第358話


 何故か両の混沌を創造せし金色の魔眼を開いている凪。


「凪〜?」

「ん〜、パパ?」

「その・・・、な?お目目をなぁ?」


 俺は凪に魔眼を閉じさせ様と促してみると・・・。


「めめ〜、う〜っ」

「・・・っ⁈」


 突然、唸る様な声を上げた凪に、俺は身体を強張らせてしまった。


「こういう状態なの」

「なるほど・・・」

「あっ、ママだ〜」


 ローズを発見し、俺の足から離れて、ローズの足へと飛び込んでいった凪。

 ローズは俺が戻った事で安心したのだろうし、凪に寂しい思いをさせたという悩みも有ったのだろう。


「ええ凪、ごめんね」

「ママ〜?」

「・・・っ、凪‼︎」

「う〜、よ?ママ?」


 少し苦しそうにする凪の小さな身体を、謝りながら力一杯抱きしめていた。


(魔眼が閉じないとはな・・・)


 俺は当然そんな状況になった事は無いのだが・・・、凪はまだ幼いし、魔力の流れや消費についても安定しなくて不思議では無い。

 ただ、凪は同じ歳の子と比べると驚異の意思疎通能力だったが・・・。


(そうはいっても、まだ子供なんだ。此方から一方的な期待をするのは無責任だろう)


 此の状況を凪が望んでいるか、それとも凪も魔眼を閉じたいと思っているのかは分からないしな・・・。


「分かりました、状況が改善する迄自分が付きましょう」

「それが、良いだろうな」


 ルグーンの事やレイノとの交渉、色々と飛び回らないといけない事も有るが、今は何よりも子供の事を優先する事にした。


「でも、どうして急に・・・」


 最近の凪は意思疎通も取れて来た事から、魔力暴走の危険を感じさせる事は減り、少なくとも魔力を消費させる時以外に魔眼を開く事など無かった。


「其れなのだが・・・」

「グラン様?」

「実は凪が魔眼を開いたのは、飛龍の群れが此の領にやって来た時なのだ」

「・・・」


 グランが飛龍達を一掃した存在に、凪が関係有ると思っていると言っていたのは、其れが理由なのか・・・。


「そして・・・」

「・・・」

「其れはやって来たのだ」

「其れ・・・、ですか?」

「ああ・・・」


 勿体つける様なグランの口調だったが、それとは裏腹にいつもクールで知的なその表情からは、答えを求め精神をすり減らす様子が感じられた。


「・・・」

「・・・」

「済まないな」

「いえ・・・。其れとは?」

「風だった・・・」

「風?え〜と・・・?」


 グランが何とか絞り出した言葉は、余りにも簡潔で、謎の解明からは遠ざかる様に感じる一言だった。


「本当なの」

「ローズ、勿論疑ってなどいないさ。ただ・・・」

「そうよね、正体の手掛かりにはならないわよね」

「あぁ。一体其の風がどうやって、飛龍達を・・・」

「うむ、其れはある時は飲み込み、ある時は烈風を放ちだな」

「烈風を放つ・・・」


 グランの言葉通りなら、其れは風というよりは、風を纏った何らかの存在だが・・・。


「ん?・・・っ」

「司君が居れば確認出来たのだが・・・」

「グラン様・・・」

「司君が出会った時は、どんな様子だったかな?」

「・・・」


 グランも俺と同じ事を考えているらしく、俺に其の時の様子を聞いて来たのだった。


(風の神龍ヴェーチルかぁ・・・)


 確証は全くなかったが、状況から考えて間違い無いだろう。


(神龍ともなれば、飛龍の群れなんて一掃出来て不思議では無いし・・・)


 凪の状態を考えても、何らかの力の働きが有りヴェーチルを呼び寄せたと考えられる。


(まぁ、細かい事はラプラスにでも聞きに行くとしよう・・・)


 以前にヴェーチルがリエース大森林跡に来た時も、彼奴は其の存在を認識していたし、今回もヴェーチルだったなら其れに気付いているだろうし、其の理由ももしかしたら掴んでいるかもしれない。


「そういえば、魔空間の問題は大丈夫なのか?」

「ええ。今領民には街や学院の敷地外へ出る事を禁止して、バドー達に警戒に当たって貰っているわ」

「そうか」


 ヴェーチルと思われる存在が、どういう種の力で飛龍達を一掃したかは分からないが、魔法だったなら強烈な魔空間が発生していて、無数の魔物達が領内を闊歩する事になるだろう。


「ん?噂をすれば・・・」

「え?」


 俺とローズが話していると、グランが突然不思議な呟きをしたと思ったら・・・。


「ん?誰か来たのか?」


 扉をノックする音が、薄暗い空間に不気味に響いたのだった。


「失礼しますっ・・・、て、若頭じゃないっすか」

「え、バドーさん」

「ご無事で何よりっす」

「えぇ、ありがとうございます・・・、あっ」

「どうかしたんすか?」

「い、いえ・・・」


(噂をすればって、そういう事だったのか・・・)


 俺はグランの呟きの意味と理由を理解し、彼の察知能力に驚きの表情を向けると・・・。


「其れで、外の様子はどうかな?」

「はいっ、現在のところ魔物達に動きは見えて無いっすね」

「ほお・・・」

「やはり、ヴェーチルの力は魔力によるものでは無い?」

「可能性は有るかと思うっすね」

「流石、神龍といったところかな」


 ラプラスから其々の神龍の特徴を聞いた時、ヴェーチルについては其の速度を評価されていて、魔力については水の神龍ヴァダーが評価されていた。


「でも、領民に被害が及ばなかったのは、本当に幸いだったわ」

「そうだな」


 ローズはバドーからの報告に、一連の騒動での被害者ゼロに安堵の表情を浮かべていたのだった。

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