第322話


「何だい、そんなに殺気を飛ばして来て?」

「・・・今から俺のする質問に答えろ」

「ふふ、嫌と言ったら?」

「お前に拒否権は無い」

「ふふふ、怖いな〜」

「・・・」


 此処は終末の大峡谷。

 俺は海を眺めるアポーストルの背後に立ち、首元の剣へと右手を添えていた。


「ジェアンに怒られるよ〜」

「安心しろ。此処では暴れないさ」

「ふふ、転移の護符辺りかな?」

「・・・さてな」

「ふふふ」


 アポーストルの推理通り、確かに俺の左手には転移の護符が握り締められていた。


「でも、何か嫌だな〜」

「言ったろ・・・」

「うん、だからだよ」

「何がだ?」

「司が僕は質問に答えないって決め付けてるのがね〜」

「答えるなら、俺も手荒な真似をしなくて済むから助かるがな」

「う〜ん・・・、どうしよっかな〜?」


 此方に其の表情を見せず、おちょくる様に応えて来るアポーストル。


「どうなんだ?」

「ふふ、まあ良いけど?」

「そうか、なら・・・」

「でも、僕の言った通りだったでしょ?」

「何が?」

「グロームの事さ。今の司じゃ敵わなかったでしょ?」

「・・・」

「まあ、亡霊では無いみたいだから、殺されはしてないみたいだけど」

「俺がグロームを倒して無いとは言い切れないだろ?」

「魔石を持って来て無いからね〜」

「・・・」


 嫌味を言うというよりは、淡々と事実を述べているだけといった様子のアポーストル。


「でも、そうなると司の聞きたい事って、他の神龍達の話かな?」

「話が早いな」

「ふふ、でもそうか〜」

「・・・」

「ただ、僕も全ての神龍の居所を知っている訳では無いんだよ」

「全ての・・・、な」

「ふふ、そういう事。ヴェーチルの動きを察知するのは不可能だし、ヴァダーも何処に隠れているのか分からないしね」

「隠れている?」

「うん。其の絶大な魔力を使ってね」

「何の為にだ?」

「さあ?」

「さあって・・・」

「ヴァダーは魔力は勿論、高い知能も持ち合わせているからね。何か狙いが有るんだろうけど」

「狙い・・・」


 神龍達は楽園から地上に来ているのだから、境界線の守人達との闘いにおいて、何らかの意味が有る行動なのだろうけど・・・。


「じゃあ、お前が知ってる神龍は・・・」

「闇の神龍チマーかな〜?それともリョートとアゴーニの夫妻かな〜?」

「・・・」

「ふふ、そんなに怒らないでよ?せっかく楽しく話が出来ていたのに〜」

「で・・・?」

「ふふ、つまんないな〜」

「そうかい」

「ふふ、分かったよ」

「はぁ〜・・・」

「答えは、皆んなだよ」

「・・・っ⁈」


 アポーストルとのやりとりにゲンナリとしていた俺だったが、其の答えには背筋に電流が走るのを感じた。


「どうして・・・」

「まあ、其れは・・・、秘密かな?」

「・・・」

「ふふ、悪いね」

「まぁ、良いさ」

「ふふふ、意外だね」


 そう言ったアポーストルだったが、グロームの件は少なくとも嘘は無かったし、今は情報を仕入れる事が肝要だろう。


(まぁ、今回こそは騙して来るという可能性も有るのだけど・・・)


「まずはチマーだけど、『ジェールトヴァ大陸』に居るんだ」

「ジェールトヴァ大陸?」

「うん。別名地図に無い島とも言われているけどね」

「地図に無いって・・・、そんな島辿り着けるのか?」

「・・・ふふふ」

「何だよ?」

「いや、やっぱり司は召喚者なんだと思ってね」

「・・・はぁ?」


 妙な事を言うアポーストルに、俺は微妙な反応が漏れてしまった。


「大丈夫だよ」

「・・・?」

「地図に無いって言っても、ジェールトヴァ大陸の場所を知らない人なんて居ないから」

「・・・う〜ん?」

「此処から先は其れを聞いた相手に聞けば良いよ」

「急に丸投げにして来たな?」

「・・・まあね」

「・・・」

「正直、僕も此の話はあまりしたくないんだ」

「・・・そうかい」

「ふふ、恋愛トークとかな・・・」

「で、大陸って事は、正確な場所は分かるのか?」


 俺はアポーストルのくだらない話を遮る様に質問をした。


「ふふふ、残念」

「・・・」

「分かったよ。ただ正確な場所は分から無いんだ。そもそもチマーは僕等なんかじゃ到底想像も及ばない存在だからね」

「その割には、ある程度の場所は特定出来ているんだな」

「ふふ、勿論信じる信じないは司の自由さ」

「まぁ、そうだな・・・」


(此れはラプラスにでも聞けば良いだろう)


 現実問題としてグロームにすら手も足も出ない俺が、現段階でチマーの居所が分かったところでそれこそ殺されに行く様なものだろう。


「それで、リョートとアゴーニは?」

「うん。今の司の標的として可能性が有るとすれば其方だね」

「まぁな」

「ディシプルからだと西の方角に有るよ」

「西・・・、かぁ」

「うん。此方は地図にも載っている島、『ザストゥイチ島』さ」

「ザストゥイチ島?」

「ああ。永久凍土の大地に炎の雨が降り注ぐ島さ」

「・・・っ⁈」


 平然と伝えて来たアポーストル。

 俺は其の内容に息を飲み込み、絶句してしまったのだった。

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