第306話
「よお、フェルト」
「ふふ、いらっしゃい」
後日、再びザックシール研究室を訪れた俺。
今日はフェルトも起きていて、何やらルーナに作業を施している様だった。
「ん・・・?」
「ふふ、言ったでしょ?ルーナの強化を図りたいって」
「あぁ、そうだったな」
フェルトによるとルーナに施している強化は、一度に流せる魔力を増やす事による基本的な出力上昇。
「それって?」
「ふふ、そうねえ・・・、基本的には身体能力向上による近接戦闘能力の向上と、出来れば簡易の飛行機能を追加したいわね」
「簡易の、なのか?」
「ええ。流石に継続飛行は魔力消費が多いから、稼働時間を短縮する事になるのよ」
「なるほど」
そう言ってルーナの髪を指で撫でたフェルト。
(ルーナにとって魔力切れは仮死状態の様なものらしいし、ルーナをそんな状況にしたくないのだろうな)
「ルーナの魔石って・・・」
「ふふ」
「人工魔石・・・、なのか?」
「・・・さあ?」
「・・・」
「ふふふ。またルーナを心配させる事になるわよ?」
「・・・っ⁈」
俺からの問い掛けを不敵な笑みを浮かべ、受け流したフェルト。
その言葉こそきついものだったが、その口調は家の事に触れた時程きついものでは無かった。
「・・・」
「ふふ、まあ良いわ」
「え?」
「ルーナも停止しているし、丁度良いわね」
「じゃあ・・・」
「ふふ、でも何でも教えてあげる気は無いわよ」
「え、えぇ・・・」
「ふふふ。ルーナには搭載してある2つの魔石の内1つは確かに人工魔石よ」
「・・・っ」
やはりで良いのだろうか・・・?
フェルトから告げられた内容は、心の中では分かっていた事だが、何処かで其れを口にする事を避けていた内容だった。
「でも、そんな危険な物をルーナに搭載してるとは・・・」
(フェルトからは間違い無くルーナへの愛情を感じられたのだが・・・)
俺は意外だと感じたのだが・・・。
「ふふ、ふふふ」
「え、どうした?」
「ふふふ」
「ぅ・・・?」
「ふふ、ごめんなさい。でも司、其れは誰から聞いたの?」
「え?それは・・・」
「ふふ、どうせリアタフテでしょう?」
「・・・あぁ」
「ふふふ、人工魔石が危険・・・、ねえ」
「・・・」
人工魔石の危険性については、フェルトは何か思うところがあるらしく、俺へと語り掛けて来る口調は、何処か無知に対し馬鹿にする様なものだった。
「ねえ、司?」
「ん?何だ?」
「私は別に人工魔石について肯定派では無いのよ?」
「え⁈」
「ふふ、意外かしら?」
「あ、あぁ・・・」
「ふふふ」
フェルトは自身の発言に対する俺の反応に問い返して来たが、俺としては当然の反応のつもりだった。
「ただ・・・」
「ただ?」
「私は通常の魔石を消費しているのに、人工魔石に対して批判を口にする人間は肯定出来ないわね」
「どうしてだ?」
「ふふ・・・、秘密」
「・・・」
(人工魔石の危険性について、フェルトの言い分だけを完全に信じる事は出来ないが、フェルトは通常の魔石にも危険性が有ると言いたいのか?)
ただ、そうなると通常の魔石の危険性というのは・・・?
俺は其の内容を知りたかったのだが、フェルトは其れを教えてくれる様子が無かった。
「人工魔石って、どうやって作るんだ?」
「・・・」
「フェルト?」
「ふふ、司?」
俺はまた何かフェルトの触れられたく無いものに触れてしまったかと思ったが、フェルトの表情からは怒りよりも何処か寂しそうなものが感じられた。
「其れに答える筈無いでしょう?」
「まぁ・・・、な」
「ふふふ。残念でした」
「・・・うっ」
「ふふふ」
フェルトは表情に浮かんでいた寂しそうなものをすぐに隠し、いつもの無表情と、何処か人を揶揄う様な口調で語り掛けて来たのだった。
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