第290話


「此処かぁ・・・」


 城から出た後、俺は衛兵に用意して貰った地図を頼りに、ポワンの道場へと来ていた。


「おぉぉぉ‼︎」

「はあぁぁぁ‼︎」

「割に流行ってるのか?」


 道場から聞こえ来る、獣の咆哮にも似た怒声。

 丈夫そうな外観を持つ建物の壁は、中で行われていると見られる訓練で、揺れているのが見えた。


「すいませーーーん‼︎」


 俺は響き渡る怒声に、負けない様に叫びながら道場へと入ったのだった。


「ほお〜、ケンイチがな」

「はい、ポワンさんは?」

「悪いが、お師匠様は現在旅に出ている」

「そうですか」


 ケンイチから聞いていた通りポワンは旅に出ているらしく、俺は出迎えてくれた『ユンガー』という、剃髪で浅黒い肌の鍛え上げられた体躯を持つ、ポワンの弟子だという男にケンイチからの手紙を渡したのだった。


「どうだ、ケンイチは、達者か?」

「はい、元気でやってますよ」

「そうか、リールは?と言っても会う事が無いか」

「いえ、リール様も元気ですよ。後、パランペールさんも」

「おお、パランペールもか・・・、ん?」

「申し遅れました。私は司=リアタフテと言います」

「リアタフテ・・・、おお。じゃあローズの?」

「はい、婿です」

「そうだったか、そうだったか。もう、ローズもそんな歳なんだな。10年は会ってないからな」

「ユンガーさんは?」

「ああ。俺もお師匠様と一緒に、その昔ケンイチのパーティに参加していたのだ」

「そうでしたか」


 どうやら、ユンガーは昔ケンイチ達のパーティの一員だったらしく、ローズとも面識が有る様だ。


「婿って事は、ローズは?」

「はい、子供も生まれたので、今はリアタフテ領の領主になりました」

「そうか、男?女?」

「両方です。双子なので」

「おお、それは目出度いな」

「はい」

「そうか、そうか」


 心底喜んでくれている様子のユンガー。

 俺は少し気恥ずかしさを感じたが、ありがたいと思った。


「ケンイチの仕事が無ければ、また旅に出れるんだろうがなあ」

「ケンイチ様達とはどの位旅を?」

「常時旅をしていた訳では無いからなあ、併せて1年位。まあ、俺は学院で一緒だったからな」

「スタージュ学院ですか?」

「ああ、司も通っているのか?」

「ええ」

「学院長は?元気か?」

「はい」

「そうかあ、うんうん」

「では、ケンイチ様やリール様とは学院で?」

「ああ、師匠も講師として来た時にな」

「そうだったのですか」


 ケンイチと同級生というユンガー。

 確かにユンガーの容姿を見ると、ケンイチとほぼ同世代の様に見えた。


(ポワンは講師って事は歳上なのだろう)


 そんな風に想像していると、ユンガーはポワンが既に80を過ぎていると教えてくれた。


(80って・・・、ケンイチとパーティを組んでた時には既に70以上だったて事か)


 ポワンという人物がどういう人なのかは分からないが、相当な実力者である事は分かった。


「それで、司は旅の途中なのか?」

「いえ、実は・・・」


 俺はユンガーに自身がランコントルに来た理由を説明した。


「ほお、確かに最近おかしな事が起こっているらしいが」

「家畜が襲われたと聞いたのですが?」

「地方の村らしいな。王都に来れば俺が狩ってやるのに」

「やっぱり冒険家をしていた時は、飛龍を狩ったりしてたのですか?」

「ああ、かなり巨大な奴をな」


 強気な態度のユンガー。

 以前、ケンイチの実力や、其のケンイチが自分より強いと言うリールとパーティを組んでいたのだから、此のユンガーも相当な実力であろうと想像出来たし、決して大口を叩いている訳では無いだろう。


「だが、それ程の仕事を任されるという事は、司もかなりの手練れなのだな」

「どうでしょうか?」

「ふふ、これから飛龍の巣へ一人で向かうのに、そんなに落ち着いている事が何よりの証拠だ」

「はぁ・・・」

「吉報が流れるのを待っておくぞ?」

「はい」


 こうして俺は道場を後にし、宿に戻り任務に向けて早めに休んだのだった。

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