第307話
「それじゃあ・・・」
「な、なぁっ」
「あら?どうかしたの?」
俺はいよいよルーナを起動しようとしたフェルトに待ったを掛けた。
「フェルトは、その・・・」
「?ふふ、何かしら?」
「・・・」
言葉に詰まった俺を、フェルトは覗き込む様にし言葉の続きを促した。
(これは・・・)
最近よく見る構図・・・、ローズがまだまだ喋りの上手くない颯や凪に良くする姿勢だった。
(ママ・・・、かぁ・・・)
頭の中で浮かんだママという単語に浮かんだのは、ローズの顔と・・・。
「フェルトのお母さんって、どんな人なんだ⁈」
「えっ・・・」
「いや、そのぉ・・・」
「・・・」
「・・・」
「ふっ・・・」
「?」
「ふふ、ふふふ。急にどうしたの?」
「ぅ・・・、いやぁ、そのぉ・・・」
俺は先日のフェルトの寝言を思い出し、つい妙な事を聞いてしまい、それがフェルトにはツボだったらしく、吹き出し笑いだしてしまった。
「ふふふ、ふぅ〜・・・。司って、本当に面白いわねえ?」
「ぐっ・・・」
「ふふ、どうして急にそんな事が気になったの?」
「ま、まぁ、何となく・・・、かな?」
「そう?」
「・・・」
「そうねえ・・・」
笑いでそのまま流されるかと思ったが、フェルトは意外な事に考える素振りを見せ・・・。
「あまり、私と似てないわよ?ドジだし、人懐っこいし・・・」
「え?」
「ふふ、親子だからって、必ず似るとは限らないでしょう?」
「ま、まぁ、そうだけど・・・」
「あと、家事の能力も無いわねえ」
「・・・」
家事の能力が無い・・・。
そう言ったフェルトの言葉に、俺は散らかった室内を見回した。
(其処は似てるよなぁ・・・)
「ふふ、今失礼な事を考えたでしょう?」
「えっ、いや、そんな事無いぞ?」
「ふふふ」
「・・・」
「まあ、良いわ」
フェルトはそう言ったが、続ける様に室内の物の配置は自身で把握出来ていると言って来たのだった。
「あと、似ているところといえば、母も研究者だった事かしら」
「そうなのか?」
「ええ。家の家系の中でも指折りのね」
「へぇ〜、其れは・・・」
フェルトは此の手の事でお世辞を言う奴では無いし、母親はかなり優れた研究者だった事は分かった。
(ただ・・・)
気になったのは2つ。
1つは母と呼んだ事だが、これは流石に他人に対して話す時にママとは呼ばないだろう。
だが、もう1つは・・・。
「だった・・・、のか?」
「ええ。もう逝ってるのよ」
「そうかぁ・・・、すまないな」
「ふふ、どうして?」
「い、いやぁ・・・」
「ふふふ、司って本当に・・・」
「・・・」
フェルトの様子からは何処か懐かしむものを感じられ、既にフェルトの中ではケリのついてる事なのだろうと思った。
「ふふ、司が変な事を言うから・・・」
「変な事って・・・、ん?」
フェルトはアイテムポーチから掌サイズの缶を出し、其処から輝く一粒の球を取り出し口へと放り込んだ。
「ふふ、・・・あむ」
「其れは・・・、飴?」
「んん、ひょうよ」
「・・・」
最初、薬かとも思ったが、頬張り舌で味わう様子から其れが飴だと分かった。
(ん?此の香り・・・)
フェルトが飴を口に含むと、彼女特有の甘い香りが辺りを包んだ。
「飴・・・、だったんだな?」
「え?・・・ふふふ、そうよ。言って無かったかしら?」
「あ、あぁ・・・」
どうやら、俺の伝えたかった事は正確にフェルトに伝わったらしかった。
「母がよく作ってくれたのよ」
「そうかぁ・・・」
「料理も裁縫も、髪の編み方も教えてくれなかったのに、女の子なのだから良い匂いしないとって言ってたわ・・・、ふふふ」
「・・・」
「変わってるでしょう?」
「・・・いや」
「ふふふ、そう?」
フェルト曰く花から抽出したエキスを使い作るらしく、舐めると全身から香りを発するとの事だった。
「あ〜ん?」
「・・・っ⁈」
「ふふ、ほら、どうしたの?」
「あ、あぁ・・・」
飴の説明を終えるとフェルトは飴を一粒掴み、俺の口元へと差し出して来た。
其れを受け入れると・・・。
(此れは・・・)
甘さが口一杯に広がると同時に、全身を内から包み込む独特な甘い香り。
俺は其の香りに夢見心地になってしまい・・・。
「どうかしら?」
「美味しいよ」
「ふふ、そう?」
「フェルトは・・・」
「・・・」
「フェルトは学院を卒業したら、どうするんだ?」
「どうするって?」
「国に帰るのか?」
「ふふ、帰らないわよ」
「・・・」
「・・・、帰れ・・・」
「え?」
「ふふ、さあルーナを起こしてあげましょう?」
「・・・あ、あぁ」
「ふふふ」
国へは帰らない、其の後に続けたフェルトの言葉。
其れが聞き取れず聞き返そうとしたが、其れはフェルトに流されてしまったのだった。
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