第364話


「あれ?もう帰ったの司?」

「まぁな」

「子供は良かったの?」

「ん?まぁ、またすぐに会えるしな」

「へえ〜」


 此処はリアタフテ家屋敷のリビング。

 机に突っ伏す様にしてダラけているのは、この春フレーシュやミニョンと同じ様に学院を卒業したルチル。

 ルチルは卒業迄に就職先を決める事が出来ず、リアタフテ家で雑務の仕事をこなしながら居候していた。


「でも、街に部屋くらい借りれたんじゃないのか?」

「先立つものが無いよ」

「ダンジョンでの稼ぎは?」

「学費と寮費を親に返したら、殆ど残らなかったよ」

「そうかぁ・・・」

「何か、美味しい話無いの、司?」

「今、探してるよ」

「本当?」

「あぁ」


 リアタフテ家で居候を始めてルチルは、毎日の様に俺にこう言って来た。


(まぁ、ルチルの最終目標は自身の道場を開く事らしいから、其の資金が必要なのだろう)


「いつ迄もローズに迷惑掛けてちゃ、駄目だしね」

「お嬢様は、迷惑とは思って無いと思いますよ」

「え?ああ、アナスタシア」


 リビングへとやって来たのは、掃除道具を抱えたアナスタシア。

 最近、屋敷の仕事より戦闘している事を見る方が多かったので、新鮮な感じがした。


「そうかな〜?」

「ええ。私もお嬢様と颯様、凪様を同時に守るのは大変ですし、ルチル様が居てくれて心強いです」

「そっか〜、ローズも飛び回ってるもんね〜」

「ええ」


 基本的に、アナスタシアはローズに付いている時間が長く、凪にはアンが付いているが・・・。


「アンに護衛は無理だからな」

「ええ」


 アンはどちらかというと凪の精神安定の為、凪はその歳では抜群の意思疎通能力を持っていたが、如何せん人の好き嫌いが激しくなっていた。


(まぁ、自分の身を自分で守れる様になれば、問題無いけど・・・)


 結果的に現在は、俺が不在の場合はグランが付いていてくれた。


「これからは皆様が其々の行動をする事が、多くなりますし、信頼の置ける方が、颯様に常時付いていてくれると助かるのですが・・・」

「其れは考えないといけないんだよなぁ・・・」


 颯と凪が成長すれば、ローズは領主の仕事、颯は次期当主としての教育、凪はリアタフテ家という一大貴族の長女と、其々の役割が出て来る。

 そうなれば、活動する場所も時間も、これ迄の様に屋敷やリアタフテ領内だけでは済まなくなっていくのだ。


「あの娘が居れば良いのですが・・・」

「あぁ・・・」

「そういえば、本当に帰ったんだね?」

「あぁ、彼奴も自分の居場所で頑張っているよ・・・」


 アナスタシアの言ったあの娘とは、自身の故郷へと帰ったディアの事だった。


(そうだよなぁ・・・。彼奴も慣れない長という役割を、一族の為に果たしているんだし、俺も子供達の為に何とかしないとなぁ・・・)


 俺がそんな風に決意した瞬間だった・・・。

 玄関の扉が開く激しい音が、リビング迄響いて来た。


「む⁈侵入者っ‼︎」

「え?まさか・・・」

「出番かな?」


 こんな白昼堂々と正面玄関からの侵入者なんて・・・。

 俺は信じ難かったが、アナスタシアは自身のアイテムポーチから短刀を取り出し、ルチルは肩を軽く回していた。


(そうだな、とにかく油断はせず・・・)


 そう思い俺が首のネックレスへと手を置いた・・・、瞬間。


「まま〜‼︎」

「・・・っ⁈」


 リビング迄響いて来た聞き慣れた声に、俺とアナスタシアは顔を見合わせた。


「アナスタシア・・・」

「司様・・・」


 そんな筈は無いだろうと、互いの顔には書いてある。

 然し・・・。


「あれ?ちゅかさ、ままは?」

「え?あぁ、リール様なら、ロー・・・」

「あらぁ、ディアちゃん」

「ディアッ」

「あっ、ままにはやてだ〜」

「はいはい、ママですよぉ」

「ディアッ、ディアッ」

「・・・」


 リビングへと駆けて来たのは、見慣れた幼児形態のディアで、声に反応する様にローズの部屋に居た筈のリールと颯はリビングへとやって来たのだった。


「どういう事だっ‼︎」

「ちゅかさ、うるさいっ‼︎」

「あらあら〜、ふふふ」


 確かに声は大きかっただろうが、然しこの状況に俺は驚きもあり声を張り上げるのは仕方ない事だった。


(リールの反応を見るに、もしかすると・・・)


 そう思い俺がリールへと視線を向けると・・・。


「ふふふ、約束してたのぉ」

「・・・そうですか」

「ね〜、まま」

「ふふふ、ねぇ〜」

「ディア、ば〜ば、ねぇ〜」

「ふふふ」

「・・・」


 あっさりと告げて来たリールは、ディアと颯と3人で楽しそうに笑っていた。


「司様・・・」

「俺が間違ってるのかもなぁ・・・」

「はぁ・・・」


 俺とアナスタシアはげんなりとした表情で見つめ合い・・・。


「まあ、愉快で良いんじゃ無い?」

「・・・ルチル」


 ルチルは再びダラけた姿勢に戻ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る