第386話


 どんな手段を使ったのか分からないが、フェルトにより此処へと送られたらしい軍人達。


「でも、よく3年も乗り越えましたね」

「とんでもない生命力ですわ」

「あぁ、そうだな」


 一度船に戻り仲間達を連れて来ると、島の環境を目の当たりにし、軍人達の生命力に驚いていた。


「人族はそもそも、適応能力が高いからな」

「それにしても、凄いね」

「もう、大丈夫なのか、ルチル?」

「うん。船から降りたら、復活出来たよ」

「そうか。なら良かった」

「司様、あの方は・・・」

「ん?」


 ルーナが珍しく怯える様にし、俺の背後に隠れて指を指した先。

 其処には先程迄共にいて、仲間達を呼びに行くと移動したバンディの姿があった。


「あぁ、あれはバン・・・、っ⁈」


 俺が彼の名を告げ様とすると、バンディが連れて来た中に居た、1人の老人に視線が向いてしまう。


「司様・・・」

「おお、中々パンチが効いてるね〜」

「ううう、ですわっ」

「・・・」


 パーティ女性陣から漏れた、其々の特徴的な反応。

 ルチル以外の3人は分かり易く引いており、ルチルも軽口たたきながらも、その表情は引き攣っていた。


「どうしたんじゃ?」

「え、え〜と・・・?」

「儂がダンディ過ぎて、お嬢さん方をときめかせたかの?」

「・・・」


 女性陣の反応の原因から言葉に、俺は絶句してしまう。


(ダンディどころか、スラムでも見かけない位に、薄汚れた爺さんだなぁ・・・)


 俺がそんな失礼な事を考えたのも仕方ないと断言出来る位、その爺さんの身なりは汚いもので、何より・・・。


「ねえねえ、お爺ちゃん」

「おお、何じゃい、お嬢さん?」

「流石にその鼻毛は切った方が良いと思うよ?」


 ルチルは遠慮も悪気も無く、淡々と爺さんの上唇迄届く程伸びきった、白い鼻毛の事を指摘したのだった。


「んん〜・・・、っ‼︎」

「・・・っ⁈」

「ほお〜・・・、こりゃあいかん。道理で上唇がムズムズする訳じゃ・・・。ふっ‼︎」

「お、おぉ・・・⁈」


 爺さんは鼻毛を掴み、一気に引き抜くと、その長さを確認し、指先に置いた其れに息を吹きかけ飛ばしたのだった。


「ズズズーーー」

「つ、司様・・・」

「だ、大丈夫だぞルーナ」


 俺は肩に置かれたルーナの手を撫でてやりながら、セリューへと問い掛ける様な視線を向けた。


「ああ、紹介が遅れたな・・・。ポーさん」

「あん?」

「・・・」


 セリューは爺さんに呼び掛けながら、俺の方へと歩み出て来た。


「此方はポーさん、我々が此のザストゥイチ島へ送られてから、大変お世話になった御仁だ」

「ポーさんですか?」

「ポーさん。彼は司殿と言い、我がサンクテュエール貴族の婿にして、かなりの実力者です」

「ほお〜、そりゃ若いのに、良きじゃの」

「よろしくお願います、ポーさん」

「ふむふむ、よろしくの」


 俺からの挨拶にポーさんは、鼻毛をセットしながら応えた。


(お世話になった・・・、な)


 俺はセリューの言葉に、ポーさんに気付かれない様に観察する。

 服装はセリュー達と同じで、身体付きは確認出来たが、闘いに精通してる様には見えない。


(魔導師か・・・?)


 俺の知る高齢の魔導師はデリジャンやグリモワールと変わり者ではあるが、その身なりは綺麗に整えていたので、目の前この爺さんが彼等と同じ魔導師とは思えなかった。


「何じゃい?」

「え?あぁ、すいません」

「いや、構わんがの」

「ポーさんは魔導師なのですか?」

「違うぞ。簡単な魔法なら使えるが、下級迄じゃ」

「はぁ、そうですかぁ・・・」


 俺からの観察に気付く位の能力はあるらしいが、魔法は下級迄と答えたポーさん。

 その様子には緊張は無く、淡々としたものだった。


「ポーさんはサバイバルの達人でな」

「サバイバル?」

「うむ。此処に突如として送られた我々に、島の特殊な環境で生活していく術を与えてくれたのだ」

「では、そのマントは・・・?」

「儂の指導のもと、此奴らに作らせた物じゃ。お主らの龍の素材の其れと同じで、凍てつく大地と、炎の雨対策じゃな」

「・・・っ⁈」

「それ位見破れず、達人の域などあり得んじゃろ?」

「は、はぁ・・・」


(この島に上陸した時点で対策を見破るのは当然としても、素材其の物はフェルトの手によって加工されており、龍の素材と悟られる要素は無いのだが・・・)


「んんん〜・・・、痛っ‼︎」

「・・・」

「はあ〜・・・、ふっ‼︎」

「・・・っ、司様・・・」


 目の前ポーさんが再び鼻毛飛ばしを始めた事で、俺の肩に置かれたルーナの掌に力が入る。


「大丈夫だルーナ」

「おっ、べっぴんさんじゃの〜」

「・・・」

「ふむふむ、照れておるの〜」

「は、はは・・・」


 そんなルーナに気付いたポーさんは軽い調子で声を掛けていたが、ルーナは其れに応える事が出来ず、俺も乾いた笑いを漏らすしか出来ないのだった。

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