第360話


「良く来たな司、それにディアよ」

「ははあ〜」

「・・・ふんっ」

「おい、ディア」

「ふふ、構わぬ」

「申し訳ありません」


 此処は王都王城の謁見の間。

 俺とディアは国王の呼び出しを受けやって来ていた。


「娘の様子はその後どうだ?」

「はい、先日魔眼が閉じました」

「そうか、それは何より」


 俺はレイノでの交渉の報告とルグーンの件で、暫く前に呼び出しを受けていたのだが、凪の魔眼の件も有り、国王には今日迄待って貰っていた。


(俺が目を離した隙に凪の魔力の暴走が起きると大変だし、かといって凪を王都に連れて来て、此処で万が一の事態が起きれば、其れも事だからなぁ)


「では、報告を頼む」

「ははあ〜」


 こうして俺は国王へと、レイノの件の報告を始めたのだった・・・。


「そうか、そうなってくると狐の獣人の一族にも、色々と新たな動きが有りそうだな」

「はい」

「然し、そうか・・・。ふむ」


 俺からの報告を受け、何やら考え込む様子の国王。


(まぁ、レイノとの関わり方なんかを、考えているんだろうな)


「実は、先日モナールカ殿から書簡が届いてな」

「え?そうなのですか?」

「うむ」


 まぁ、国王とモナールカとの交渉が、俺を通してだけ行われる訳も無いだろう。


(何より、向こうから何かを提示する分には、狐の獣人を使った方が早いからな)


「以前司を通じて来た、書簡の返答を求められたのだ」

「あぁ、はい。有りましたね」


 そういえば、以前セーリオから渡された書簡を、国王へと渡した事があったな・・・。


(確か内容については教えて貰えず、悪い様にはしないとだけ言われたが・・・)


「うむ、それで今日はディアにも来て貰ったのだ」

「え?ディアが関係しているのですか?」

「うむ」

「・・・」


 国王から自身の話が出たにも拘らず、ディアは興味無さそうにそっぽ向いていた。


「ディア?」

「・・・」

「すいません、陛下。内容は?」


 無言を貫くディア。

 俺は話を進める為、国王へと内容を確認すると・・・。


「うむ、ディアに対する恩赦の要求だ」

「な⁈」

「うむ、意外な要求だな?」

「・・・」


 返って来たのは意外どころか、驚天動地というべき応えで、俺は国王から語り掛けられたが、応える事が出来なかった。


(ただ、恩赦を求めるという事は、ディアに戻って来る様に言ってると考えて良いだろう)


「無論、彼等も悪い様にはせんと言っている」

「ですが・・・」

「うむ、司の言いたい事も分かる」


 当然、そんな話信じられる筈も無く、国王に食って掛かる風になったが、国王が続けたのは・・・。


「信用出来ぬ、其れは儂も同じだったが・・・。モナールカ殿は永続的に、監視を続けて構わぬと言って来たのだ」

「え?・・・人選は?」

「任せると」

「・・・」


 そうなると罠として考えられるのは、監視役に向こうで問題を起こさせて、此方に賠償を求めたり、或いは侵攻する為の、正当性にしたりするなどが考えられるが・・・。


(国王がそんな人物を選ぶ訳が無いが、狐の獣人達は全体的に人族の事を見下しているから、たとえ優秀な者でも、人族なら簡単に陥れられると考えているのか?)


「ディア、どう思う?」

「・・・」

「・・・」

「はあ〜・・・」

「・・・っ」

「たぶんおうは、こうなることがわかってた」

「こうなるって」

「セーリオや・・・、ミラーシのぜんおさのこと」


 エルマーナの事だけなら予測で分かるかもしれないが・・・。


「・・・っ、予知って事か?」

「そっ」


 セーリオの事は流石に予測出来ないだろうと思い、特殊な力を疑うと、返って来たのは短く其れを肯定するものだった。


(そうなると、ディアに復活させるミラーシの長をさせるつもりか・・・)


「どうする、ディアよ?」

「・・・」

「ディア、ちゃんと答えるんだ」


 俺は今迄のディアの様子から、どうせ断るだろうと思い、答えを促すと・・・。


「わかった、かえる」

「・・・っ⁈ディア⁈」


 其れは想像していたものとは、全く違う答えだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る