第365話


「で?」

「もぎゅもぎゅ、ごっくんっ。・・・ん?」

「ん?じゃなくて、こんなとこに居て大丈夫なのか?」

「司様、それは流石に・・・」

「いや、アナスタシアッ、そういう意味じゃなくて・・・」

「はぁ・・・」

「ちゅかさ、おこられてやんの〜」

「・・・」


 此処はリアタフテ家リビング。

 ディアは郷から長が出ている事への俺からの心配も意に介さず、アナスタシアによって運ばれて来たホットケーキを頬張っていた。


「もぎゅへつに・・・、もぎゅ、あたひ・・・」

「はぁ〜・・・、食べ終えてからで良いよ」

「んっ」

「・・・」


 口に物を詰め喋るという行儀の悪い事をしながらも、器用に溢さず其れを行うディア。

 ただ、内容は分からなかったので、俺はディアが食べ終えるのを待った。


「ぷはぁ〜、ごちそうさまっ」

「はい〜、お粗末様でしたぁ」

「あむあむ・・・」

「颯、慌てると喉に詰まらずぞ?」

「んん、ん」


 一足先に食べ終えたディアに、颯は気が急いたのか、慌ててホットケーキを詰め込んでいた。


「ディアちゃんはぁ、すぐには帰らないから大丈夫よぉ?」

「んっ?」

「よるまではいる」

「んっ」


 リールとディアの会話を聞き、颯は牛乳を挟みながらこくんと頷いた。


「・・・で?大丈夫なのか?」

「ん〜、なにが?」

「何がって、ミラーシを空けてだよ」

「だいじょうぶにきまってる」

「決まってるって・・・」

「もんだいがおこればれんらくがあるし、せいじはあたしにかんけいないっ」

「え、えええ・・・」


 ディアのあんまりな発言に、呆れる様に声を漏らした俺だったが、当のディアは不満そうな視線を向けて来て続けた。


「あたしがそんなことかんがえても、さとのものごふこうになるだけ」

「・・・」

「そもそも、きゅうにそんなことできるはずない」

「なら、これから・・・」

「べつにいい」

「・・・っ」

「さとのうんえいはかんがえられるものがいるし、じんぞくのきょうりょくもある」

「あ、あぁ・・・」

「それなら、あたしはまえとおなじようにさととかかわる」

「前と同じ様にって・・・?」

「さとに・・・、いちぞくにふりかかるひのこをはらうっ」

「・・・」

「わかった?」

「・・・あぁ」


 ディアの言う事も尤もといえば尤もだし、国王の送り込んだ監視役からも、ディアは一応長として受け入れられてると報告があった。


(まぁ、領地運営に関しては、俺が口出し出来る問題じゃ無いからなぁ・・・)


 俺は半分諦めも有りながらも、ディアの言葉を受け入れるのだった。


「あら?ディア、来てたの?」

「ほお、久しいな」

「うんっ、ひさしぶり」

「ええ、久し振りね」



 リビングにやって来たローズとグランが、ディアの姿を認めると、互いに再会の挨拶をしていた。


「どうかしたのか、ローズ?」

「ええ、司にちょっと」

「俺か・・・?」

「ああ、良いかな?」

「グラン様も・・・?分かりました」


 俺が立ち上がると、2人は来たばかりのリビングから出て行ったので、俺は2人に付いて行くのだった。


「それで・・・?」

「お爺様から」

「ああ、じゃあ先に」


 2人に付いて来て着いた先は執務室。

 俺が用件を聞くと、ローズとグランは其々俺に別の用が有るらしく、先ずはグランの方から話し出した。


「私の方は司君に頼みたい事が有ってね」

「はい、何でしょうか?」

「実はエヴェック殿がこの程、ヴィエーラ教枢機卿と、王都ヴィエーラ教の最高司教の任を、同時に引退する事になってね」

「ええっ⁈それは・・・、何か?」

「うむ。噂ではミラーシの件が関係しているとも・・・」

「・・・そうですか」


 グランから告げられた突然の報告。

 確かにミラーシの有るリエース大森林は、ヴィエーラ教が領有権を持つ土地で、現在、其処にサンクテュエールから監視役の派遣をしているが、其の許可は王都ヴィエーラ教が本部の反対を押し切り出していた。


(国王はルグーンの件も有り、かなり強気に事を進めたからなぁ・・・)


 エヴェックは最初本部からの賛成は得られないと、国王に監視役をミラーシ外に置く事や、せめて本部への根回しが終わる迄待つ様に進言したが、国王は首を縦には振らなかった。


「まあ、本人は気楽にしてる様だがな」

「そうなのですか?」

「ああ。それで良ければ、曽孫の顔を見せてやれないかと思ってな」

「あぁ、そういう事ですか」

「ああ、頼めるかな?」

「えぇ、勿論です」


 グランは確か以前にエヴェックと古くからの知り合いと言っていたし、暇になり身軽になった事を良しとして言っているのだろう。

 エヴェックとは現在アンジュが手紙のやり取りをしているが、まだ刃の顔を見せる事は出来ていなかった。


(エヴェックは勿論、アンジュの両親にも顔を見せてあげれる様に出来れば・・・)


 俺はアンジュと刃の事を考え、そんな風に思った。


「私からはそれだけだ」

「分かりました。必ず約束します」

「ふふ、ありがとう」

「じゃあ、私の番ね」

「あぁ」

「・・・」

「ローズ?」


 俺とグランの話が終わると、ローズは真剣な眼差しで俺を見て来た。


「この間、司から貰った飛龍の件の犯人の情報・・・」

「・・・っ⁈ローズ?」


 俺はラプラスに術者が既にリアタフテ領から出ていると聞いた時、より正確な時間の情報を得て、ローズへと報告していた。


「やっと足取りが追えたわ」

「そうか・・・、で?」


 其の時間に領内から出て行った者は複数居て、その捜査と取り調べを行なっていたが、此方の押さえられた者の中には、犯人は居なかった。

 ただ、ある集団・・・、俺達が押さえる事の出来なかった集団が居て、国外に出ていた集団の足取りを追っていたのだ。


「陛下に立ち入りの許可を申請したから、許可が下りたら・・・」

「分かった」


 俺はローズに頷いたのだった。


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