第308話


「ぐぅっ‼︎」


 顎をしっかりと打たれ、俺は地面を転がった。


「・・・っ」

「司様、大丈夫ですか‼︎」

「あ、あぁ、ルーナ・・・」


 俺は駆け寄って来たルーナに無事を伝えた。


「すいませんっ」

「ふぅ〜・・・。いや、気にするな」


 ルーナは自身が掌底の力加減を間違ったと思い、落ち込んだ様子だった。


「ですが・・・」

「本当に大丈夫だ。訓練中に油断した俺が悪いんだ」

「はあ・・・」


 現在、俺とルーナは最近魔法を使用した訓練といえば此処、神木の下でルーナの新機能の訓練中だった。


「ふふ、情け無いわね司?」

「あぁ、本当にな」

「あら?素直じゃない?」

「本当の事だからなぁ。実際、掌底はともかく、縮地?は凄かったよ」

「ふふふ、でしょう?」


 俺達に同行していたフェルトは、日頃は淡々とした様子なのに、珍しく得意げに応えたのだった。


「瞬きの間ってこういう事を言うんだなぁ」

「でも、止まるのが難しかったです」

「そうねえ、其処は慣れね」

「はい」

「でも、気を付け無ければ駄目よ?」

「マスター?」

「止まる為にも魔力を使うのだから、魔力消費が増えるのよ」

「了解です、マスター」


 当然推進力に対する抑制を発動すれば、魔力消費は上がるという事かぁ・・・。


(人工魔流脈の質は上がっても、ルーナの魔力自体が上がった訳では無いのかぁ・・・)


「ふふ、どうしたの?」

「あ、いやぁ・・・。ルーナの魔力を増やす事って出来ないのかと思って」

「そうねえ、無理では無いわよ?」

「「え⁈」」

「ふふふ、仲良しねえ?」


 どうやら其の事はルーナも知らなかったらしく、俺達は同時に声を上げていた。


「って、ルーナも知らなかったのか?」

「はい、司様」

「ただ・・・」

「ただ?」

「重量は増えるわよ?」

「・・・っ⁈」

「重量って、其れは当然だろ?」

「え、司様っ」

「ん?どうしたんだ、ルーナ?」

「うぅ・・・、知りませんっ‼︎」

「え?」

「・・・」

「ふふふ、司は駄目ね」

「な・・・?」


 突然、不機嫌になったルーナに俺がドギマギしていると、その理由を理解しているらしいフェルトから理不尽なツッコミが入った。


(それは重量が増えれば、其れを動かす為の魔力はまた必要になるだろうが・・・)


 それでも、今後を考えると、ルーナのレベルアップは急務だった。


(学院も後1年。パーティメンバーもそれぞれの道を進むだろうしなぁ・・・)


 ルーナに関してはフェルトが国に帰らないという事は、アッテンテーターとの戦い以外では、ルーナの協力が得られるって事だからな・・・。


(でも、もし開戦し俺が参戦したら・・・)


 其の時を想像し、ルーナが其の時何方の味方をするのか?

 そもそも、国に帰らないと言ったフェルトが、アッテンテーターに協力するのか?


「はぁ〜・・・」

「ふふ、どうしたの?」

「ん?何でも無いよ」

「ふふふ。司に溜息なんて似合わないわよ?」

「そうです、司様」

「そうかぁ?」

「ええ。だって悩み事なんて無いでしょう?」

「ふふ、マスターったら」

「ふふふ」

「・・・」


 先の事を考え、悪い方へと想像が進んでいたのだろう。

 俺が無意識に吐いた溜息に、フェルトから非道いツッコミが入った。


「でも、本当に魔石を追加はしないのか?」

「司様っ」

「ふふふ、やり返されたわね、ルーナ?」

「マスター・・・」

「やり返すって・・・」


(俺は話を戻しただけなのだがな・・・)


「でも、魔石なら何でも良い訳では無いのよ?」

「其れは・・・」

「ふふふ、違うわ。質の問題よ」

「質かぁ・・・」


 何でも良い訳では無い。

 其の言葉に、俺が人工魔石の事か聞こうとすると、フェルトから其れを遮る様に答えが返って来た。


「上級って事か?」

「最低でもね。尚且つ小型で、そして軽量である方が良いわね」

「う〜ん・・・」

「ふふ、難しいでしょう?」

「あぁ・・・」


 ルーナには少なくとも、2つ以上の魔石が搭載されているのは分かっている。

 1つは人工魔石、そして他にも上級以上の魔石が載っているって事かぁ・・・。


「小型で軽量って事は、海龍や飛龍の物では駄目だよな?」

「勿論。大き過ぎるわ」

「そうなると、ダンジョンで・・・」

「ふふ、そうねえ」


 思い浮かんだのはダンジョンだったが、其れは確実に入手出来る訳では無い。


「あっ・・・」

「あら?どうしたの?」

「い、いや・・・」


 俺の脳裏に浮かんだのは終末の大峡谷だった。


(だけど、貰えるかなぁ・・・)


「ふふ、何か覚えが有りそうね?」

「まぁな・・・」

「でも、難しいと思うわよ?」

「・・・フェルト」

「ふふ、だって、あの感じだったでしょう?」

「あぁ・・・」


 彼処に行った時、フェルトは同行していた為、俺が何を考えているかフェルトは察したらしかった。


(ただ、フェルトの言う様に難しいのも確かだろう)


 俺は一度頼みに行ってみようと思ったが、あの時の周囲から感じた敵意の様な気配が気掛かりだった。

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