第359話


「よぉ、ラプラス」


 俺はヴェーチルの件で話を聞きに、ラプラスの根城に来ていた。


「くくく、何だ?今日はベビーシッターでもしておるのか?」

「いや、そういう訳じゃ・・・」


 ラプラスの妙な反応の理由は・・・。


「パパ〜、おにさん?」

「う、ううん・・・?」


 凪から離れる訳にもいかないので、今日は一緒に連れて来ていたのだ。


「くくく・・・、がおぉぉぉ‼︎」

「・・・っ⁈お、おい、ラプラスッ」


 ラプラスは急に立ち上がり、その両手を広げて凪に威嚇をしたのだった。


「・・・」

「ラプラス様、おやめ下さい」

「お、おお・・・」


 凪のキョトンとした反応に、アナスタシアが非難の声を上げると、ラプラスは落ち込む様な仕草を見せた。


(子供を脅かす様なものか・・・)


 俺はラプラスの動きに、身構えていたのだが、アナスタシアとのやり取りを見て、緊張を解いた。


「パパ?」

「ん?」

「おにさん、ぽんぽん、うう〜?」

「あ、あぁ、かもね」


 凪は反応に困っただけで、ラプラスの威嚇にも怖がっていた訳では無かったらしく、ラプラスの心配をする様に俺に聞いて来た。

 俺がそれに肯定すると・・・。


「そっかぁ・・・。おにさん、よしよし」

「・・・っ⁈」


 凪はへたり込んだラプラスへと駆けて行き、その腹を撫でてやったのだった。


「うう〜、ばいばい?」

「お、おお・・・」


 突然の事にラプラスはどう答えて良いのか困った様に、短く唸る様に答えたのだった。


「パパ〜、おにさん、よしよしって」

「そ、そうか、良かったな?」

「うう〜」

「は、はは・・・」

「凪様、流石です」


 子供らしい怖いもの知らずさを見せた凪に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかったが、アナスタシアは誇らしそうに胸を張っていた。


「・・・」

「ラプラス?」

「く・・・」

「・・・ん?」

「くくく、我は無敵だ、腹痛ごときで倒れる訳が無かろう?」

「おお〜、おにさん、もりもり」

「くくく、おうっ‼︎」

「・・・はぁ〜」


 俺はラプラスのしょうがない態度に、溜息を吐きで脱力を示したのだった。


 そんなやり取りを終えて・・・。


「くくく、それで今日は何だ?」

「あぁ、最近此の領に飛龍の群れがやって来てな」

「くくく、らしいな」

「やっぱり、気付いていたんだな?」

「突然であろう?」


 特段どうとでも無いという風に答えるラプラス。


「呼び込んだのだからな」

「えっ?呼び込んだって・・・?」

「貴様等では無いのか?」

「・・・」

「くくく、どうした?」

「どういう事だ⁈」

「・・・っ、パパ?」


 ラプラスから告げられたとんでもない言葉に、俺が声を荒げる様になると、凪は少し怯えた様な表情を見せて来た。


「あ、あぁ、大丈夫だよ、凪?」

「・・・」

「ごめんな、凪」

「パパ、よしよし」

「あぁ、ありがとう」


 俺がその小さな掌を撫でながら謝ると、凪は俺の掌を撫で返して来たのだった。


「くくく、何だ子供の前では形無しでは無いか?」

「まぁな」

「まあ、良かろう。貴様の反応で何となしに、状況が掴めた」


 俺に揶揄う様な視線を向けながらも、状況の整理はついたらしいラプラス。


「飛龍を呼び込んだ者の、特定がしたいんだが、出来るか?」

「流石に無理だな」

「そうかぁ・・・」

「貴様等の言う領内とやらからは、既に出ている様だしな」

「司様」

「あぁ、ローズに連絡して、領内からの人の動きをチェックしよう」


 賊が堂々と手続きをして領内から出たとは考えにくいが、一応確認する必要は有るだろう。


「ラプラス」

「ん?何だ?」

「ヴェーチルが来ていた事には気付いたか?」

「当然だ」


 答えは出ていた事だが、ラプラスからの言質を取っておく。


「何の為に?」

「さてな?奴の考える事など、我には分からぬ」

「・・・」

「くくく、当然であろう?意味も無く此の世界と楽園の境界を漂い続ける者の考えなど、理解出来る筈は有るまい?」

「意味も無くかぁ・・・」


 やはりラプラスにも、ヴェーチルの行動原理は理解出来ないらしかった。


「だが、貴様が来た事で、推測は出来たがな」

「それは・・・」

「くくく、貴様以前にヴェーチルとの邂逅の話をしただろう」

「あぁ、それが?」

「その時に、貴様の娘が奴と呼応した様子だったと言ったな?」

「・・・あぁ」

「此の娘が、其れであろう」

「・・・」

「くくく、なら奴は此の娘の危機を感知し、やって来たのだろう」

「やはり、そうか・・・」


 俺とラプラスが話し込んでいる為、凪は少し離れた場所で、アナスタシアと何やら遊んでいた。


「可能性としては契約が考えられるな」

「契約?」

「うむ。あの娘の祖先がヴェーチルと何らかの契約を交わしていて、其の契約の履行に危機を感じ来たのだろう」

「・・・う〜ん」


 ラプラスから出た契約という言葉。

 グラン曰く、リアタフテに伝わる魔法を習得出来る者は、ヴェーチルとの邂逅を果たすらしいし、契約も其れに関係しているのだろうな・・・。


「だが、あのヴェーチルがあれ程の力を、持っているとはな」

「そんなに強烈だったのか?」

「くくく、貴様は見なかったのか?」

「あぁ、少し出掛けていたし、まだ領内全域を見回って無いからな」

「くくく、なら愕然とするが良い」

「・・・」

「彼れもまた、神を冠する龍であると理解出来るだろう」

「あぁ、分かったよ」


 ラプラスは以前話した感じでは、グロームとチマーの事だけを評価している様だったが、今回の件でヴェーチルもかなりの力を示したらしかった。


「それで、うちの子の魔眼が閉じなくてな」

「ほお?」

「何か良い方法は無いか?」

「う〜む・・・」


 俺からの問いにラプラスはその視線を凪へと向け、真剣に考え込む様子を見せた。


(多分、アナスタシアとの様子を見て、いい加減な事をしない様にしてるんだろうな・・・)


「分からぬ」

「そうかぁ・・・」

「まあ、見たところ負担が掛かっている訳では無いし、暫く様子を見ててやると良いだろう」

「分かったよ・・・」


 返って来た応えは残念なものだったが、俺は納得するしかないのだった。

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