第381話


「・・・司様?マスター?」

「ルーナ、おはよう」

「ふふ、おかえりなさい」

「・・・はいっ」


 俺とフェルトの言葉に、何方にも対応出来る様に応えたルーナ。

 その声は寝起きの様な状態なのに、弾んだ声だった。


「早速なのだけど移動するわよ?」

「了解です、マスター」


 フェルトの言葉に躊躇いなく応えたルーナ。

 俺達は早速クズネーツへと出発したのだった。


「久々だなぁ・・・」


 此処に来たのはアウレアイッラへとクロートを送り届けて以来で、俺はディシプルとはまた香りの違う潮風を堪能した。


「それじゃあ準備を始めるわよ、ルーナ」

「はい。・・・え〜と」

「ふふ、ごめんなさい。状況説明からね」

「はい、お願いします」

「じゃあ、俺はその間にドワーフにクロートからの手紙を渡して来るよ」

「分かったわ」


 ドワーフ達の住む建物へと飛び立った俺。

 漆黒の翼を広げ空を翔けながら、地上へと視線を落とすと・・・。


「ん?あれは・・・?」


 目に付いたのは、地割れの様に続く何か巨大なものが通った残痕。

 もしやと思った俺に、クロートの代行を務めているドワーフは、事も無げに答えて来た。


「ゼムリャーが戻って来たのだ」

「やはりそうでしたか」

「此れでまた質の高い鉱石が採れる。人族の王にも伝えておけ」

「はい。よろしくお願いします」


 俺はクロートからの手紙を渡し、飛行実験の許可を得て、フェルトとルーナの所に戻った。


「司様」

「終わったの?」

「あぁ。許可は得られたよ」

「ふふ、そう」

「でも、どうやって飛ぶんだ?」

「それはね・・・、ルーナ」

「はい、マスター」


 フェルトに返事をしながら、その煌めく銀髪を掻き上げたルーナ。


「其れが?」

「はい司様。メインの飛行装置になります」


 その背中には鞄大の飛行装置が背負われていた。


「メイン?」

「はい、此処と此処に姿勢制御の装置が有ります」

「ん?おお・・・」


 ルーナの示したのは肩と靴。

 其々、小型の見慣れない制御装置が取り付けられていた。


「此れって・・・?」

「取り外しは可能よ。姿勢制御装置は服と靴に付けているのよ」

「なるほど。じゃあ?」

「ルーナから魔力供給する訳では無く、其々別の魔石で制御しているわ」

「メインの方は?」

「当然ルーナの背中と繋がっているわ」


 フェルト曰く、背中に特殊な加工を施して、一見では分からないが、魔流脈と繋げる為の差し込み口を設けたらしい。


「弱点も多くなるのよねぇ」

「魔力切れと飛行装置や姿勢制御装置を狙われる事か?」

「まあ、その辺ね。その為にもう一つの機能を追加しているわ」

「もう一つ」

「ええ。バリア機能よ」

「お、おお〜・・・」

「・・・ふぅ〜」


 思わず感嘆の声を漏らしてしまった俺だったが、フェルトは浮かない顔で溜息を吐いた。


「魔力切れは解決してないと・・・」

「ふふ、そういう事ね」

「う〜ん・・・」

「でも、空から墜とされてしまう事を考えると、緊急時の為に必要な機能なのよね〜」

「そうだな」

「大丈夫です。必ず飛行機能を使い熟せる様になって、敵からの攻撃は全て躱してみせます」

「ふふ、お願いね」

「了解です、マスター」


 決意の表情で力強く宣言するルーナだったが、其れでも魔石の問題はどうにかして解決しないといけなかった。


「バリアって全ての攻撃を防げるのか?」

「そうね、魔法にも魔物の放つブレスにも対応しているわ。ただ、直接的な打撃や斬撃、射撃等には少し弱いわね」

「そうなのかぁ・・・」

「ですがバリア機能は効果範囲によって、限界値を高められるんですよ」

「え?じゃあ・・・」

「はい。飛行装置や姿勢制御装置を射撃で狙われても、ピンポイントでバリアの限界値を高める事が可能です」

「へぇ〜」

「ふふ、とりあえず飛行実験から始めましょう」

「そうだな」

「行けるかしら、ルーナ?」

「了解です、マスター」


 フェルトに応え、俺達から少し離れ背中を示して来たルーナ。


「・・・行きますっ」

「落ち着くのよ?」


 珍しく緊張した面持ちで、両足に力が入っているルーナの背に、フェルトから声が掛かっていた。


「・・・っ」

「ルーナ、魔力を注ぎすぎよ」


 飛行装置が反応を見せると、一瞬で5メートル程宙に浮かんだルーナ。


「は、はい・・・、っ⁈」

「ルーナッ」


 フェルトからの指示に応えたルーナの飛行装置の出力が一気に落ち、そのままルーナは地面に叩きつけられてしまった。


「司様・・・」

「大丈夫かっ?」

「は、はい・・・」

「ルーナ?」

「マスター・・・、すいません」

「ふふふ、良いのよ。まだ実験を開始したばかりなのだから」

「はい」


 ルーナを気遣いながらも飛行装置のチェックをするフェルト。


「どうだ?」

「そうねえ・・・、此方に問題は無いわ」

「そうかぁ・・・」

「とにかく今は回数をこなして慣れていくしか無いわね」

「はい、マスター」

「ふふふ」


 フェルトに応えたルーナは直ぐに立ち上がり、空を見据える様に見上げるのだった。

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