第348話


「・・・っ⁈」

「ふふふ・・・」


(どういう事だ?現在の九尾の銀狐はディアだけじゃないのか⁈)


 特段確認した訳では無かったが、此れは勝手な俺の思い込みだったのか?

 そんな風に動揺し絶句している俺に、マントの男は如何にも愉快そうに笑っていたのだった。


(くっ・・・、態度が癪に触るが・・・)


 何も確認せずに先制攻撃も危険。

 やっとの事でそう判断し、俺は重い口を開いた。


「九尾の銀狐迄攫っていたのだな?」

「・・・?ふふふ」

「何が可笑しいんだ?」

「いえいえ、まさか?流石に9匹の九尾を攫おうとする程、命知らずではありませんよ?」

「な・・・?じゃあ・・・」

「ふふふ、此れ等は我々の自信作です」

「・・・⁈」


 自身を守る様に陣形を組んでいる九尾達を示し、自信作と応えて来たマントの男。

 俺はあまりにも奇天烈な回答に、再び絶句してしまった。

 そんな俺に変わり口を開いたのは・・・。


「自信作と言うだけあって、偉く自慢げだな?」

「ふふふ、これはこれは」

「・・・っ、ブラートさん・・・」


 ブラートは動揺を隠せない俺の近く迄来て、マントの男へと語り掛けた。


「貴方とも縁がありますねえ?」

「ふっ、良縁なら良かったのだがな」

「いえいえ、互いの認識のズレを正せば、そうなれるかと?」

「ふっ、なら先ずは、貴様が退け」

「お断りします。・・・ふふふ」

「ふっ」


 金縛りにあった様に固まる俺を尻目に、ブラートとマントの男は勝手にやり合っていた。


「ただ、自信作という事は意図的に用意したという事か?」

「ふふふ、まあそうなりますね?」

「・・・っ⁈な、どうやって⁈」

「ふふふ、九尾の作り方といえば、1つしか有りませんが?」

「九尾の作り方・・・、だって?」

「ふふふ、ええ」


(作り方ってどういう事だ?九尾は特定の条件下で妊娠するのか?)


 俺はマントの男に呼ばれて来た九尾の銀狐達を観察した。


(正直、ディアと同様に9本の尾で、銀色の髪と毛を持っているが、雰囲気は対照的なんだよなぁ・・・)


 九尾形態のディアが妖艶な肢体を持つ大人の女性なのに対して、眼前の九尾達は尾の数、髪の色など同様ながら、其の相貌は幼児形態のディアよりは年上ながらも、年齢は10歳程度に見えた。


(作ったといってもミラーシが襲われた時期から考えても、此の年齢は無理が有るな。それとも、其れより以前に狐の獣人を手に入れていたのか?)


 幾つもの疑問が浮かんで来たが、やはり一番の疑問は九尾の銀狐の作り方だった。


「答える気は・・・?」

「構いませんよ?」

「な⁈お前・・・」

「ふふふ・・・。ですが答えたところで、お優しい真田様には其れを行えませんし、狐達も無理ですしね」

「・・・」

「まあ、狐達は・・・、と言っても現在は王のモナールカ様のみご存知かと思いますが」

「何だって⁈」

「ふふふ、驚く必要は無いのですよ?」


 内容だけ聞くと無知な者に接する様な高圧的なものだったが、其れは本当に周知の事実の様に何でも無い口調だった。


「有史より以前には、狐達には暗黙の了解でしたので」

「有史より以前って・・・」

「ふふふ、現在では失われた歴史で有り、禁忌に触れる行為ですが」

「禁忌だって⁈」

「ふふふ・・・、ええ。そうして生まれたのですよ、初代の九尾も、此れ等も・・・。そして、真田様の所有物も?」

「・・・」


 ディアに対するものはともかく、自身の仲間に対しても顎で指し示したり、狐呼びなど、此の男の狐の獣人に対する態度は若干見下したものだった。


(いや、というよりも汚物でも見る様な感じで・・・、軽蔑してるのか?)


 其れに・・・。


(狐の獣人の禁忌って・・・、奴隷にされる事かな?)


 パランペールから得ていた情報では、其れ位しか思い浮かばないが・・・。


「ふふふ」

「何だ?」

「いえいえ。そんなに難しい顔しなくても・・・、と思いまして?」

「別に悩みなど無いさ?」

「ふふふ、そうでしたか?此れは失礼を・・・」

「・・・」


 俺の疑問には気付いているのだろう、男は薄く笑いながらも、態とらしく仰々しい動作をしながら応えた。


「何でも聞いて下さい。お答えしますよ?」

「そうか・・・、ならっ‼︎」


 俺はマントの男に応える素ぶりを見せた・・・、刹那。


「・・・⁈」


 一度おさめた闇の翼を再び広げ、空へと翔けた。


「時間稼ぎには付き合い切れん‼︎頼む、アナスタシア‼︎ブラートさん‼︎」

「はいっ‼︎」

「ふっ」


 2人に檄を飛ばし、俺の翔けた先。

 其処には、炎の渦から生還したが、未だ回復し切れていない仮面の男が居たのだった。

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