第362話


「ふむ・・・」

「・・・」

「まさか、お主がのぉ」


 此処はスタージュ学院学院長室。

 時は俺がローズの婚約者として召喚されてから、4年目の春。

 向かい合うのは、スタージュ学院学院長のデリジャン。


「申し訳ありません、学院長」

「まあ、仕方あるまいて」

「もう、1年よろしくご鞭撻のほど」

「うむ」


 俺は無事留年をし、デリジャンからの呼び出しに応える形で挨拶に来ていた。


(無事も変だが、デリジャンも言ってくれた通り仕方ないだろう)


「まあ、陛下からの公式の任務で、出席日数が足りなかったからのぉ」

「やっぱり、おまけは・・・?」

「駄目じゃ」

「ですよね〜・・・」


 こういうところで、デリジャンは真面目なところが有り、頑なに卒業の許可は下りなかった。


「これで、余計にローズに頭が上がらなくなったのぉ?」

「は、はは・・・」


 俺が留年するという事は、1年分余分に学費が掛かるという事で、俺はせめて今年の分は自身で払うといったが、現当主であるローズは譲らなかった。


(それどころか、ローズは少し喜んでいたからなぁ・・・)


 まぁ、掛けた迷惑の分は他の事で返すしかないと、自身に改めて誓う事になったのだった。


「ん?お客様ですか?」

「その様じゃのぉ?入って良いぞっ」


 学院長室の扉がノックされる音が響き、俺は良いタイミングとお暇しようとすると・・・。


「やあ、久し振り・・・、って司じゃない?」

「お、お前っ‼︎」

「ん?」


 部屋の中に入って来たのは、何とアポーストルだった。


「何のつもりだっ‼︎」


 俺はネックレスを剣に変化させ、アポーストルに向かい構えた。


「何のつもりって?」

「惚けるな‼︎」

「ふふふ、何をさ?」

「何の目的でリアタフテ領に入り込んだ⁈」

「ああ、そういう事〜」


 俺からの怒号の様な問いにも、余裕を持って対応するアポーストル。

 俺はそんな様子にも、いつでも跳びかかれる様に油断を見せなかった。


「答えなければ・・・」


 「斬り捨てる」そう続け様とした俺に、アポーストルはのんびりとした調子で・・・。


「知り合いに会いに来たんだよ」


 そう答えて来た。


「嘘を吐くなっ‼︎」

「ふふふ、本当さ。ねえ、デリジャン?」

「うむ、まあのぉ」

「えっ?学院長・・・?」

「うむ、其奴の言う事は事実じゃから、とりあえず落ち着くのじゃ、司?」

「・・・な」


 嘘偽りだと決め付け身を乗り出した俺に、背後にいたデリジャンから冷静に興奮を抑える様な声が掛けられ、俺は手にしていた剣を落としてしまった。


 そして、デリジャンに勧められ、応接用椅子へと腰を下ろした俺達3人。


「・・・」

「ふふふ」

「・・・っ‼︎」

「アポーストルよっ」

「ふふふ、了解」

「・・・っ」

「ふぅ〜・・・」


 いくら学院長と知り合いとはいえ、アポーストルとの初対面の時の状況を考えると、当然の様に緊張を解く事は出来ず、椅子の前の部分に若干前傾姿勢で座っていた。


「何が有ったんじゃ?」

「ふふふ、司の勘違いからのすれ違いだよ」

「ふざけるな」

「ふふふ、怖いなぁ?」


 流石に激昂を続けると、デリジャンに止められそうな為、落ち着いた振りをしアポーストルの言葉を否定する。


「アポーストルが何かしたのか?」

「ふふふ、非道いなぁ、デリジャン?」

「儂は自分の教え子を信じておる」

「学院長・・・」

「ほっほっほっ、話してみよ?」

「はい・・・」


 俺を落ち着ける為に上手い事を言ったのかもしれない。

 それでも、俺はデリジャンの言葉が嬉しくて、ディシプルからのアポーストルとの経緯を説明したのだった。


「ふむ・・・。お主が悪いのぉ、アポーストルよ?」

「ふふふ、そうかな〜?」

「ふぅ〜・・・、すまんかったのぉ、司よ」

「学院長・・・」

「一応、これでも旧知の仲じゃ、許してやってくれぬか?」


 俺の説明を聞き終えると、デリジャンはアポーストルを非難しながらも、俺へと向かい自身の頭を下げて来た。


「は、はぁ・・・」

「お主も非合法な事ばかりするでないぞ?」

「ふふふ、まあ気を付けるよ」

「・・・」


 流石にこんな風に真っ直ぐと謝罪をされると、未だアポーストルから反省は見えなかったが、俺も冷静にならざるを得なかった。


「ふふふ、でも僕は司には感謝こそされても、怒られる覚えは無いんだけどな〜」

「さてな」

「ふふふ」


 自身のやった悪事を、無かった事にしたのは気に入らなかったが、此奴から得た情報が有るのは事実の為、俺は其れを流す事にした。


「まあのぉ」

「え?学院長?」

「良い機会じゃし、司に伝えておこう」

「はい?」

「以前、司の入学試験の時に、大量の魔石が廃魔石になった事が有ったじゃろう?」

「えぇ、それが?」

「あの時に儂が、知人から魔石を得たのを、覚えておるか?」

「はい・・・、って、まさか・・・?」

「うむ。あれはアポーストルから貰った物じゃ」

「・・・っ」


 俺が学院長から視線をアポーストルに移すと・・・。


「ふふふ・・・、ね?」

「・・・くっ」


 得意げな表情でアポーストルは微笑んでいたのだった。

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