪魔をするのでしょう?」

「あぁ、それは連中がこの島の環境に適応しているからだ」

「リョートとアゴーニに居なくなれば、生きていけなくなると?」

「今更、ダンジョンに戻らないという話だ」

「なるほど」


 これはポーさんからの情報で、2匹と魔物達の間に、主従関係は存在しないらしい。

 然し、自らの欲求に素直な魔物達は、俺達が2匹を狩ろうとすると、其れを阻止する為に、俺達の妨害をして来るとの事だった。


 それから1時間程、空に美しい曲線の月が顔を見せ・・・。


「ん?」


 其の三日月の横、地上から発光する弾丸が打ち上がり・・・。


「・・・来たか」


 弾丸が炸裂すると、花火が消える間際の様に激しい閃光を放った。

 其れを合図に、俺は漆黒の装衣を纏い、闇の翼を広げる。


「良しっ、行くぞアナスタシア、ディア」

「はいっ」

「んっ」


 返事をしたアナスタシアを抱き抱え、ディアがアナスタシアの腹の上に乗り、俺の服にしっかりとしがみついたのを確認し、俺は闇の翼に魔力を注ぎ、深い闇に染まった空へと飛び立った。


「おお〜‼︎」

「いつ見ても絶景ですね」

「そうか?」


 興奮を隠さないディアと、意外と楽しんでる様子のアナスタシア。


「・・・ァァァ」

「魔物の・・・?」

「始まった様ですね」

「・・・あぁ」


 空を翔ける俺達の耳に飛び込んで来た、魔物のものと思われる絶叫。

 地上では仲間達と魔物達の戦闘が始まったらしかった。


「彼処だな・・・」

「底は・・・」

「みえない」

「・・・だな」


 俺達は襲撃を受ける事になど無く、安全にリョートとアゴーニの住処の上空へとたどり着いた。


「ディア、降りる直前に戻れよ」

「わかってるっ」

「迷わず詠唱を始めていいからな」

「わかってるってば‼︎」

「・・・頼んだぞ、アナスタシア」

「はい。でも、司様は本当に・・・」

「俺の事はいい。それよりもディアを守りながら、牽制に集中してくれ」

「分かりました」


 改めて作戦の確認をした俺達。


「良し、高度を下げるぞ・・・」


 皆で頷きあい、俺は闇の翼の力を緩め、盆地の底へと降りて行く。


「・・・っ、寒いな」

「ええ、リョートの影響でしょうか?」

「くちゅんっ」


 高度が下げる程、気温が下がっていくのを感じる。


(・・・綺麗だな)


 地上へと近付くと、凍る大地が微かな月明かりを浴び、宝石の様に煌めくのが見えた。


(来たな・・・)


 いよいよ地上迄5メートルの距離。

 ただ、身を隠す場所など無いのに、リョートとアゴーニの姿は未だ確認出来なかった。


「どうい・・・、っ⁈」


 俺が疑問を呟き始めた矢先。

 前方の大地に立っていた、氷柱が激しく振動を開始した。


「司様っ‼︎」

「あぁ、行くぞディア‼︎」

「ふんっ、分かっておると言ったであろう?」


 俺はアナスタシアと、危機を察知し素早く九尾に変化したディアを地上へと下ろし、自らも臨戦態勢に入る。


「・・・来たっ‼︎大楯ッ‼︎」


 氷柱は盆地中に轟音を響かせ破裂し、飛び散って来たのは氷の弾丸。

 俺は其れを防ぐ為、漆黒の楯を前方に詠唱した。


「・・・っ」


 やがて轟音の振動が収まり、役目を終えた漆黒の楯が消滅していった・・・、其の先。


「・・・ゴッ」


 ゼムリャー程では無いが、かなりの巨体に氷の鎧を纏った地龍。

 其の低く腹に来る様な一音を発し・・・。


「オオオーーーンンン‼︎‼︎‼︎」

「・・・ぐっ‼︎」


 続いた力強い咆哮は、俺の全身を冷気で包んだ。


「アゴーニは・・・?」

「よく見ろ、後ろじゃ‼︎」


 ディアからの厳しい指摘に、凍てつく寒さで痛む目を凝らすと、リョートの背後。


「な・・・、っ」

「・・・」


 其処にはしなやかな体躯を持つ飛龍が、闇の静寂の中其の翼を休めていたのだった。

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