第349話


(此処で必ず仕留める‼︎)


 腹を決め俺は腕を仮面の男へ伸ばす。


「衣ッ‼︎」


 力無く首を垂らし宙に浮いてる仮面の男に、漆黒の衣を放つ。


「・・・っ⁈」


 視界の外からの拘束に為すすべ無く捕らわれた男。


「こっ・・・、のおぉぉぉーーー‼︎」

「っっっ‼︎」


 衣を引き寄せ、男を地面へと叩き付けた・・・、刹那。


「『闇の支配者よりの殲滅の黙示録インペラートルエクスティンクティオアポカリュプシス』‼︎」


 そのままの勢いで、辺りに響き渡る程の咆哮を上げると、伸ばした手の先に魔法陣が詠唱された。


「・・・っ⁈」


 魔法陣から生み出された拳大の、闇夜色の塊が瞬時に広がり周囲を闇の世界が包み込む。


「ぐうぅぅぅ‼︎」


 全身から血の気の引いていくのが感じられ、脱力感に襲われる。


(耐える、耐えてみせる‼︎)


 自身に言い聞かせる様に念じ、双眸で仮面の男を捉え、意識を集中させる。

 やがて広がり切った闇の世界は収束していき、大地に時を刻む時辰儀が魔力で描かれた。


(やはり、そう時間は無いか・・・)


 時辰儀の頂点には7の時が記されていた。


(初回に使った時は、3だったという考えたら、倍以上だがな・・・)


 数字の単位は分で、魔法の効果は記された間のみ発動する。

 其の効果とは・・・。


「行くぞっ‼︎」


 怒号を上げ男へと翔ける俺。


「・・・っ‼︎」


 防御を固めた仮面の男だが、俺は神速と呼ぶに相応しい速度で、其の上から問答無用の一撃を撃つ。


「はぁっ‼︎」

「っっっ‼︎」


 吹き飛ばされ地面を転がる男だったが、俺は距離を取らせない様に、衣に魔力を注ぎ止めたのだった。


(此の力ならいけるな・・・‼︎)


 新魔法の効果とは闇の魔法の強化。

 身に纏いし闇の装衣や、闇の狼達の強化・・・、そして・・・。


「いけませんね。行きなさい‼︎」

「・・・」


 今迄とは口調が一変したマントの男。

 ただ、今の俺にとっては、其れはどうでも良い事だった。


「・・・来たか」

「・・・‼︎」


 マントの男の指示に、地を蹴りかなりの速度で俺へと駆けて来た2匹の九尾。

 宙に12の魔法陣を無詠唱で発動し、其の尾には炎を複数纏った。


「・・・‼︎」

「衣」


 視界に広がる紅蓮の世界を、火の粉でも払う様に闇の衣で払う。


「・・・⁈」

「・・・ふんっ」


 瞬時に掻き消される炎の弾。

 俺に恐怖は欠片程も無く、熱風の鬱陶しさだけを感じていた。


「・・・っ‼︎」

「・・・諦めろよ?」


 止まる訳にもいかず、俺へと玉砕覚悟で突撃して来た九尾達。


「・・・‼︎」

「縫」


 炎を纏いし尾で、俺の頭部と足下を同時に狙って来た九尾達。

 躱す必要も無い攻撃だったが、軽く前傾姿勢になり頭部への攻撃を往なしつつも、足下を狙って来た九尾の影に拘束の漆黒の針を放つ。


「・・・⁈」

「待ってろ?」


 俺は双眸で固まった九尾を見据え、囁く様に告げ・・・。


「まずはお前」

「・・・っ⁈」


 俺の頭部を狙って来た九尾の首を、乱暴に掴み・・・。


「行くぞ?」

「っっっ‼︎」


 地面に叩きつける。


「・・・‼︎」


 地面を抉りながら転がった九尾に翔ける。


「・・・っ‼︎」


 生存本能からか身を固めた九尾だったが、一瞬で吐息のかかる距離迄間合いを詰めた俺は、九尾へと腕を伸ばし・・・。


「『ポルタ』‼︎」

「・・・っ⁈」


 指先で地面に描かれた九尾の影に触れ詠唱を行なった・・・、刹那。


「ぐっ‼︎」

「???」


 影に飲み込まれて行く俺に、九尾は唖然とした表情を浮かべていた。


(・・・くぅ‼︎)


 影に飲み込まれた先、其処は無限に広がる常闇の世界。


(何回やっても慣れないなぁ・・・)


 俺は此の世界では身体の存在は感じさせず、闇へと溶け込んでいた。


(奴は・・・、彼処か)


 闇の世界を泳ぐ様に進んで行く。


(狙い通り進んでるんだよな?)


 日々の訓練ではルーナ相手にしか使った事が無かったので、今回の様に複数の的が有る場合、ちゃんと狙い通りに進めているか、少し不安が有った。


(此処か‼︎)


 俺は自身の感覚を信じ常闇の底から、光の世界へと必死に腕を伸ばした。


「・・・くっ‼︎」

「・・・っ⁈」


 俺が常闇の世界から抜け出た先。

 其処は・・・。


(ビンゴ‼︎)


 狙い通りに仮面の男の影へと出た俺は、心の中で自身を褒める様に1人歓声を上げ・・・。

 首元のネックレスを剣へと変化させ・・・。


「はぁっ‼︎」

「っっっ‼︎」


 仮面の奥では驚愕の表情でも浮かべているのだろうか?

 そんな仮面の男の肩口へと、斬撃を決めたのだった。


「・・・」


 刃を伝う真紅の鮮血に、俺は眼下の男の人間らしさを感じた。


「終わりだ・・・」


 静かに告げ刺突の構えを取り、仮面の男の喉元へと狙いを定めた・・・、刹那。


「は・・・、っ⁈」


 剣を持つ手に襲い掛かった紅蓮の炎。

 九尾達の其れとは威力が段違いの一撃に、流石に狙いを外し、刺突は地面へと刺さったのだった。


「・・・っ⁈エルマーナッ‼︎」



 仮面の男の危機に現れたエルマーナ。

 操られているとはいえ、エルマーナから入った邪魔に、憎々しげな眼光で彼女を見据えた。


「・・・‼︎」

「・・・ちっ‼︎」


 俺と仮面の男の間に入って来たエルマーナ。

 俺は距離を取り、縫で固めた九尾へと翔け・・・。


「門‼︎」

「・・・⁈」


 再び常闇の世界へと潜った。


(次は邪魔させはしない・・・‼︎)


 自身に言い聞かせる様に唱え、狙いへと泳ぎ・・・。


(此処‼︎)


 外の世界へと出した腕で、狙った相手の細い足首を掴む。


「行くぞ、エルマーナ」

「???」

「聖跡に芽吹く蒼薔薇の息吹‼︎」

「っっっ⁈」


 通常詠唱だったが、いくらエルマーナが抵抗しても現在の俺を振り切る力は無い。

 通常詠唱が完成し、蒼い光が其の肢体を包み込む。


「・・・っ‼︎」

「還って来い‼︎」

「・・・」


 やがて光が収まり崩れ落ちたエルマーナ。


「悪いな、エルマーナ。其処で寝ててくれ?」


 俺は彼女に背を見せ、仮面の男へと剣を持つ手に力を込め翔ける。


「終わりだっ‼︎」

「っっっ‼︎」


 最後の悪足掻きか、防御を固めた仮面の男。


「無駄だ‼︎」


 怒号を上げ剣を構えた俺だったが・・・、次の瞬間。


「がっ⁈」


 背中に激痛が走り、呼吸が苦しくなる。


「な・・・」


 一瞬光の剣での一撃が頭を過ぎった俺の目には、腹を突き抜けて来た白刃が見えた。


(だ、誰が・・・?)


 声を出す事が難しくなった俺が、首を動かし頭だけ後ろに向けると・・・、其処には・・・。


「エ・・・、ナ?」


 俺の魔法を受け暗示から解放された筈のエルマーナが、手にした短剣で俺の背を刺していて・・・。


「妾は・・・、自由じゃ」

「・・・っ⁈」


 金色の光を放つ双眸で俺を見据え、告げて来たのだった。

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