第315話
「う〜ん・・・」
「どうしたんですかい、頭?」
「あっ、ナウタさん」
快適な海の旅を続ける我が船。
その甲板上で俺が1人唸っていると、ナウタから声が掛かった。
「えぇ、今回は海龍に全く出くわさないと思いまして・・・」
「ああ、なるほど」
「何か理由が有るんでしょうか?」
「そうですねえ・・・」
ナウタ曰く、俺達が現在進んでいる航路は、決して海龍達が生息していない訳では無いらしかったが、前回のクズネーツへの航海ではあれほど頻繁に襲って来た海龍達が、今回はどうした事か全く船へと手を出して来なかった。
「まあ、此れはあっしの勘ですが・・・」
「はい」
「此の船は今、通常ではあり得ない速度で海を渡っていやす」
「・・・」
「海龍達は、あれで臆病な連中でさぁ」
「・・・」
「此の船の速度を見て、新手の生物だと思っている可能性があると思いやすね」
「なるほど」
「まあ、船乗りの勘ってやつでさぁ」
勘という事を強調したナウタだったが、そもそも海の事は彼が一番詳しいのだし、其の仮定は一番信憑性が有るだろう。
(それに、海龍達は集団で狩りを行うから、恐れはどうか分からないが、逃げ延びられる可能性の高い此の船を狙わないのかもしれないなぁ)
ただ、これ程の技術を開発してアッテンテーター戦に備えるという事は、国王は対アッテンテーターにかなり本気なんだなぁ・・・。
(国王は野心の強そうな人間には見えないが、近隣諸国最強のアッテンテーターを滅ぼせば、いよいよサンクテュエールは大陸に覇を唱える訳だ)
まぁ、リアタフテはサンクテュエールを代表する貴族だし、ケンイチも居る事だし、闘いに勝ちさえすれば俺達一家の未来が明るいのだから問題無いだろう。
(俺はローズ達は勿論、アンジュ達の為にも勝利し続けるしか無いのだから、悩んでもしょうがない事で頭を悩ます必要は無いがな)
「まあ、平穏なのは物足りないですがね」
「物足りない・・・、ですか?」
「ええ。あっしらは常に海龍や突然の荒波と闘いの日々でしたから」
「あぁ・・・」
「へっ。頭も物足りないんじゃ無いですかい?」
「え・・・、どうですかねぇ?」
「頭からはあっしらと同じ匂いがするんでさぁ」
「同じ匂いですか?」
「ええ。海の漢の匂いがでさぁ」
「ええー?」
「へっ」
意外過ぎるナウタの評価に、俺は声を上げ驚いていた。
(少なくとも、日本に居た時も周囲の俺に対する評価はなよなよしてる、女々しい等非道いものだったが・・・)
まぁ、此方の世界でも俺と直接戦闘をした事の無い者達は、この相貌から以前と変わらぬ評価なのだが・・・。
こうして、俺達がディシプルから出航して1ヶ月、スキターニエ海域へと辿り着いた。
「暗いなぁ・・・」
俺は若干の霧が広がり、空は晴れているのに洋上で其処だけ曇りの様な場所に、魔の海域と呼ぶに相応しい雰囲気を感じた。
「頭ぁ」
「えぇ、待って下さい、今出します」
ナウタから掛かった声に、俺はアイテムポーチから導きの石を取り出した。
「おぉ〜・・・⁈」
俺は導きの石を手にした瞬間、驚きの声を上げてしまった。
「輝いてるなぁ・・・。其れに・・・」
手にした導きの石はかなり強い光を放ち、海上に光の路を描いていた。
「頭ぁ、良いですかいっ?」
「は、はいっ」
「此処からは魔石を切って、あっしらに船の操縦を任せて下せぇ」
「はい、分かりました」
俺はナウタの言葉に、王都から派遣された魔工技師達に、魔石の流れを切らせた。
「行くぞー、おめぇらぁ‼︎」
「「「へいっ‼︎」」」
「・・・っ」
今回の航海で見せなかったナウタの緊張感の有る張り詰めた声に、其れを飲み込む程の声で応えた船乗り達。
俺はその様子に唾を飲み込み、音にならない音を鳴らしていた。
「頭ぁ、しっかり掴まってて下せぇ‼︎」
「はいっ‼︎」
スキターニエ海域は特別海が荒れている様子は無いが、行く先の見えない状況にナウタから注意が飛んで来た。
「・・・」
「おめぇらもたもたするんじゃねぇ‼︎」
「「「へいっ‼︎」」」
ナウタからの檄に応える船乗り達。
ただ、とりあえず甲板上に特別揺れなどは無かった。
(器用なもんだなぁ・・・)
導きの石が示す路を、その相貌からは想像出来ない程器用に船でなぞっていくナウタ。
俺はその様子に素直に感心していた。
「ん?あれは・・・⁈」
ナウタに船の操縦を任せて1時間程、船の速度が落ち、船の進行方向には島が見えて来た。
「あれが・・・」
「見えて来た様だな」
「ブラートさん」
船の動きが緩やかになった事に反応する様に、甲板上へと顔を出して来たブラート。
「ふっ、楽しみだな、司」
「ブラートさん・・・。えぇ‼︎」
これから神龍に挑むというのに、冷静だが強気な態度のブラート。
俺も彼に瞳を輝かせ応えたのだった。
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