第385話


「え、え〜と・・・」

「どうする、リアタフテ殿?我々と一戦交えるか?」

「・・・」


 俺が発すべき言葉を探しあぐねていると、セリューが不穏な事を言い出す。


(最初に身を隠していた人間の言葉とは思えないなぁ・・・)


 ただ、セリューの言う事も尤もで、フェーブル辺境伯軍はディシプル軍と共に、3年前の冬目前にリアタフテ領へと騙し討ちの様な形で、侵攻して来たのだった。


(だけど、既に決着もついているし、何より・・・)


「闘いは我々の勝利で終わっているのでねぇ・・・」

「・・・やはりか」

「えぇ。既にフェーブル辺境伯は刑を受け、残存兵も投降しましたよ?」

「・・・っ」


 俺から告げられた事実に、想定はしていたのだろうが、眉間に皺を寄せ、歯を軋ませたセリュー。


「フ、フォー・・・?」

「え?」


 身を潜めていた者達の中から、1人の男が何事か口にしながら歩み出て来た。


「フォール将軍はどうなったのだっ⁈」

「フォール将軍・・・、ですか?」

「そうだっ‼︎」


 此方もセリューと同じ様な服装をしているが、顔などの元来の見た目が完全に山賊の其れの為、本物の山賊の様にしか見えなかった。


(フォールを心配するという事は・・・)


「貴方はディシプル軍の・・・?」

「そうだが、そんな事はどうでも良いのだっ‼︎それよりっ・・・」

「まぁ、無事ですよ。フォール将軍は」

「で、では・・・」

「もう国に戻っていますし・・・。何よりリヴァル様も戻られましたし・・・」

「な、何だとっ‼︎」


 俺との距離を一気に詰めて来た男。


「ちょ、ちょっと・・・」

「其れは本当かっ⁈」

「え、えぇ・・・、それより・・・」

「其れより大事な話など無いっ‼︎どういう事なのだっ⁈」

「・・・っ」


 気持ちは分からなくも無いが、未だ俺と彼等の関係は敵対してないとは言えない為、俺は男が距離を詰める事を嫌がったが、男は一切気にせず俺へと掴みかからんばかりに、事の詳細を問うて来たのだった。


(まぁ、激情こそ感じるが、害意は無いな・・・)


「とにかく、一度落ち着いて下さい」

「此れが落ち着・・・」

「まあ待て、『バンディ』」

「だが、セリューよ・・・」

「そんな事では、リアタフテ殿も事の説明が出来んだろう」

「うっ・・・」

「・・・」


 セリューから宥められた事で、やっと俺から半歩程退がったバンディという男。

 俺は息を吐きたかったが、動揺を感じられたくなかったので、どうにか平静を装ってみせた。


「じゃあ、良いですか?」

「ああ、頼む」

「うう・・・」

「では・・・」


 俺はフェーブル辺境伯軍とディシプル軍の侵攻後の、顛末をセリューとバンディに伝え始めたのだった。


「そうか、やはりフェーブル様は」

「仕方あるまい」

「だな。陛下の処置は寛大だ」

「ああ。此れなら我々も・・・」


 嬉しそうにも、寂しそうにも見える不思議な表情で語り合う男達の集団が・・・。


「フォール将軍だけでなく、陛下も無事とは・・・、ううう・・・」

「泣くで無いっ、男だろう・・・、う・・・」

「お前こそっ」


 2つ。

 1つはフェーブル辺境伯軍、もう1つはディシプル軍。

 俺が話を進めていくと、徐々に身を潜めていた者達も姿を見せ、遂には其の数は数十人に達していた。

 フェーブル辺境伯軍の残党はフェーブルの刑と、残存兵の刑を聞いて自分達にもサンクテュエール復帰の可能性を感じてるのだろう。

 その様子には明るいものがあった。


「有難い、リアタフテ殿」

「いえ、私は何も・・・」

「いや、貴殿がフォール将軍を助けてくれたから、リヴァル様も戻られたのだ」

「・・・」

「本当に心より感謝する」

「は、はぁ・・・」


 フォールを助けた事とリヴァルの件は無関係なのだが、冷静な判断が出来なくなる程にディシプル軍の者達には、2人の無事が喜ばしい事だったらしい。


(まぁ、良かった・・・、て事で良いんだよな)


 俺は一々其処を指摘する事はせず、彼等の事情を問う事にした。


「それで、皆さんは何故此処に・・・?」

「それは・・・」

「あの・・・」

「いや、すまんリアタフテ殿。別に隠し事をしようとはして無いんだ」

「では?」

「我々も正直なところ、状況を把握出来ていないのだ」

「え?」

「何から話すかな・・・」


 セリューは遠くを眺める様にしながら、記憶を辿る様にゆっくりと語り出した。


「・・・という訳だ」

「なるほど・・・」


 セリューが語った内容は、その重い口調とは対照的に簡潔なもので、彼等はリアタフテ領侵攻の際に、何者かの手によりこのザストゥイチ島へと送られたとの事だった。


「其れが何者か分からなくてな・・・」

「・・・」

「リアタフテ殿?」

「あ、あぁ、いや。何でも無いですよ」

「そうか」

「・・・」


 俺はセリューの話を聞いた時に、彼等がリアタフテ領侵攻の際に担当していた任務を聞き、1人の人物の姿が頭を過ぎっていた。


(彼等を此処に送った犯人が彼奴だと考えると、旅の目的地を伝えた時の反応も理解が出来る)


 俺は悪戯そうな笑みを浮かべる、フェルトの顔を思い出したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る