第323話
「おいっ」
「ふふ、何だい?」
「そんな特殊な島に居れば、皆んな其の存在に気付くだろう」
「そうだね〜」
「・・・いや、そうだねって」
「ふふ、でも気付かないからしょうがないじゃない?」
アポーストルの話は一気に信憑性を失うものだったが、本人は俺が其れを態度や口調で示しても気にする様子は無かった。
「その島に人は?」
「うん、ごく僅かだけど生活してる人も居るよ。島にはダンジョンも有るし、冒険者を相手に商売をしているんだ」
「本当に神龍に気付いて居ないのか?」
「そうだよ。リョートは殆ど身を潜めているし、アゴーニに関しては、戦闘形態以外では普通の飛龍と見分けがつかないからね」
「戦闘形態?」
「ああ、そうだったね。アゴーニは戦闘形態になると常に炎を纏っているんだ」
「へぇ〜・・・」
正直ゼムリャーやグロームを見た後なので、其れにはあまり違和感を感じる事は無かった。
「そういえば、何方が雄で何方が雌なんだ?」
「リョートが雄でアゴーニが雌だね」
「行動は共にしてるんだよな?」
「一応ね。リョートは身を隠しているし、アゴーニも空に居る時間が長いから、四六時中では無いけどね」
(そういう事なら、別行動の隙を突いて・・・)
「ふふ、無理だよ?」
「ん?」
「司はどうせ別行動中を狙おうとしたんだろうけど、リョートとアゴーニは互いの危機には合流して、通常ではあり得ない力を発揮するからね」
「なるほどな」
通常ではあり得ない力かぁ・・・。
「弱点とか有るのか?」
「う〜ん、そうだね・・・。アゴーニは戦闘形態に入ると水属性の攻撃が弱点だけど、リョートはね〜・・・」
「???」
「炎が弱点だけど、中途半端な炎じゃ倒す事は勿論、傷付ける事すら無理だよ」
「そんなに堅牢なのか?」
「うん。リョートに傷を負わせる事が出来るのは、アゴーニ位じゃないかな?」
「・・・」
矛盾とは少し違うが、最強の矛と盾の話に近いものが有るな・・・。
(まぁ、あっちは答えが出なかったが・・・)
「お前はどの程度の堅さか分かるか?」
「試した事が無いからね〜」
「其れはそうだろうが」
「ただ、通常時ならリョートの堅さが上。危機的状況ならアゴーニの破壊力が上だと言う話が有るね」
「・・・何処からの?」
「ふふ、楽園関係者からの情報だよ」
「・・・」
驚くべき事でも無い、やはり此の男はそういった存在との繋がりが有るのだろう。
「それって、守人か?」
「う〜ん・・・、どうだったかな〜?」
「・・・」
「ふふふ。例えばそうだった場合、司は僕をどうするの?」
「どうするって・・・」
そう言われると答えに困った。
ラプラスなどは守人と闘う為に輪廻転生を繰り返しているが、俺は日本に居た時、其れも約20年前に妄想の中で闘っていたのだ。
(元々の設定は楽園を追放されたルーナを守る為に、俺は奴等と闘っていた。でも此方の世界ではルーナはフェルトの生み出した存在だからなぁ)
そう考えると俺は別に、連中と闘う必要が無いんだよなぁ・・・。
「ふふ、そもそも司は彼等が何をしているか知ってるの?」
「楽園から追放された者達を追ってるとしか」
「じゃあ、何故追放されたかは?」
「禁忌を犯したから?」
「じゃあ禁忌の内容は?」
「知らんな」
「ふふ、やっぱり」
「お前が答えてくれるのか?」
「ふふ、どうしよっかな〜」
勿体ぶるアポーストルだったが、ラプラスは以前全く答える様子が無かった為、此奴の方がまだ可能性が感じられた。
「じゃあ、今も追放される者は居るのか?」
「其れは・・・、無いね」
「何故?」
「境界線は現在強力な結界で覆われているからね」
「結界?誰が?」
「創造神様だよ」
「何の為に?」
「自身が永き眠りの刻に入る時、楽園と地上の争いを起こさない為さ」
「・・・」
地上と楽園の争いかぁ・・・。
「そもそも、楽園ってどんな所なんだ?」
「ふふ、それは知らないよ」
「え?」
「ふふふ、だって僕も行き来、出来ないんだから」
「そうか・・・」
(ちっ・・・)
アポーストルの言っている事を鵜呑みには出来ないが、口を滑らせる様な間の抜けた事もしないか・・・。
ただ、地上と楽園の違いが分からない事には、其処に争いが起こる原因も無いだろう。
(そもそも、争いなんて何か手に入れたい物が有るから起こるんであって、其れが何か分からないと創造神が結界を張ったという話も信じられない)
まぁ、とにかく今回はリョートとアゴーニの居場所が分かっただけで良いだろう。
俺はそう思い終末の大峡谷を後にするのだった。
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