第382話


「ギャアァァァ‼︎」

「・・・ぐっ‼︎」


 海面から撃ち上げられて来る水弾を、手にした朔夜で受け止める。


「返すぞっ‼︎」


 吸収した水弾を眼下の海龍へと撃ち返すと・・・。


「・・・ッ⁈」


 水弾は海龍の頭部へと着弾し、海へと沈んで行った海龍。


「装」


 妖しい輝きを放つ黒刀へと漆黒の闇を纏わせ、闇の翼へと魔力を注ぐ・・・。


「はぁ・・・」


 朔夜を構え気合いを込め・・・。


「あぁぁぁーーー‼︎」


 海へ向かい急降下すると・・・。


「・・・っ⁈」


 海面へと再び顔を出した海龍が、翔けて来た俺に一瞬身を固めた。

 その隙を逃さず急降下の勢いを持ち、頭部へと刺突を放つ。


「ギャアァァァーーー‼︎」


 朔夜の刃は強靭な海龍の体躯を簡単に貫き、断末魔の悲鳴が水平線迄響き渡ったのだった。


「ふぅ〜・・・」


 ルーナの飛行訓練の間、何もせず待つのも時間がもったいないので、時間を決めて朔夜を使い熟す為の訓練をクズネーツ近海で行なっていた。


「そろそろかな・・・?」


 飛行機能は大量の魔力を消費する為、ルーナの魔力供給にも戻らないといけない為、俺は時間を気にしていた。


「少し勿体無いけど・・・」


 俺は海龍の死体をそのままにして、クズネーツへと翔けたのだった。


 その後数日の飛行訓練を終え・・・。


「ふぅ〜・・・」

「すいません、マスター」

「ふふ、貴女の所為じゃ無いでしょ?」

「はい・・・」


 ルーナの飛行装置は機能こそ正常にして、使い熟す事にも成功したが、現在搭載している魔石では稼働時間に難点が有った。


「やはり、新しい魔石が必要だな」

「そうね。ただ、回避の幅が広がると考えれば、使用は可能よ」

「なるほどな」

「無理はしないでね、ルーナ」

「了解です、マスター」


 フェルトからの自身を案じる言葉にしっかりと応えるルーナ。


「そういえば、頼まれていた物ももうすぐ完成するわよ」

「本当か?」

「ふふ、ええ」


 俺がフェルトに頼んでいたのは・・・。


「でも、あんな物何に使うの?」

「次の目的地がザストゥイチ島って所でな・・・」

「ふふふ、なるほど」

「ん?知ってるのか?」

「ふふふ、ええ噂話位はね」

「そうか」


 どうやらザストゥイチ島の存在を知っていたらしいフェルト。

 その納得した反応を見て、どうやらアポーストルが嘘をついていないらしい事が理解出来た。


「ふ、ふふふ・・・」

「ど、どうしたんだ?」

「ふふ、ううん、何でも無いわ?」

「・・・」

「本当よ・・・。ふふふ」


 何が面白いのか分からないが、1人笑い続けるフェルト。


(こうなると、どんなに問い質そうとしても答え無いしなぁ・・・)


「分かったよ」

「ふふふ。ありがとう、司」

「・・・」

「でも品質は保証出来るわよ」

「其れは心配してないよ」

「ふふふ」


 フェルトの準備が終われば、あとは国王に許可を得るだけだが・・・。


「・・・」

「あら?どうしたの?」

「いや・・・」

「そう?」


 転移の護符がある程度安定的に手に入れられる様になり、王都へと足を運ぶ機会も増え、最近はサンクテュエールの内部事情が俺の耳に入る事も増えていた。


(アッテンテーターとの開戦は、早ければドワーフ達が魔導戦艦を完成させれば、何時でも可能という話だし・・・)


 ゼムリャーの帰還も有り、ドワーフ達の作業も順調に進んでいる様子で、ザストゥイチ島でリョートとアゴーニ討伐にそう時間は掛けれ無いだろう。


 それから一月と経たず・・・。


「司様、見て下さい」

「ん?あぁ、イルカだなぁ」

「ええ、凄いです。初めて見ました」

「ルーナはそうだったか」

「司様は?」

「昔にな・・・」


 俺は船上から海面を自由に動き回るイルカの様子を眺めながら、子供の頃に両親に連れて行って貰った、水族館の思い出を思い出していた。


「でも良かったですね」

「あぁ、何とか許可が出たからな」


 国王から得た期間は一ヶ月。

 移動を考えると、今回は転移の護符をセットするのがギリギリかもしれなかった。


「ううう〜・・・」

「大丈夫か、ルチル?」

「やっぱり、到着してから迎えに来て貰えば良かったよ」

「其処迄、酷いのかぁ・・・」

「う、うう・・・。とりあえず船室で寝とくよ・・・」

「あぁ」


 今回の旅に同行したルチルは、初の船旅という事で、是非ともちゃんと船上で生活したいと言い、出発から同行したのだが、どうやら体質的に船旅は合わなかったらしい。

 船室への階段へと、肩を落としながらフラついた足取りで向かって行くのだった。

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