第312話


「ふむ・・・」

「・・・」

「どの程度で戻れる予定だ?」


 終末の大峡谷で、アポーストルから雷の神龍グロームの情報を得た俺は、サンクテュエール国王へと旅の許可を取りに来ていた。


「3ヶ月程で到着する予定です」

「・・・う〜む」

「・・・」


 俺がナウタから得た航海予定を伝えると、国王は苦虫を噛み潰したような表情を見せたのだった。


(ナウタが依頼を引き受けてくれたのは良かったが・・・)


 俺が終末の大峡谷を後にし、先ずはナウタへと依頼に行くと、ナウタは二つ返事で了承してくれたのだった。


「ローズは何と言っておる?」

「いえ、まだ伝えておりません」

「ほお、何故だ?」

「私は陛下の忠実なる僕です。先ずは陛下の許可を得るのが肝要かと」

「ふふ、愛い奴め」

「ははあ〜」

「のお、ケンイチよ」

「はっ」


 歪めていた表情を破顔し、満足そうにケンイチへと声を掛けた国王。

 謁見の間には俺と国王、そしてケンイチの3人しか居なかった。


「だが、そうかあ・・・、う〜む・・・」

「陛下、よろしいでしょうか?」

「ケンイチ、申せ」

「はっ。何故、その召喚者達の国に行きたいんだ?」

「それは・・・」

「答えろ」


 ケンイチの疑問は尤もだが、俺は今回グロームの事を隠していた。

 ラプラス曰くグロームは自身と対等だという話だし、俺は特殊な状況では有ったがラプラスには勝てなかった。


(もし、神龍目的と言って狩る事に失敗すれば、俺のせっかく築き上げて来た信頼を失う事になる・・・)


 ローズやアンジュ、子供達の為にもそれは避けたかった。


「今更、里が恋しくなった訳でも無いだろうが?」

「勿論です」

「なら・・・」

「それは・・・、それでも知りたいのです」

「・・・ちっ」

「ふふ、良いでは無いか、ケンイチよ?」

「・・・はっ」

「・・・」


 ケンイチは俺の態度と国王の執り成しに、不満そうながら追求を諦めた。


「然し、3ヶ月とは長すぎるなあ」

「・・・」

「う〜む・・・」

「・・・へ」

「良し、あれを使うとするか」

「え・・・?」


 国王のあまりに深く思い悩む姿に、俺が一旦時間を置いてみようと声を掛け様とした矢先、国王は何かを思い付いた様に声を上げた。


「司よ」

「はい?」

「魔導戦艦の事は知っているか?」

「魔導戦艦・・・。はい、噂程度ですけど」

「そうか」


 国王が思い付いたのは、デュックとの話で出た魔導戦艦の事の様だが、其れが俺の旅と何か関係有るのだろうか・・・。


「当然だが新技術の導入を行なっているので、信頼の置ける者にテスト航海を行わせる必要が有るのだ」

「はい」

「然し、此れを他国に奪われたとなっては、我が国の一大事である」

「・・・」

「ケンイチにとも思ったが、其れでは遠洋でのテスト航海を行い、敵国に其れを察知された時にな・・・」

「はい」


 確かに、対アッテンテーター様に用意した魔導戦艦のテストの為に、王都の護りの要のケンイチが、王都から離れなければいけないとなると本末転倒だった。


「其のテスト航海を司に行なって貰いたいのだ」

「私にですか?」

「うむ。不服か?」

「いえ、とんでもありません」

「ふふ、そうかそうか」

「・・・」


 上機嫌に笑みを浮かべる国王。

 当然、国王からの依頼なら断るという選択肢は無かった。


「では、司よ」

「はい」

「魔工技師達にお主の船を改造させ、其の船を使い召喚者達の国へと向かうのだ。それならば3ヶ月の航海予定も短縮出来るし、新技術のテストも出来る」

「ははあ〜」

「うむ。ケンイチも其れで良いな?」

「はっ」

「良し、決まりだ。すぐに魔工技師達をディシプルへと出発させよう」


 こうして俺は国王から航海の許可を得たのだった。

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