第313話


「分かったわ」

「すまない、刃も生まれたばかりなのに」

「仕方ないわよ」


 俺は国王から航海の許可を得た後、ローズに報告を行い、了承も得て、ディシプルのアンジュのもとを訪れていた。


「でも、今回はどうするの?」

「どうするって?」

「1人で行くつもり?」

「いや、ナウタさん達と王都の魔工技師達とだけど?」

「そうじゃなくてっ」

「え?」


 アンジュは自身の問い掛けに対する俺の答えに何やら不満があるらしく、刃を出産以降珍しく、頰を膨らませていた。


(最近は、本当に母の顔になっているのになぁ・・・)


 ただ、俺はアンジュにそんな反応を示される理由に心当たりが無いのだが・・・。


「もう・・・」

「どうしたんだ、アンジュ?」

「そうじゃなくて、司以外にパーティメンバーは居るかって話よ。例えば・・・、フレーシュとか」

「あ、あぁ、そういう事か」

「で、どうなのっ?」

「う〜ん・・・」


 アンジュの質問の意図は理解出来たが、今回はまだグロームについての詳細な情報は得られていない。


(とりあえず其れについては、アポーストルよりはラプラスの方が信頼出来るだろう)


 ゼムリャーはエネルギーを取り込む副産物として土龍達を生み出していたが、グロームはどうなのだろう?


(雨が使用しにくくなるという難点は有るが、回復を考慮するとパーティを組んだ方が良いだろう)


 それに実は・・・。


「パーティは分からないが、アナスタシアは同行するつもりらしい」

「へえ〜、そうなの」

「あぁ」


 アンジュはアナスタシアの名には特段の反応は示さないのだった。


(アンジュも流石にアナスタシアには嫉妬しないらしいな)


 アナスタシアは俺とアンジュの件で未だに責任を感じているらしく、今回の航海が決まると、すぐにローズと俺に同行の許可を求めて来た。


「どの位で出航するの?」

「1月は掛からないらしい」

「急ねえ」

「あぁ・・・」


 其れはアッテンテーターとの件が有るのだが、流石にアンジュに伝える訳にはいかないからな・・・。


 その後やって来たのはディシプル城。

 俺はフォールに旅の間のアンジュと刃の事を頼みにと、リヴァルのその後の経過を聞きに来たのだった。


「では・・・」

「うむ。まだ明確な意識は戻られていないのだ」

「そうですかぁ・・・」


 リヴァルは体調の方は問題無いらしく、何事か意味の無い呟きをしたりはするらしいが、未だ意味の有る事を喋る事は無いらしかった。


「健啖なのが救いだがな」

「そうですか、其れは安心出来ますね」

「うむ。だが、真田殿には悪いな」

「え?」

「陛下の意識が戻られれば、神龍の情報も得られるだろうし」

「あぁ。其れは気にしないで下さい」


 確かに其れは無くなかったが、アンジュと刃の件も、そして以前のミラーシの件も、フォールには世話になっているし、そのフォールの大事な人なのだし、俺は純粋にリヴァルの意識が戻る事を願っていた。


「そういえば、真田殿」

「はい?」

「召喚者達の国に行くなら、1つ頼みたい物が有るのだが」

「何でしょうか?」

「刀剣を一本頼みたいのだ」

「あっ・・・」


 フォールからの依頼に、俺はクロートから妖刀白夜が、ドワーフの祖先と召喚者達によって打たれたという事を思い出した。


「以前、真田殿も欲しいと言っていたな」

「はい」

「白夜を奪われて以来、普通の剣を使っているのだが、どうもしっくりこなくてな」

「分かりました」


 こうして俺はフォールからの依頼を引き受けたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る