第314話
「どうですか、ナウタさん?」
「頭・・・。あっしとしては感心出来やせんが、何とかやってみやす」
「すいません」
「へっ、気にしねえでくだせえ、時代の流れでさぁ」
「はぁ・・・」
ナウタは改造により、魔石を動力源とした船になる事に、いまいち納得出来ていない様子だった。
「若い船乗りが此れに勘違いして、海を舐めるのがイヤなだけなんですよ」
「なるほど」
「やはり、経験を積み、風や波を読み人の手で漕ぐのが船だと思うんでさぁ」
「・・・」
「へっ」
そう言って鼻を鳴らしたナウタ。
彼なりの哲学は有るのだろうが、国王の指示で有る以上は従ってもらう他無かった。
そうして、準備も順調に進み、出航の日がやって来た。
「司様、いよいよですね」
「あぁ、ルーナ」
「ルーナは楽しみです」
「そうか?」
「ええ。司様と同じ世界から来た方達の国ですから」
「どうだろうなぁ・・・」
ルーナは召喚者達の国を楽しみにしているらしかったが、召喚者が必ずしも地球から来たとは限らなかった。
(もしかしたら、他の星から召喚されて来た者も居るかもしれないからなぁ)
まぁ、日本刀が有るところを見ると、かなり昔の時代を生きていた日本人が召喚されてるのは確実だろうけど・・・。
「では、ルーナは先に部屋の準備をしておきますね」
「あぁ、頼むよ」
船への階段を駆けて行くルーナの背を見送る俺。
すると・・・。
「司」
「え?ブラートさん?」
「ふっ、久し振りだな」
「え、えぇ・・・」
突然掛けられた声に振り返ると、其処にはランコントルの飛龍の巣で別れて以来、行方を眩ましていたブラートが立っていたのだった。
「ブラートさん、今迄何処に?」
「ふっ。まあ、色々とな」
「・・・はぁ」
「ふっ。おめでとう」
「ええ⁈」
突然現れたと思ったら、いきなり祝いの言葉を掛けて来たブラート。
俺は覚えが無い為、驚きの声を上げてしまった。
「刃の事だ」
「あ、あぁ・・・。なるほど。ありがとうございます」
「ふっ。中々太々しい顔つきをしていたな」
「はは、そうですかね?」
「ああ。大物になりそうだな」
どうやら、ブラートは此処に来る前にアンジュの所に行ったらしく、其処で刃と初対面を果たした様だった。
「もしかして、見送りに来てくれたんですか?」
「見送り・・・。いや」
「そうですかぁ・・・」
他に此処に来る理由も思い浮かばなかったから、ついつい嬉しそうにそう口にした俺だったが、ブラートの反応に少し落ち込んでしまった。
「ふっ」
「・・・」
「見送りでは無く、同行させてもらいに来たんだ」
「同行・・・、ですか?」
「ああ、頼めるか?」
「ブラートさん・・・、はいっ」
「ふっ。ありがとう、司」
こうして、ブラートを旅の仲間に加えた俺達一行。
結局今回のパーティは俺とルーナとアナスタシア、そしてブラートという事となったのだった。
「流石に、速いですねぇ」
「ええ、頭」
ディシプルを出航した俺達の船は、快速で召喚者達の国のあるスキターニエ海域へと向かっていた。
「でもスキターニエ海域ってどんな所なんですか?」
「何もありやせんぜ」
「はぁ・・・」
「あっしら船乗りは近寄りたく無い海域ですがね」
「何故ですか?」
「原因不明の事故が多いんでさぁ」
「原因不明の・・・?」
「へい。船乗りの間では魔の海域とも呼ばれてるんでさぁ」
「魔の海域ですかぁ・・・」
どうやら、目的地は相当な曰く付きの場所らしい。
(アポーストルが俺達を騙している可能性も有るが・・・)
ただ、既に船も出航したのだし、後は其処で対応するしかない。
そう俺は決意を固めるのだった。
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